1-1 眼差しの先
桜舞う三月の下旬。日本の中心地東京。
繁華街の駅近くに聳える複合商業施設ビルに併設された巨大スクリーン。
休日で人がごった返す通りでは、多くの人が足を止め、スクリーンに映る二人の闘いを観戦している。大音量で流される映像からは、さながらアクション映画のような爆音が轟き、観客の大歓声が空気を打ち鳴らすように突き抜ける。
『さあ、今年も世界各国満員御礼でお送りして参りました『マジックファイト・ワールドチャンピオンシップ』!ジュニア部門決勝戦!今も尚、激しい闘いが続いておりますっ!』
実況のアナウンサーもテンションが最高潮なのか、声が上擦り巻き舌気味になっている。
スクリーンの中には銀髪を風に揺らし華麗に舞う美少年が。
もう一方は、ポニーテールにした金髪を獅子の如く棚引かせ空を滑空する美少女が映し出されている。
空中を自由自在に飛び回る二人は、互いが高速で移動し接触する度に、閃光が火花のように散り、轟音が大地を揺らす。
『ここで、もう一度両選手のプロフィールのおさらいをしておきましょう。白銀の鎧を纏い、さながら誇り高き騎士の如く優美な闘いを見せてくれているのは、現ジュニアチャンピオンにして世界ランキングナンバーワン。アシュレイ・ディーリングだっ!女性を虜にするその甘いマスクとは裏腹に、バトルに於いては激しく、そして華麗な闘いを見せる彼ですが、今年もその美技は健在です!』
アシュレイの貌がアップになると、観客からの黄色い声援が響き渡る。
『かたや紅一点。長槍を駆り戦場を黄金の獅子の如く駆け抜けるのは、世界ランキング第三位アイリーン・キャメロットだっ!今大会は準決勝で世界ランキング二位のジルベルト・ハーキュリーを破り、乗りに乗っておりますっ!』
今度はアイリーンの貌がアップにされ、図太い声が木霊する。アイリーンにはファンクラブまであるようで、客席の彼等がその声の中心だろう。
『ここまではお互いに互角の勝負をしているように見えますが・・解説のマリクさん。これはやはりお互いの力が拮抗しているという証拠でしょうか?』
実況の隣に座っているマリクと呼ばれた男がスクリーンに映し出される。
年齢は五十代前半という話だが、見た目は実年齢よりもずっと若く見える。白髪交じりの髪を撫で付け、ブランドもののスーツを身に纏っている姿が堂に入っている。
マリクは腕組みをしながら少しだけ考える素振りを見せると、
『いえ。一見互角のように見えますが、実はそうでもありません。こちらを見てください』
マリクは画面上に表示されている選手二人の残りライフポイントとマジックポイントを指差す。試合状況は常に戦闘が行われている会場からリアルタイムでモニターに表示される。
『ライフポイントは互いに七割程度といったところですが、マジックポイントに注目してください』
『おっとこれは!?』
実況のアナウンサーは感嘆するように声をあげる。
『アシュレイ選手がまだマジックポイントを八割残しているのに対して、アイリーン選手は既に五割を切っています。これは、アシュレイ選手がいまだ余力を残して闘っているという証拠です。マジックポイントの消費量が一概に勝負の決め手となるわけではありません。しかし、このまま闘いが長引けばアイリーン選手は大技を出せず不利になる可能性がありますね』
アナウンサーはうんうんと頷くと、
『なるほどぉ!!闘いは既に四ラウンド目。このまま決着が付かなければ延長戦となりますが―――』
アナウンサーが一呼吸置こうとした瞬間。
スクリーンが瞬くような閃光に包まれた。その閃光の直後、耳を劈くような巨大な爆音が鳴り響いた。
『いっっったい何が起こったというのでしょうかっ!?』
アナウンサーは前のめりになり目を見開いている。
アナウンサー達が見ている映像と観客が見ている映像は同様のものだ。観客達も何が起こったのか分からないのか、ざわざわと動揺している。
『おっとあれは・・・?』
アナウンサーが何かに気が付いたように掛けていた眼鏡を指先で整える。爆発が起き噴煙が風船のように滞留していた中心点から人が落下するように飛び出したのだ。
『あれはぁあああ、アイリーン選手だっ!アイリーン選手が微動だにせず落下していきますっ!』
空から真っ逆さまに落ちていくのは、アイリーンだった。
アイリーンの魔術武器である『ロンゴミニアド』は乾いた地面に罅が入るかのように傷付いている。纏っている黄金の鎧とドレスのような魔装もところどころが破壊され、破けてしまっているようだ。
一方、煙を一陣の風で吹き飛ばした中心にはアシュレイが堂々たる様子で現れた。アシュレイの纏う鎧は肩部位が欠けているが、それ以外は全くの無傷だ。
勝負は一目瞭然だった。画面上のライフポイントもアイリーンのものが零となっている。
『決着!決着だぁあああ!今年のワールドチャンピオンシップジュニア部門を制したのは、昨年に引き続きアシュレイ・ディーリングだぁあああああ!』
世界中が一斉に歓喜しているかのような歓声だった。その歓声に応えるようにアシュレイは右腕を天高く空に掲げた。
「やっぱり凄いな、アシュレイは・・・」
一人の少年が羨むように声を漏らした。その視線の先には世界中のファンの声援に応えるアシュレイの姿が映っていた。
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