第17章 帰宅と登校4

「や…やっと終わった……」


「まさかキノコが生えているなんて……」


 あれから約一時間。

 お客さんを家に呼べるくらいに部屋を綺麗にし終え、今は休憩をしていた。


「あの……これからも家事は自分にまかせてもらえませんか? 色々理由はありますが、記憶を無くす前と同じ事をやっていれば、何か思いだすかもしれないので……」


「「「是非お願いします」」」


 自分たちの家事スキルの低さを思い知った、雄介以外の三人は声を揃えて雄介に言う。

 雄介は掃除中に、何回か「前にもこんな事をやっていた気がする……」と思う事が多々あり、記憶を戻すためにも、継続して家事をしようと決意した。


「なんでも良いけど、そろそろ皆来るんじゃないのかい? 何も用意してないけど……」


「あぁ、大丈夫よ。主催者が全部用意してくれるらしいから……」


「え? 主催者は君じゃないのかい?」


 紗子の言葉に驚く玄。

 てっきり紗子が主宰したと思っていた紗子以外の三人は、誰が主催者なのか疑問に思う。

 そう思っていると、ちょうど玄関のチャイムが鳴った。


「あ、多分来たわね…」


 そう言って紗子は玄関の方に駆けて行った。

 残されて三人は一体誰が主催者なのかを考える。

 そんな事を考えていると、玄関の方から陽気な声がリビングに聞こえて来た。


「ハッハッハ! 雄介君久しぶりだね~」


「…あ、確か星宮さん」


 声の主は織姫の父であり、星宮財閥の社長でもある星宮徹だった。

 なぜかすごく上機嫌で、リビングの雄介や里奈、そして玄と握手を交わす。


「雄介君、星宮さんなんて他人行儀な呼び方はやめてくれ。もう私たちは知り合いだ」


「す、すいません。ですが、やはり年上ですし……」


「遠慮なく、パパ、もしくはお父さんと呼んでくれ!」


「それは絶対に無理です!」


 雄介の手を強く握り、目を輝かせる徹だったが、雄介はそんな徹の提案を拒否する。


「そう言えば、主催者って……」


「あぁ、もちろん私だよ! 雄介君……もとい、未来の家族の快気祝いだからね、盛大にいこう!」


「あぁ、そうだったんですか……ん? 今なんて言い……」


「誰が未来の家族ですって!」


 雄介が言いかけたところに、里奈がすごい剣幕で割って入ってきた。

 笑顔を浮かべているのに、目は笑っておらず、背後からはどす黒い何かが出ている。


「おぉ! 君が紗子の娘さんか! 初めまして、私は星宮徹。紗子に似て美人だね」


「今はそんな事良いです。それより、新しい家族とは?」


 口元をひくひくとさせながら、辛うじて笑顔で尋ねる里奈。

 そんな里奈に徹は笑顔で答える。


「いい機会だ私の願いを雄介君にも直接言っておこう」


「は、はぁ……」


 雄介は何を言われるのか、大体想像がついていた。

 しかも、病室で織姫に言われた事を合わせると、雄介はその場から逃げ出したい気持ちで一杯だった。


「私は、雄介君と私の娘である織姫が、結婚してくれることを望んでいる。紗子の息子であり、私の娘を救ってくれた彼に、私は会社と娘を託したい!」


(やっぱりか……里奈さんが固まってる……)


 雄介は予想通りの答に、額に汗を浮かべて戸惑う。

 里奈はそのままフリーズし動かなくなり、玄は玄で笑ってごまかしている。


「どうだろう紗子! 私は何処の馬の骨ともわからん奴に娘を任せるくらいなら、雄介君い頼みたい! それに娘も雄介君になついているようだ!」


「う~ん、それは雄介が決めることだしね~、私はなんとも言えないわ……」


 紗子は頭を抱えて徹にそう言うと、徹は雄介の方に向き直った。


「雄介君! 是非どうだろうか! 親の私が言うのもなんだが、あの子はかなり可愛い部類の子だと思うのだが!」


「あ、えぇっと……」


 雄介は病室での織姫との一件を思い出した。

 確かに織姫は可愛いし、一回話をしただけだが、良い子の様だったと雄介は思っていた。

 しかし、彼女が好きになったのは、記憶を無くす前の自分であり、今の自分ではない。

 そう考えると、なんて言って良いのか、雄介は分からなかった。


「えっと、それよりも料理とかの用意はどうしようか?」


 そこで話を止めたのは玄だった。

 おっとりとした笑顔で、異様な空気のリビングを沈めて行く。


「あぁ、そうだった。料理はすべて、ケータリングで準備をした。この部屋に運んでも大丈夫かな?」


「あ、はい。じゃあ、お願いします」


「おーい、始めてくれ!」


 徹がそう言うと、メイドさんと執事が数人やってきて、食事の支度を始めた。

 雄介達はそんな様子をただ眺め、準備が終わるのを待つ。

 そうこうしているうちに、お客さんも徐々に集まってきた。

 最初にやってきたのは、慎と凛だった。


「お邪魔しまーす」


「雄介? いるか」


 二人は玄関で声を上げて雄介を呼ぶ。

 雄介は玄関に二人を迎えに行った。


「二人とも早いね」


「腹が減ってな、俺ら兄弟はあんま飯とか作れねーし」


「わ、私はたまに雄介さんから教わってたんですよ!」


「そうなんだ、じゃあ俺は料理も出来るんだ……」


 凛の言葉に、雄介はそんな事を思う。

 雄介は二人をリビングに案内し、事の経緯を説明する。

 

「マジか! じゃあ飯は相当期待できんじゃねーか!」


「お兄ちゃん、よだれ……」


 星宮財閥の社長が主催と言う事で、慎のテンションは上がっていた。

 凛はそんな兄に呆れながらハンカチを渡す。


「雄介様」


「あ、確か…倉前さん」


「こんにちは」


 慎たち兄弟と話をしていると、メイド服姿の倉前が雄介に声をかけて来た。

 どうやら自分の仕事が終わった後らしい。


「あとでお嬢様がいらっしゃいますが、決して気を使わないでください」


「えっと……もしかして…」


「はい、存じております。お嬢様が病室を訪れていた事も、その時雄介様に何を言ったのかも……」


 雄介は笑顔で言う倉前さんの言葉に、恥ずかしさを覚えて顔を赤くする。

 そんな雄介を見て、倉前はクスクスと笑い、こう付け足した。


「私も旦那様と同じです。貴方がお嬢さんと結ばれる事を強く願います。貴方は記憶が無くても、貴方なのですから……」


 笑顔でそういう倉前の言葉の意味が、今の雄介には理解できなかった。

 倉前は言い終えると、直ぐに徹の元に戻っていった。


「雄介、さっきの話はなんだ?」


「あぁ…ちょっとね」


 倉前と雄介の会話を聞いていた慎が、雄介に尋ねる。

 しかし、慎以上に話の内容が気になっている人物が居た。


「り、凛ちゃん……どうかした?」


 そう、その人物とは凛だった。

 凛は肩をワナワナ震わせながら、唇を噛んで涙目で雄介に尋ねる。


「ゆ、雄介さん! 結ばれるって何ですか!!」

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