9-3 王者への挑戦
大会十日目。
試合の二時間前にも関わらず観客席は満員となっている。三万という数を易々と埋め尽くす観客の誰もが今回の決勝戦の試合を楽しみにしている証拠だろう。VIP席には日本の首相を初め、多くの著名人が貌を並べている。その中に、アシュレイの父であるギルバートも出席している。選手席には、多くの出場選手が二人の試合を待ち構えるように座っている。
実況席には自慢の一張羅に身を包んだコリンと、いつもと変わらぬ様子のマリクが既に準備を進めている。試合は十二時丁度からであるが、観客の入りを考慮し、早々と出番が来たようだ。
「皆さん、こんにちは!実況のコリン・ワンです。いよいよ今大会も天王山。この試合を待ちに待った皆様もこれから行われる試合を楽しみにしているとは思いますが、しばーしお持ちください。試合までの時間、決勝に残っている両選手の紹介を改めてしたいと思います!解説は勿論、マリク・ゼーゼマンさんです」
会場の巨大スクリーンにマリクの貌が映る。
「宜しくお願いします」
いつもの坦々とした様子は変わらない。
「さて、先ずは今大会も無敵の強さで決勝まで駒を進めたアシュレイ・ディーリング選手。今までの試合は全て一ラウンドのTKO勝ち。愛機『ニーズヘッグ』も今大会では未だ『ファタイディゲン』モードのみしか使用しておりません。マリクさん、やはり今大会もアシュレイ選手の強さは他選手と一線を画しているとみて間違いないでしょうか?」
「そうですね。しかしながら、今大会では随分と珍しい組み合わせとなったのも、彼が力を温存している理由かと思います」
「と、云いますと?」
「オープントーナメントでは、ランダムに世界ランキング上位者がシード席に着く事になります。それが、今回は驚く程偏っていた。アシュレイ選手とそれ以外の選手というようにね」
マリクのコメントを見計らったように、スクリーンにトーナメント表が映し出される。
「ふむふむ・・確かに仰る通りですね。神の悪戯か、アシュレイ選手以外の三選手は決勝戦までの道程の中で必ず闘う事になる組み合わせでした」
「尤も、それを悉く打ち破った選手がいますがね」
コリンは待ってましたとばかりに目を光らせる。
「その通りです!アシュレイ選手に対抗する今大会のダークホースと云っても過言ではない。二人の世界ランカーを破り決勝戦に勝ち残ったユウキ・シングウジ選手です!彼は試合の度に戦闘スタイルを変え、未だ力の底を見せておりません。そう云った意味で、力が未知数なのはユウキ選手も同じでしょうか?」
「未知数と大仰な事は云えませんが、少なくとも私の目には、彼もアシュレイ選手と同様に《切り札》を隠しているように見えます。正確には隠しているわけではなく、魔法武器のリミッターが関係していると思いますが」
決勝戦では魔法武器のリミッターが全て解除される。云わずもがなであるが、魔力が制限されている状態では使用出来ない技も多い。
「リミッターが外れている状態というのが、本来の彼等の魔術師としての形です。ならば、今までと比較にならない程の高出力の技を繰り出しても、何らおかしい事ではありません」
「なるほど!では、この試合、全世界の皆さんの度肝を抜く大技が見られるかもしれないという事ですね?」
「はい。その可能性は高いでしょう」
観客席から会場全体が揺れるような歓声が上がる。会場は益々ヒートアップしていき、コリンの饒舌も留まる事を知らない。試合開始までの時間はあっという間に過ぎていった。
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