卒業生・1
誰に聞いてもはっきりわからない七不思議。あったらしいのは確実だけど……。手詰まりに見えた情報は意外なところから進展を見せた。
「チャイムはとっくに鳴ってるぞ! 何やってんだお前ら!!」
怒号に飛び上がって入口を振り向けば怒りの形相の担任、三島(みしま) 卓(すぐる)先生。きまり悪げに、大慌てで、しまったという顔で……反応は様々ながら席に戻るのは皆一緒。話に夢中になり過ぎた。決まりを破るのはいけないとわかっていても時折やってしまうものだ。
戸をぴしゃりと閉めて仁王のような顔で見下ろす熱血タイプの担任の気は生徒が慌てて席に着くくらいじゃ済まないようだ。これは授業時間いっぱい説教タイムかと判断した生徒は一斉に口を噤み、教室は秒針の音がはっきり聞こえるほどに静まり返った。と、ガタンと控えめな音が鳴り、視線が集中する。転校生の牧田 奈々だった。
「あの……ごめんなさい。私が、七不思議を知りたいって、言ったんです。皆、それに協力、してくれて。でも、誰も知らなくて……」
それで騒いでいたと発言した彼女は泣きそうで、そんな彼女にクラスメイトは感服半分、申し訳なさ半分。担任の怒りが彼女に向かうか、自己犠牲にも似た尊さに気を鎮めるかと固唾をのむこと数秒。返った反応は斜め上。
「友達のために動くのは偉い! さすがオレの生徒達だな!! チャイム席守らないのはダメだが」
自画自賛するようにご機嫌な笑顔になった担任に調子づいた男子生徒何人かが「当然じゃん」「自慢の生徒でしょー!?」と声をあげ教室はまたざわめく。
「お前ら、授業中だ!! 静かにしねーと、教えてやんないぞ?」
「?」
「何を?」
担任は充分に自分への関心が集まったことを確認し、胸を張った。
「聞いて驚け。オレはここの卒業生だ。フツーにあったぞ。七不思議。」
「「えぇぇぇぇぇぇぇぇ!?!?!?」」
一拍遅れての派手な反応をドヤ顔で楽しんでいたが、隣のクラスの先生に注意をされ平謝り。機嫌が悪くなるのを阻止すべく、持ち上げ発言をするクラスメイト。勿論声量は抑えることも抜かりない。
「先生、サプライズ過ぎ!」
「演出が良過ぎて大声出しちゃったじゃないっすかー。」
「ね。教えてくださいよー。先生、頭いいもん。覚えてるんでしょ?」
「…………ったく、騒がないなら教えてやる。」
しぶしぶを装いながらも気を良くしている様子に皆の反応は心得たものだ。一斉に口を閉じ、視線は熱く担任へ。それを受けて舞台に立つ主役のように満足気に。勿体ぶるように話し出した。
《禍を報せる柱時計》 (玄関ホール)
《憎しみを記す日記帳》 (図書室)
《放送に混ざる霊の声》 (放送室)
《体育館のポルターガイスト》 (体育館)
《動く美術作品》 (美術室)
「あれ、あの2つなんだっけな……」
「えー?」
「お、チャイムだ。あー……クラスメイトなら知ってるかもな。保健の先生も卒業生だ。」
「マジで!?」
「おう。あとはそっちに聞け。次の授業は席着いとくんだぞ!?」
「はーい」
チャイム幸いとそそくさと、情報を提供して担任は出て行った。結局、なんで隠されているのかは聞けぬまま。5つの七不思議に気をとられて誰も気付くはずもなかった。教室は楽しくざわめいていた。ゆっくりとカウントダウンが始まることを知らぬまま。
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