8-1 好敵手達
四回戦の全日程が終了し、残り選手は八名となった。
準々決勝からは試合会場は一つとなる。その準備期間を兼ねて二日間の束の間の休暇が与えられるという事もあり、選手達はその時間を各々好きに使っていた。
アシュレイはホテルの最上階にある高級レストランで昼食を取っている最中だった。ナプキンで口元を拭いていると背後に気配がする。それは良く知っている人物だ。
「御機嫌よう、アシュレイ」
アシュレイは振り返ると、
「やあ、アイリーン。こんなところでどうしたんだい?」
アイリーンは不遜な笑みを浮かべると、アシュレイの正面の椅子に腰掛けた。掌を重ねその上に顎を乗せると、
「貴方が《ご執心》の選手がいると聞いてね。少しお話がしたかったのよ」
「耳が早いね」
アイリーンは話を続ける。
「正直云って私には全く理解出来ないわ。ユウキ・・シングウジ、といったかしら?初心者にしては頑張っている方だとは思うけれど、私達の前ではただの《雑魚》よ」
唾を吐き捨てるようにアイリーンは罵る。
「随分と今日は辛辣だね、アイリーン?」
栗鼠のように微笑むアシュレイには対し、アイリーンは背凭れに腰掛け脚を組む。
「まあ、四回戦でのあの戦法は中々面白かったわ。敵の砲撃に正面から向かっていきながら砲撃接触の直前にフィールドを蹴り上げ、避けるのと同時に空中で体勢を整える。そして、自分自身を弾丸のように魔法陣で打ち出した・・尤も、私であればあの程度避けるまでもないけれど」
アイリーンは自慢げに語る。
「そうだね。君の闘いは彼のように《賢い》ものではないからね」
アシュレイはコーヒーを一口口に運ぶ。アイリーンの目元が一瞬ぴくりと反応する。が、アシュレイの戯れ言を無視し、アイリーンはそのまま話を続ける。
「貴方が彼を評価しているのは何故?」
「どうして君がそんな事を気にするのかな?」
「当然の事よ。貴方が世界ナンバー一で、私はその地位を狙っている。それだけの話よ」
アシュレイはアイリーンという人物を良く知っている。
過去三年、アイリーンは幾度となくアシュレイに挑み悉く敗北している。彼女の高いプライドと家柄の誇りを鑑みれば、彼女の考えている事は明白だ。
要するに、気に入らないのだ。
アイリーンからすれば、アシュレイが気にするべき相手は自分でなくてはならない。これから闘うべき敵は自分でなくてはならない。それこそが《好敵手》という存在だ。
「君らしい・・と云いたいところだが」
アシュレイは席を立ち上がり、アイリーンを見下す。絶対的な力の差を知らしめるように。
「そんな事も分からないから、君は僕に勝てないんだよ」
アイリーンの貌が見る見る内に紅葉のように紅潮していく。一瞬だけ腰が浮いた気がしたが、アイリーンは自分の心を抑えるつけるように、椅子に腰を落ち着ける。
「・・その言葉、跪いて訂正させてあげる」
「君が僕の前に跪くの間違いだろ?」
二人は睨み合ったまま暫く動かなかった。やがて、アシュレイが視線を外し、その場を後にした。残されたアイリーンはアシュレイが去った入り口を睨み付け、
「今度こそあの男は倒してみせる・・」
首を絞り上げるような声で呟いた。
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