幕間・教師陣の涙ぐましい活動記録

 教師というものは想像を超えて忙しい。授業の準備、毎日の家庭学習のチェックとコメント書き、生徒指導に、部活はほぼボランティアにも拘らず求められていることは多いし、熱意ある教師ほど多忙を極める。

 学校祭準備中殆ど授業がないから余裕があるだろうなんてとんでもない。大きな行事を滞りなく、手を貸し過ぎずに指導するために話し合いを重ね、軌道修正をし、本番へと尽力する。常と違う活動の裏で日々業務は進行し、先へ先へと気を配っているのだ。確かな答えもないままに。そこに七不思議騒動だ。そういった類のモノを信じる信じないの域はとっくに超え、学校祭を中止にしないための対応を迫られる。


 普段は爽やかなイケメンと生徒に人気のある社会科の先生の場合。

 実は霊感が強かったらしい。学校を閉める前の見回りにあたると自然のままの天日塩(粒塩)の入った袋を手に節分の豆撒きの如く、

 「悪霊退散ー! 鎮まれ、七不思議ー! ……そこの浮遊霊、帰れー!!」

 競歩大会で優勝できそうな勢いで移動し、校舎内に塩をばら撒き、朝、お掃除してくれる用務員さんに怒られた。けれど、その日は生徒の目撃談が減ったらしい。


 熱血体育教師の場合。

 「生きている人間が一番強い!」と腹の底から大声で威嚇しながら見回り、何か動いたと反射的に殴りつけた結果、特別教室の扉を歪ませ真夜中に必死で直して誤魔化した。後日荒れている生徒がいるのかと凹んでいる校長先生を見て平謝りした。怪我の功名か、その日の目撃談、なし。


 独創的な音楽教師の場合。

 放送室から般若信教のテープを流してみた。うっかり部活の生徒が残っていたのにやってしまい、大ブーイングされた上に、逆に怖くなって見回りを替わってもらう。帰り道でも怖くなりお経をソプラノで唱えて帰った結果、近隣住民から学校に苦情が入って怒られた。何故か目撃談も増え踏んだり蹴ったり。


 いつでも冷静な有能事務官さんの場合。

 「気にするから頭に乗るんですよ」とひとりスタスタと平然と見回り終了。背広に手形が付いていると指摘されるも全く気にせず。けれど次の日原因不明の熱でお休み。事務官さんのサポートがないためあちこちでひっそりダメージ。後日、何事もなかったように出てくると黙々と仕事をして帰って行く。見回りの度に次の日熱を出すので管理職に事件解決まで行かないでくれと懇願され、仕方がないので除霊サイトやグッズサイトを調べて情報集めで貢献中。


 まったり優しい校長先生。彷徨える霊は成仏できるかもしれないと学校中でお香を焚いていった結果、閉め切った部屋で充満した香の煙により報知機が鳴り、駆け付けた警備の人に注意を受けた。



 臨時休校の3日間、相談して全員で塩撒きを行い掃除することにした。勿論、生徒に明かすことはしない。休校明けの集会で校長先生は明るい笑顔で生徒達に語りかける。生徒の前ではあくまでも大人の顔。でもその裏では結構必死にバカにされそうな事を真面目にやってたりする。


 「色々なことが起きています。怪我をした生徒もいます。それでも今日全員登校しと聞いています。困難が多い時こそ皆で団結して、素敵な学校祭を迎えられるよう頑張りましょう!」

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