オーバー・マイ・ブレイブハート
WiTHeR
プロローグ
自分の人生を振り返ると、俺は自分の弱さを肯定する事で現実から逃げていたのだと思う。
子供の頃から背が小さくて、女の子に意地悪をされて泣かされる始末。その度に幼馴染に庇って貰ってその場しのぎ。
それがいつしか普通になって、俺は誰かに甘える事が当たり前になっていった。自分が弱い事は別に悪くないんだって心の中で云い訳をしながら。
その云い訳すら当たり前になり過ぎて、何時の間にか云い訳とすら気が付かなくなっていた。
幼稚園の時と小学校の時はそのままでもいられた。
でも、中学生になってから暫く経つと、周囲の目が急に気になり始めた。
その目が俺に慇懃な振りをして訴えてきた。
———お前はそれでいいのか?
———お前はそれで恥ずかしくないのか?
———お前はお前はお前は・・・
仲良くしている友人でさえ、そんな目で俺を見ているのではないかと疑心暗鬼に陥った時もあった。
だけど結局、全ては自分の《弱さ》が招いた結果だと今になって漸く分かった。
自分が何も変わらず《そのまま》でいいのだと無意識に決めつけたから、周囲の目も《弱い俺》を映すようになった。
そんな事は当たり前なのに。
人と人とは合わせ鏡のようなものだ。自分が見たくない自分を他人を通して映し出す。
俺は改めて思い知った。
自分の非力さが嫌いで、自分の情けなさが嫌いで、自分の諦めのよさが嫌いだった。でも、その自分の嫌な部分を努力をして克服しようとも思わなかった。その集大成が現在進行形の《弱い俺》を作り上げた。
このままじゃ駄目だとは思った。
でも、どうすればいいのか、俺には分からなかった。ゴールの無い迷路の中でゴールを探す事は出来ない。俺はただ立ち尽くす事しか出来なかった。
それは何もしていない事と同義だ。そうやって手を拱いている内に、時間は右回りに刻々と進んでいく。
同じスタートラインに立っていた奴等が、遥か先を走って行くのを眺めるだけの日々。俺はスタートラインに立ち尽くしたままだ。
俺と同じようにスタートラインに立ったまま人間もいた。それを見てほっとする自分がいる事が、堪らなく嫌だった。その悔しさがありながら一歩前へ脚を踏み出せない自分はもっと嫌だった。
どうしてあの人達は前を向いて走っていられるのか。きっと俺の前を走っている人達も俺と同じ不安を抱えている筈だ。誰もが確かな強さなんて知らないのだから。
でも、それは違った。
必死になって前を向いて走っている人達は、強さを知らないから走っている。不安があるからこそ走っているのだ。
未だ知らない強さを掴む為に走っているからこそ、走り続けられる。たとえその一歩が怖くても歯を喰いしばって脚を前に出す。どんなに小さな一歩でも確実に前に進む。
その辛さや苦しみが自分の強さを作る。自分の強さを作れるのは、自分だけだと彼等は知っているのだ。
そんな事さえ忘れて、自分の非力さを周囲の所為にして当たり散らしていた自分がどれだけ恥ずかしいか、今になって思い知る。
それが分かり始めて、自分の回りにはこんなにも自分を支えてくれる人達が見え始める。自分が負けそうになる時、一緒に走ってくれる人達が。
それを知ったからこそ、俺は今、《弱い俺》を叩き潰せる。克服するではなく、弱い自分を完膚なきまでに破壊する。破壊した先に在るのは、今まで見えなかった俺が見つけ出した《強さ》だ。
そして、生まれ変わった俺は、今目の前にいる強者に立ち向かえる。
昔の自分であれば、憧れを抱いたまま盲目になっていただろう。
でも、今は違う。同じ舞台に立ち、力を競い、勝負を挑む事が出来る。
拳を前に突き出せ。
決して目を逸らすな。
自分を疑うな。
自分を信じろ。
自分を最後まで信じ抜いた自分こそが。
自分を信じてくれた人を信じる自分こそが。
最後に勝利をこの手に掴む。
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