4-2 ダンス・イン・ザ・マジカルランド

 ゴールデンウィークの最終日となっても、マジカルランドは人の波でごった返していた。満員御礼と云わんばかりに、どのアトラクションも、どのレストランも、どのショップも、老若男女、家族連れからカップルまで多くの人が来場している。

 天気は快晴。雲一つない行楽日和だ。

 ユウキとレナもご多分に漏れず、人混みの中をぶらぶらとしていた。隣で歩いているレナはそれはもう上機嫌でマジカルランドのキャラクターの帽子まで被っている。朝の開場から人気のアトラクションを回っているが、ユウキ達は快適にそれらを楽しんでいる。

「ユウちゃんのお父さんの知り合いの人に感謝しないとね。どこに行っても直ぐにアトラクションに乗れるなんてすっごく贅沢な気分だよ。他の人にはちょっと悪い気はするけど」

「こういうのもたまにはいいんじゃないか」

「そうだね。そういうことにしとこ」

 混雑しているアトラクションは短くても三十分待ち、長くなると一二〇分待ちもざらだ。優先入場システムのファストパスも全員が使えるわけではなく、定員人数に達せば締め切られてしまう。しかしながら、ユウキ達はそれらに縛られる事はなく、実に快適にアトラクションを楽しんでいた。

 ユウキは携帯端末にダウンロードされているデジタルチケットをまじまじと見詰める。マジカルランドのロゴで、メインキャラクターが装飾された一般的なチケットだ。しかし、通常のものとは色が異なる。通常のものは薄い空色をしているが、ユウキとレナが持っているものは薄い黄色だ。

―――恐るべしNIMA。まさかこんな世界的なテーマパークの特別優待の権利まで持ってるとは・・

 ユウキは五日前の出来事を思い出す。特訓の休憩中にミリアルドとセルフィに一日だけ休みが欲しいという話をした時だ。


『元々一日は休みをあげるつもりだったから問題ないよ。日にちはユウキ君が指定してくれて構わない』

『ありがとうございます!』

 休みの許可はあっさりと貰う事が出来た。

 ミリアルドはスポーツドリンクを飲み干すと、

『どこかに行く予定でもあるのかい?』

『ちょっとマジカルランドまで』

『もしかして《デート》かな?』

 ミリアルドの眼がキラリと光る。ある言葉を強調しているのも彼らしい実直さだ。

『そんなところです』

 ユウキは平静を装いさらりと答えてみせる。

『なるほど。―――そうだ!よかったらこれを使うといいよ』

 思いついたようにミリアルドが携帯端末を取り出し何やら操作している。すると、ユウキの端末にメールが届いた。中身を確認すると、マジカルランドの特別優待チケットらしい。

『NIMAの幹部の一人があそこの大株主でね。羽振りがいい話で、その特別チケットを僕等みたいな一部の関係者に配布しているんだ。そのチケット一枚で最大三人は入場可能で、何とアトラクションも優先的に乗り放題。その上、一年間ずっと使い放題だ。中々のものだろう?』

 ユウキは恐縮した様子で、

『そんなものいただいてもいいんですか?俺は関係者じゃないし』

『何云ってるんだ。君は既に立派な関係者だろ?新型魔法武器のテストパイロットという立場で既にNIMAに登録も済んでいる。その為にしっかりと書類も書いた貰ったし、お父上の了承も得たのだろう?』

 ミリアルドの云い分は正しい。

 未成年が研究機関に協力するなど無断で出来るわけもない。ユウキはAegisを受け取った後に、正式な手続きを得てNIMAの嘱託研究員扱いとなっている。仮発行していた入館許可証も、正式発行されたものにいつの間にか差し代わっていた。

 ユウキは納得したように頷くと頭を下げる。

『ありがとうございます。これは遠慮なく使わせていただきます』

『ああ。彼女と一緒に楽しんでおいで』

『いいなー。私も行きたい』

 セルフィがユウキの隣に座り強請るように発言する。

『やめろ、セルフィ。お前は後で俺が連れて行ってやる』

『ミリーじゃなくてユウキと行きたいのー』

『だからそれが駄目だと云ってるんだよ』

 ミリアルドは頭を抱えて溜め息を付いた。


 NIMAの守備範囲の広さを改めて思い知らされた時間だった。噂によると、名立たる大手企業の殆どの業種にNIMAの関係者が入り込んでいるらしい。どの企業もNIMAに頭が上がらないのは道理でもある。

「どうしたの、ユウちゃん?」

 レナがカスタードクリームたっぷりのドーナツを頬張りながら尋ねる。

「次何乗ろうか考えてただけだよ」

「次は絶叫系のヤツがいい!」

「そうしよっか」

「そうしよう!」

———今は楽しむ事だけを優先しよう。つまらない事を考えるのは後でも出来る。折角のチャンスは楽しんでこそだ!

 ユウキはレナと一緒に次のアトラクションへと向かった。

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