3-4 Aegis

「くっそぉおお!!」

 ユウキは悔しそうに叫び声を上げ飛び起きた。

 これでAegisには何敗しただろうか。百から先は面倒臭くて数えていない。彼女が使用する『魔力開放(フェアシュテルケン)』からの爆発機な推力と破壊力は、通常の防御で受け切る事は出来ない。

 『魔力開放(フェアシュテルケン)』の原理は単純だが安易に出来る芸当ではない。自身の身体の魔術核だけでなく、外部から魔力を取り込んで、火線に火をつけるように一気に燃やし尽くし力に転換する。魔力の精緻な制御がなければまず不可能だ。

 ユウキは自身の魔力と外部の魔力の制御を上手く調和出来ていないのだ。時間を掛ければ可能だが、数秒となると全くといっていいほど笊になってしまう。

―――俺も早くあの技をマスターしないと・・・

「急に大きな声上げてどうしたの?怖い夢でも見た?」

 正面に座っているレナは目を丸くしている。

「何でも無いから。あぁ、何か変な夢でも見てたかなぁ?」

 ユウキは慌てて取り繕い誤摩化す。昼寝をしていると見せ掛けて、実はイメージトレーニングをしていて撃墜されました、など云えるわけもない。

「そっか。それならいいけど」

「ああ。気にしないでくれ」

 レナはそれ以上は追求せずに引き下がってくれた。

 それで一安心したのも束の間、

「ユウちゃん?」

「なに?」

 ユウキがテーブルに置いてあるペットボトル飲料を口に含んでいると、レナが《さりげなく》声を掛けて来た。

「もうすぐゴールデンウィークでしょ?」

「ああ、そうだな。そういわれればもうか」

 ユウキは部屋に貼ってある壁掛けカレンダーを見る。最近は特訓漬けの毎日を送っている所為で曜日感覚がおかしくなっているらしい。光陰矢の如しとはこの事を云うのだろうとしみじみ思う。

「一緒に『マジカルランド』行こうよ。最近リニューアルして凄いらしいよ」

「『マジカルランド』?」

 『マジカルランド』は魔法の国にご招待というコンセプトの基に作られたアミューズメントテーマパークだ。世界各地に展開されており、日本でも人気の観光スポットとなっている。三ヶ月前に完全リニューアルが終わり、俄に人気が再燃しているのだ。

「子供の頃はよく行ったよね」

「一年に一回は必ず行ってたよな。レナの家族とウチの家族で」

「今年は二人きりで行きたいなぁ・・」

 明らかにレナの声色が変わった。長年一緒にいるので直ぐに分かる。この声はレナの《おねだり》の時のものだ。レナは主に父親をこれで陥落させている。ユウキは恐る恐るレナの方に向き直る。

―――やっぱりな。

 レナは物欲しそうな眼でこちらを見詰めている。

 ゴールデンウィークは毎日、一日中、特訓に費やす事になっている。レナから誘いを受ける事を想定はしていた。色々と云い訳は考えていたが、そんな眼をされると断り辛くて仕方がない。

 海外に取材に出掛けている父の世話をしに行くという云い訳はレナには通じない。ユウキとユウキの父の関係は熟知されているからだ。

―――何とか時間の遣り繰りをして行くしかないな。

 ユウキは思い付いたようにレナの提案に乗った。

「そうだな。久しぶりに行こうか」

 レナの表情が蕾から花開くように明るくなっていく。

「うん!じゃあ、いつにする!?私ね、一杯乗りたいアトラクションあるの!」

 レナはユウキの隣に小走りで移動すると、携帯端末のスクリーンを展開させる。そこには『恋人と一緒に行くマジカルランド特集』と号された特集記事がある。ユウキは少しだけそのキャッチフレーズにどぎまぎする。しかし、そんな事は噯気に出さないよう努める。

「時間あるしゆっくり考えよう」

「うん!すっごく楽しみ」

 そんな笑顔を見せるのは反則だ。ユウキは嬉しそうに笑うレナの貌を横目で見ながら、楽しみになっている自分がこそばゆかった。

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