2人の七不思議
これで、生徒達へのお膳立ては出来ただろうか。鏡の内側に立って彼女は小さくため息をついた。この力を意識的に使うようになってから学校内のことは大体わかる。同調している生徒が誰なのか、七不思議を食い止めようとする者がいることも感じる。七不思議は微睡んでいるようだ。もう、助けがなくても自分は鏡の内側に入ることができる。
「ここにいましたか」
「貴方も、ここに来れてしまうんですね……」
音もなく滲むように現れた彼は静かに微笑した。あの男を追い詰めようとして失敗したその瞬間まで気付かなかった。暗闇に引き込んで、過去を突き付けるように謡う七不思議の声から耳を塞いでくれた彼のことに。七不思議同士はわからないのか、彼が感知させなかったのか……わかってしまった今は大した問題ではなく。
三島が落ちたのに我に返って、遅れて出勤したら落ちたところを目撃したという体を保ち、そこで吐き気に襲われた。赤い赤い凄惨な光景。七不思議が笑った。
『――君の嫌いなヤツ、このまま死んだらいいのにね』
七不思議の言葉の方がまだ温情があった。自分はこのまま生きて、地獄を見ろと思っている。思い知る自身の心の醜さ、歪み。私こそ禍だと。あの日から表に出さなかった怒り、憎しみ、悲しみは溜まりに溜まって淀んで殺意じゃ足りないモノになった。動けなくなった私を誰かが運んだのか気が付けば保健室で、人目を忍ぶように鏡の裏へ。
「もう、呼んでもいいですか……カナタさん」
「……最初、から……?」
「はい。ずっと逢いたかったからすぐにわかりました」
「名前も違ったのに?」
「お礼も、言えませんでした。あの時……後を追っていれば……」
「追わないでいてくれて、良かった」
「?」
「あんな姿、誰にも見られたくないもの」
「! すいま、せん……」
俯く彼に小さく微笑う。彼と関わったのはたった1度。なのに、彼はずっと覚えていて……黙って傍にいてくれた。だから気付いてしまった。
「彼女を……水無月先生を、突き落としたのは……貴方、ね」
「気付いたから。それがもしあの男に知れたら……」
「そう、それが理由。……貴方を、助けなければ良かった」
愕然と目を見開く彼は敏い。すぐに真意を悟ったようだ。距離を詰め強く強く抱きしめる。言葉にすれば軽くなる。彼女は拳を握って抱き返さない。それは誰にも助けを求めず、心を閉ざして身を投じた罪。例えその時光が見えなかったとしても……道連れを作ってしまったことを彼女は良しとは出来なかった。
「……どうしますか、今後」
応えはしないけれど拒絶もせずにいる彼女に問い掛ける。長い沈黙の後、彼女は鏡の向こうの光に目を向けて呟くように答えた。
「見守るわ。……あの子は、独りじゃないから」
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