8-5 好敵手達

 会場内は異様な熱気に包まれていた。

 観客の視線は二人に釘付けとなっている。だが、その目は《いつもの》マジックファイトを楽しむものとは違っていた。

 確かに、違ってはいる。が、間違ってはいない。

 人間の持っている根源的な闘争心が彼等の熱気を煽っているのだ。

 狂わせているのだ。

 狂喜乱舞させているのだ。

 人の熱量は、世界の空気さえも震わせてしまう。


 アイリーンは会場内の観客席でその異常さに寒気を感じていた。

 背中に冷たい指先を這わせるような、生理的に不快感を覚える。

―――これがマジックファイターの闘いだというの!?有り得ない・・

 血飛沫が飛び、思わず目を逸らす。

「―――なんて醜い・・」

 不快感の次に沸々と心中から湧き上がって来たのは嫌悪感だった。

 リュウ・ミナカミ。

 そして、ユウキ・シングウジ。

 彼等の闘いは観るに堪えない。それどころか、何万という世界中のマジックファイターを侮辱し、冒涜している。


「随分と不機嫌そうだね、アイリーン?」


 背後から現れたのは、アシュレイ・ディーリングだ。彼は実に楽しそうな貌をしている。アイリーンとは全くの正反対だ。

「当たり前でしょう?このような試合を見せられて怒りを覚えない者はいないっ・・」

「実に《君らしい》ご感想だね」

 アシュレイは鼻唄を謡いながらアイリーンの隣に腰を下ろす。

「貴方はあの闘いを見て何も思わないの?」

 棘を刺すような物云いに、アシュレイは肩を竦める。

「少なくとも君のような感想は抱いていない」

「貴方にはプライドがないの?」

 あくまでも声は荒げない。水面下に沈む枯れ葉のように周囲には憤慨を悟られまいとしている。

「あるよ。あるからこそ、僕は彼等の闘いを賞賛する」

「賞賛・・ですって?」

「ああ。彼等は最後まで自身の勝利のために闘う《ファイター》だ。その矜持を僕はとても羨ましく思うよ」

 無駄。

 この男とこれ以上の会話は無意味だ。アイリーンはそう判断し、にこやかに笑うアシュレイから視線を外した。

―――いずれにせよ、次の試合。どちらが勝ち上がって来ようと、私が完膚なきまでに叩き潰してあげる。精々、醜い争いを続けるといいわ・・!!

 勝者としての矜持たり得ない試合に価値はない。アイリーンは二人を見下しその場を後にした。

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