第11話 真、料理を提供する

「おお、すごいな!」

そこには、多くの見学者がいた。


「思いのほか、人が集まったな」

「そうだな」

そこには数十の人がいた。

「本日はお越しいただきありがとうございます。本日は漁の見学をしていただいた後、食堂にて、ご飯をお出しします。では、足元に気を付けてご乗船ください!!」

完璧だ。一週間練習した甲斐があった。すると知樹が、

「声、震えていて聞き取りづらかったぞ」

という。人見知りはそう簡単に治るものじゃないらしい。この前、プレゼンテーションをした時も、似たようなことを言われた。子供以外、まともに喋れない。それは俺の中学からの癖である。そんなことを考えていると、少女が寄ってきて

「おじさんはなんで漁師になろうと思ったの?」

と聞いてくる。俺、まだ28歳なんだが……

「お兄さんはね、最初は嫌々だったんだけど、今は多くの人に喜んでもらいたいから漁師をやってるんだよ!」

「そうなんだ、ありがとうおじさん!」

「おじ……さん……」

俺がへこんでいると歓声が上がった。恐らくは網を引き揚げたんだろう。

俺は、網を引き揚げるのを見届けると、

「皆さん、改めて本日はお越しいただきありがとうございます。ご飯を用意いたしますので、食堂のほうへいらしてください!」

と、食堂へと促した。

「おいしいね!」

「ハハ。ソレハヨカッタ」

普段、あまり船からでない隊員が緊張しているのか、片言で話している。

……自衛隊だった連中は皆こんなんだろうか?

「この魚も美味いが、この野菜も美味い!!」

そこには、今の世界では想像できないような幻想的な光景が広がっていた。

今、世界では、「究極のコンパクト化」という言葉が流行していて、食事はおろか、肉体までもをコンパクトにしている。というのも、食料が高価なのだ。食パン一袋600円の時代だ。恐らく、ここにいる子供たちはまともなものを食べたことがなかったのだろう。最後に

「ありがとーございました!!」

と満足そうな笑みを浮かべて家路についた。

「諸君、初回は大成功である!」

俺は、隊員たちに宣言した。

「「「「「「「「「「「「「了解」」」」」」」」」」」」

どんな時でもキレのいい返事をする隊員は、なんだか、とても疲れているようだった。

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