第17章 帰宅と登校5

 凛の様子に雄介は戸惑いながら先ほどの事を話す。


「先を越された……」


「あーあ、凛どんまい」


 ショックを受ける凛と、それを見て凛を慰める慎。

 そんな兄弟の姿を雄介は不思議そうに眺めていた。


「で、でも…まだ決まったわけじゃないんですよね!?」


「えっと…まぁ、俺は記憶が無いしね……今は保留かな…」


 雄介がそう言うと、凛はパアっと顔を明るくさせて雄介の方に詰め寄る。


「そうですよね! 急にそんな話をされても答えられないですよね!!」


「う、うん……そうだね…」


 凛の迫力に押され、雄介は半歩ほど後ろにバックする。

 そうこうしている間に、また玄関のチャイムが鳴った。

 玄関に行ってみると、堀内と江波が何やらいがみ合いながらやってきた。


「だからなんでいつもお前は俺と居るんだよ!」


「何よ! その私があんたに付きまとってるみたいな言い方! あんたが私に付きまとってきてるんでしょ!」


 玄関先で言い争いを続ける二人を見て、雄介はもう付き合っちゃえば良いのに、そう思いながら二人を見ていた。


「よ、今村! 来たぜ」


「お邪魔します。もう誰か来てるみたいね」


 取っ組み合いをしながら雄介たちの方を見て言う二人。

 雄介はそんな二人を見て苦笑いをしながら、とりあえず二人を引きはがす。


「本当に仲が良いんだね……」


「今村、教えといてやろう、俺は女の子は基本好きだがこいつは嫌いだ」


「私は基本こいつが嫌いよ」


 何やらギスギスした雰囲気の二人、ここに来る途中で何かあったのだろうか? そんな事を考えながら雄介は二人をリビングに案内する。


「ん、また二人一緒か、お前ら仲……」


「「良くない!!」」


 慎がリビングに入ってきた二人を見て言いかけたところで、本人二人が声を揃えて否定する。

 そんな二人を見て雄介は再度、本当に仲が良いなと思う。


「お、おうすまん……それより、あの陽気な人誰?」


 慎が指さしたのは、徹だった。

 何やら張り切って色々と指示を出し、今村家のリビングを魔改造している。


「ふむ……これでは少し狭いな…。よし! そこの壁をぶち抜いて改築しよう! 大丈夫だ、私の会社は建築業もやっている。早速業者を手配しよう…」


「いや、やめて下さい! どんだけ張り切ってんですか!」


 スマホで業者に連絡を取ろうとする徹を雄介は止める。

 徹はまたしても腑に落ちない顔で雄介に「そ、そうか?」と言い。それを見ていた倉前さんまでも「広くなりますよ?」などと言っていた。

 雄介は、この人たちにとってお金って何なのだろう、そう思いながら二人を説得していた。


「なんか、すごいな……」


「そ、そうね……」


 徹の無茶苦茶な様子を見ていた堀内と江波は若干引いていた。

 既に徹によってパーティーの準備がされたリビングは、豪華な料理が置かれ、部屋は再度掃除をした様子でピカピカだった。


「で、あれは誰なんだ?」


「えっと……社長…」


「は? どこの?」


「星宮財閥の……」


 星宮という名前を聞いた瞬間、慎は驚き言葉を失う。

 最初はおそらく半信半疑だったのだろうが、あの無茶苦茶加減を思い出し納得したのだろう、今はなぜかペンと色紙をさがしている。


「サインもらっとこ…」


「そこまで……」


「だって星宮財閥だぞ! 何か御利益があるかもしれん」


「大仏じゃないんだから……」


 話を聞いていた堀内と江波も驚き、アタフタし始める。


「え! マジか! あの日本一の金持ちとかいうあの! まさかと思うけど、織姫ちゃんのお父さんなんじゃ……」


「あぁ、そうだよ。その事でさっき色々あったけど……」


「俺挨拶してくる!」


 織姫の父と聞いたからか、それとも財閥の社長と聞いたからか、どちらか分からないが、下心があるのは確かで、堀内は徹の元に向かって行った。


「ん? それにしてもなんで堀内が織姫の事を知っているんだ……あった事あるのか?」


「あぁ、前に今村が私達に紹介してくれたの……織姫ちゃんの事情も話してくれたから、面識がない訳じゃないわよ」


 江波が不思議そうに考える雄介に言う。

 雄介はそうだったのかと納得し、織姫の事を考えてしまった。


「何赤くなってるの?」


「え、本当? いや…少し熱くて……」


「そう…」


 雄介は顔を隠しながら、赤くなった顔が戻るのを待つ。

 そんな中、江波が深刻な顔で雄介に話す。


「ねぇ、今村……」


「ん? どうかした?」


「うん……その、お礼が言いたくて……」


「え? なんで?」


 雄介は言葉の意味が分からなかった。

 別に江波にお礼を言われるような事をした覚えが無かったし、どちらかと言うと、色々教えてくれたお礼を言いたかった雄介。


「私さ、今村に助けられたから……いまの今村は忘れちゃってるかもしれないけど、その時私は今村をひどい目で見ちゃったんだ……」


「そう…なんですか?」


「うん、身を挺して守ってくれたのに……私、最低だよね……」


 雄介はなんと答えて良いのか分からなかった。

 しかも記憶を無くす前の話をされても、今の雄介には他人目線での意見しかいう事が出来ない。


「あの、自分は記憶が無いのであまり大きな事は言えないですけど、きっと自分は守れただけで満足だったと思いますよ」


「え……」


「だって、助けたのに見返りを求めるのはおかしいじゃないですか。それに、江波さんに怪我が無かっただけで、自分は満足だったと思います」


 雄介の言葉に江波は優しく微笑み、いつもの調子に戻る。


「あ~あ、ライバルが居なきゃ、私が付き合いたいよ~」


「え? 今なんと?」


「なんでもない! でも、今村がモテる理由わかったかも……」


「はぁ……」


 江波はそう言うと雄介の側を離れ、徹と話をしている堀内を連れ戻しに向かった。

 残された雄介は言われた言葉の意味を考えていた。


「うーん……俺はそこまでモテるんだろうか?」


 鏡で見た自分の顔も多分普通で、慎と比べると当たり前だが見劣りする。

 スタイルも普通だし、体力も普通。

 病院でやった、学力テストの結果が良かっただけの普通の高校生だ。


「……わからんな」


 雄介が自分が異性にモテるのか考えていると、またしても玄関のチャイムが鳴った。

 今度は誰が来たのだろうか? そう考えながら、雄介は玄関に向かった。

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