6-5 初陣
大会三日目。
レナは日本代表選手用の控え室で念入りにストレッチを行っていた。日本代表は合計十一名。シード選手を入れると、二回戦に残っているのはレナも含めて七名だ。その中の一人に、世界ランキング七位のリュウ・ミナカミもいる。
レナの試合がいよいよ迫り、チームメイトからは激励の言葉が飛ぶ。
「レナなら絶対勝てるよ!」
「今まで練習してきた事全部出し切ろう!」
「負けた俺達の分まで頑張ってくれ!」
そのどれもが、レナを勇気づける言葉だった。レナはそれに笑顔で応えていく。しかし、レナはそんな自分が嫌な奴だと、内心で後ろめたさを感じていた。チームの皆が自分を心から応援してくれている事は、今まで共に練習してきた中で十分に分かっているつもりだ。
が、その言葉達を簡単に覆す程の言葉を、レナは昨晩受けていた。それが心臓の奥に刺さっているような感覚が今も拭えない。
「レナ」
コーチが手招きしてレナを呼び出す。「はい」とレナは返事をすると、コーチの前に立つ。コーチは眉間に皺を寄せ難しい貌をしている。
「次の相手のユウキ・シングウジはお前と同じ天龍寺学園の生徒だそうだな?」
「・・はい。そうです」
レナは心の中でほっと息を付いた。コーチの口振りからすると、ユウキがレナの幼馴染であるという事は知らないようだ。
「彼と面識はあったりするか?」
「・・いえ」
レナは嘘を付いた。
「そうか・・いや、変な事を聞いて済まない。昨日も話したと思うが、データがほとんどない選手だから対策を立てようが無くてな」
「しょうがないですよ。昨日の試合が初めてという話ですし」
敵となる相手を分析し対策を取るのは戦略としては月並だろう。しかし、それが勝利する為の地道な近道である。レナのコーチは敵選手の試合映像を収集し、徹底的に敵の弱点を潰しにいく事を心掛けていた。勝つ為には、相手の弱点を突く事が最も効果的だからだ。
「昨日の試合を見て分かっているのは、彼が近接戦闘タイプであるという事だ。武装は騎士タイプと格闘タイプの二種類を使い分けていると考えるべきだろう。今日はどちらで来るかは分からないが、近距離戦はなるべく避けるべきだろう。初めは距離を取りつつ相手の出方を見る。間合いを一定に保ちながら、持久戦へと持ち込め。昨日見せ付けた爆発的な魔力はそうそう長続きはしないはずだ」
「分かりました」
「よし。頑張って来い」
コーチに肩をぽんと叩かれ、レナは控え室を後にした。バトルフィールドに続く通路を歩いていくと、心臓の音が頭の奥で響くように大きくなっていく。大勢の観客がいる中で試合をする事が決して原因ではない。相手が敵がユウキであると考えるだけで、胸の中で色々なものがぐらつくのだ。
宣戦布告までして振り切ろうとした想いが今になって貌を出す。レナは大きく首を振り、もう一度光が差す入り口を見据える。あの光の中に行けば、闘うしかない。逃げ道もない。
これからレナは自分にとって最悪の敵と対峙する事となる。それだけは分かり切っていた。
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