3-3 Aegis

『外は随分と騒がしいようですね、ユウキ?』

「レナの友達が遊びに来てるんだよ」

『そうですか。まさか、ユウキが起きているとは思っていないでしょうね』

「それはそうだろ。現実の俺は本当に寝てるんだからさ」

 Aegisと会話をするのも随分と慣れていた。それと同じように、自分が魔装を纏っている姿にも、空を浮かんでいる事にも慣れてきていた。

 周囲は見渡す限りの青い空と青い海。雲一つ無く水平線がどこまでも続いている。これが全てAegisが作り出した戦闘訓練用の疑似空間というのは驚きだ。

 疑似空間内では、Aegisは人の形態を取っている。鎧を纏った騎士が空中を浮遊しているのは何とも違和感のある姿だが、剣を構えると様になるのは、彼女が騎士として完成しているからだろう。ユウキ自身もAegisと同じ鎧を纏い、同じ剣を構えている。

『では、今日の昼休みの特訓、最後の打ち合いといきましょうか、ユウキ』

「ああ」

 ユウキとAegisは同時に構えを取る。

 Aegisはユウキに《自身》の使い方を徹底的に叩き込む。それだけを朝昼毎日行っていた。それが魔術の基礎訓練になるからだ。

 ユウキは現実世界で一度もAegisを発動させていない。ミリアルドとセルフィから、力を付けるまでAegisを使用する事を禁じられているのだ。魔法武器を使い熟すための基礎作りが今は大切だいう話らしい。ユウキもAegisもそれには賛成している。

 が、大会まで時間がないのも事実だ。そこで、イメージトレーニングという形でAegisを使用する事は特別に許可されたのだ。お陰でユウキはAegisの強さを身を以て知る事になっている。

『参ります』

 Aegisは握った剣を胸元に引き寄せると、瞬く間にユウキとの間合いを詰める。Aegisは瞬時に足下に魔力を収束させ、それを自在に制御する事で爆発的なな速さを実現させているのだ。初めてAegisと戦った時には、その速さに全く付いて行けず一撃で撃沈した。

 しかし、今は違う。

―――見える!

 ユウキは最小限の動きでその剣を往なしてみせた。端から見れば簡単な動きにしか見えないだろう。しかし、剣技とはそういうものだ。紙一重の違いで身体が断たれ、首が飛ぶ。

 ユウキはAegisの剣を切り返しそのまま攻めに転じる。

「はぁああっ!」

 Aegisの構えを崩し一気に横薙ぎに剣を振り切る。しかし、Aegisは難なくその攻撃を受ける。

『良い動きをするようになりましたね、ユウキ』

「俺だっていつまでも弱いままじゃいられないからな」

 鍔迫り合いから二人は間合いを広げる。そこから二人は同時に飛び立ちまるで戦闘機のように空を縦横無尽に駆け上っていく。二人が移動する軌跡が接触する度に火花が散り、刀と刀が打つかり合う鈍い音が大気を震わせる。

「はあっ!!」

『はっ!』

 一撃一撃に気合いを込め剣を振るう。二人の攻防はほぼ互角、のように見えた。しかし、Aegisは一瞬の隙も見逃さない。空中戦の凌ぎ合いから間合いが離れた刹那だった。

『魔力開放(フェアシュテルケン)!』

 Aigiisが声高に叫び、魔法陣が白銀の光を帯び足下に展開する。蒸気機関が唸りを上げるように、一気に爆発的な魔力が迸る。

―――来る!?

 そう思った時には既に遅かった。辛うじて眼で追ったところで身体はその速さに追い付かない。一瞬で間合いを詰めたAegisは剣を振りかぶり、

『煌刃一閃!』

 一気に振り抜いた。莫大な魔力が悲鳴を上げ、白銀の瞬きが蒼い空を染め上げる。ユウキはその攻撃を受け切れず隕石のように海中へと叩き付けられた。海上には盛大な飛沫が舞い上がる。

 やがて、爆煙が舞い上がりその中からAegisが姿を現した。彼女の身体からも弾丸を撃ち尽くした銃口のように白煙が上がっている。

『未だこの攻撃は受けきれませんか。しかし、ユウキはまた腕をあげましたね』

 Aegisは教え子の成長を喜ぶように笑みを零す。Aegisは自身の胸当てを一瞥し愛でるように撫でた。底には、横薙ぎの刀傷が付けられている。

―――私の一撃を防御陣で受け、それが壊れる刹那に私に一撃斬り込んだ。最後まで諦めない良い姿勢です。

 ユウキの確実な成長はAegisにとってこの上ない誉れであり、喜びでもあった。

『さて、ユウキを助けにいきますか』

 満足そうに呟くと、Aegisは海中へと飛び込んでいった。

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