残りの2つとちいさな3つの出来事

 当然のことながら残る2つを知ろうという流れになる教室で、ぽつぽつと乗り気じゃない様子も見える。そりゃあ、怖い話が苦手な人も、他の事をやりたい人だっている。だけど、集団は恐ろしい。


 「友達の為に動くのは当然だろ!? 自分さえ良ければどうでもいいんだな!」

 「皆で協力したら早いじゃない。まぁ、やりたくなきゃそれでいいけど」

 「ノリ悪いよねー。」

 「あ、わかった。怖いんだ! 意外ー」


 悪ノリするように少数派を責める流れになって、何人かは止めようとするもあまり積極的ではない。奈々もきっかけが自分とわかっているから口を挟めず。誰だって巻き込まれたくない。


 「……お子様」

 「は!?」

 「お子様って言ったの。いつもは個性だ。個人だ。言ってるくせに、こーゆーときだけ協力は大事? ばっかじゃないの。嫌いな人は嫌いだし、そんなのに構っていられない人だっているでしょ。先生に味方されたからって調子に乗ってんじゃないよ」


 尤もな発言をしたのはどちらかといえば単独で動くことの多い秋月(あきづき) 涼音(すずね)。長い髪をポニーテールにしたきりっとした女生徒だ。騒いでいた連中が冷水を浴びせられたように黙る。けれど、納得したというわけではない。攻撃対象がはっきりと移る。


 「格好付けやがって」

 「そう言って怖いだけだったりして?」

 「放課後は図書委員会があるし、思ったことを言っただけだし。群れてれば安心なあんた達と一緒にしないで。……次移動教室よ。また怒られるのは嫌。」


 毅然と言い放ち授業道具を手に教室を出て行く姿に、何人かが我に返って後に続く。言い負かされた形になった何人かは悪態をつきながら授業準備に動き出した。そんな様子を奈々は困った顔で見つめていた。周囲の声に曖昧に微笑みながら廊下を歩く先、1人で歩く彼女が見えた。


 その頃、職員室でも七不思議が話題になっていた。昼休みに派手に生徒が動き回ったこともあって数人の先生の耳にも入ることになったのだ。やはり自慢げに教えたことを声高にしている三島に質問が飛ぶ。


 「そういや、聞いたことなかったですね。七不思議。ないのかと思ってたんですけど」

 「ありますよ。スリルがないと楽しくないじゃないですか」

 「まぁ。……じゃあ、なんで消えてたんです?」

 「え」

 「私も知りたいです。七不思議はタブーとか聞きましたけど」

 「え、あ、う……怖がりが多かったんじゃないっすかね!?」


 あまりに話題に出ないままであったためか、入れ替わりもある教員も理由を知らない人の方が多かったのだ。少なくともこの時間に職員室にいた教師は誰ひとり知らないようで、苦し紛れの三島の理由に納得すらしたようだ。


 時同じく1年A組の女生徒2人が保健室を訪れていた。七不思議を聞くのが理由ではなく、いや、内心ではその目論みもあったろうが具合が悪くなってしまったからだ。

手際よく検温や質問をする白衣の教諭は水無月(みなづき) 雪子(ゆきこ)。フワフワとした髪をひとつに肩のあたりでシュシュで結わえている癒し系と人気のある先生だ。


 「なんか、緊張したら頭痛くなっちゃって。」

 「私はお腹が……」

 「えー? なんで緊張?」

 「あのね……」


 話を聞いていた雪子の顔が徐々に強張った。彼女にとって七不思議は忘れられないものだったから。思いに沈みかけるところ控えめに名を呼ばれ、慌てて笑顔を取り繕う。


 「怖いの、嫌いなのよ。」

 「私達も。良かったー、同じ気持ちの先生がいて」

 「でも……聞いてもいい? 残りの2つ」

 「え?」

 「だって、知ってるかもしれない先生がいる保健室に来たのに、何も聞かないで教室に戻ったら、なんか、責められそうで」

 「……仕方がないわね。でも、そういうのいいことじゃないわよね?」

 「うん……」


 「《4:44 闇に落ちる学校》、いきなり停電するって話。場所は毎回違うらしいけど。残りは…………廊下に響く、見知らぬ歌。誰も知らない歌声が聴こえるのよ。それは、それは綺麗な声で……」


 身を守るのに必死な少女達を責めることもできず、後から対策を考えようと心に決め乞われるままに七不思議を口にする。最後のひとつは言いよどみ、遠くを見るようにして。――本当に、綺麗な声だった。


 入手した情報を持ち帰った2人は喝さいを浴び、涼音に向ける視線は真逆なものに。罪悪感を覚えても身の安全に勝る安堵もない。それが、学校。涼音は表情を変えずに図書室に向かった。


 「こんにちは、秋月さん。……なんか、あった?」

 「そういう顔、してますか?」

 「うん。……険しい。」


 図書室に常駐している職員、文月(ふみづき) そら。独特の空気を持つ本好きの司書で、長い真っ直ぐな髪をポニーテールにしている。涼音は彼女に憧れてポニーテールにしたのだ。本の話や他愛のない話が楽しくて、委員会以外にも入り浸って親しくなった大人だ。

 ため息交じりにまだ他の委員が来ていないこともあり事の次第を語った。不意に相槌が途切れ、怪訝に思って顔を上げた涼音は息をのんだ。目に映ったのは氷のような無表情。それはすぐに消えたけれど。


 「七不思議って、碌なことじゃないのよね。私、大嫌い」

 「そ、そうなんですか?」

 「ん。秋月さんは格好良いね。クラスメイトが馬鹿ばっかりじゃないことを祈るばかりだ」

 「……口悪いですよ?」 

 「あら、つい本音が」


 ぺろりと舌を出して肩を竦め、目が合うと2人は笑いだした。居心地の良い場所で穏やかな時間は流れていった。不穏な空気を忘れるように。


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