始まりは転校生と共に

  市立雪華中学校は間もなく創立40周年を迎える生徒数300名ほどの学校だ。少し小高い土地にかつては雪のように真っ白だったであろう学び舎は君臨するかのように建っていた。校舎の裏手には足を踏み外せば危うい傾斜があり、うっかり落ちた人間を飲みこむような森がある。勿論、ちゃんとした入口から入れば散策や自由研究にも利用できるけれど。眺めが良く、自然豊かな環境を謳うこの中学校に転校生がやってきた。


 1年A組は基本的にはのんびりしているが明るく元気なクラスだ。ノリが良いともいうかもしれない。ちょうど日差しが強くなってきた頃。学校祭の話題が出始めた8月の半ば。ようやく学校にも慣れてきて、友達とか、仲の良い先生とか、好きな場所をそれぞれが見つけて緊張も解け始めた時期だ。同時に初めての行事……授業が減って準備に当てられるという話に理由もなくワクワクしている。転校生の転入なんてサプライズのイベントのようだった。一番下っ端の1年生である自分達が新しいクラスメイトに教えることができる。ちょっとした優越感を味わえることもあってテンションは上がる一方だった。


 「ねぇねぇ、この学校の七不思議、教えてよ。」

 「七不思議?」

 「あるでしょ。どこの学校でも。私、転校するたびにその話を聞くの楽しみなんだ。」


 怖い話が大好きだという転校生、牧田 奈々のおねだりにクラスの生徒達は停止し、困惑気味に視線を彷徨わせ、全員答えを知らない様子に安堵を交え、委員長の彼方 雫かなた しずくが代表して「知らない」と謝った。とても残念そうな様子に世話好きな委員長は先輩に聞いてみようと提案し、ちょうど昼休みだったので聞き込みしに行こうとクラスメイトの殆どは一斉に散らばった。そして、休み時間終了5分前に戻ってきた生徒の表情は七不思議について聞かれた時以上にもっと困惑したものだった。


 「知らないって言われたけど、なんか様子がおかしんだ。」

 「私なんて、口塞がれた。先輩もよくわかんないけど禁句だって。」

 「なんかー、七不思議の話したら退学になるって聞いた。」

 「はぁ!? さすがにないでしょ。」

 「……ってことは、あるってことだよね。」

 「調べてみようか。」


 隠されれば余計に気になるのが人間。調べることはクラスの決定事項になった。だけど……隠された理由を少しでも考えたなら手を出さない方が良かったはずだ。あったものがないことにされるなんてめったにないこと。そうなるほどの何かが、あったはずなのに。




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