第15章 文化際の開始8

 雄介は、織姫たちと別れクラスに戻っていく途中だった。

 織姫の前向きな姿を見て、雄介は自分の今からしようとしている事を考える。


「……きっと、俺はあいつみたいに強くないんだろうな……」


 何も変わらない自分と、自分を変えようとしている織姫。

 本当にこの道を選んで間違いではないのか、雄介は再び考える。


(間違いでも……この決意は本物だからな……)


 雄介は考えをまとめ、自分のクラスに帰っていく。

 時刻はもう16時を回ろうとしていた。雄介たちのクラスは、本日分が終了し、皆それぞれ学園祭を回っていた。

 雄介は慎と合流し、学祭を回ろうと慎に連絡をするが、先ほどから電話を掛けても一向に出ない。


「なんだ? おかしいな……教室行ってみるか……」


 雄介はとりあえずクラスに戻り、クラスの誰かに慎がどこに行ったか聞こうと思い、教室までの道のりを歩いていた。


「なんだ、教室も誰もいないのか…」


 先ほどまでは売り上げの計算で、多くのクラスメイトが居たはずだったのだが、教室にはもう誰もおらず、もぬけの殻だった。


「一体どこ行ったんだ?」


 雄介はスマホで再度、慎に連絡を取ろうと、近くの椅子に座ってスマホを操作する。


「おい、今村」


「ん? なんだ、赤鬼?」


「お前いい加減にしろよ…」


 雄介が電話を掛けようとした瞬間、赤鬼姿で棍棒を持った北条が教室の中に入ってきた。


「どうした? なんか用事か?」


「あぁ、おまえにこれを渡すように頼まれてな」


「ん? 手紙か?」


 北条が雄介に手渡したのは四つに折りたたまれた紙だった。

 雄介はその紙を受け取り、中を確認すべく紙を広げる。


「!! おい! 北条! 誰に貰った!!」


「し、知らない男だ…多分学祭に来ている客だと思う……どうした?」


 雄介は紙に書いてある文字を見た瞬間、北条に詰め寄り、誰に渡されたのかを尋ねる。

 北条は雄介のいきなりの行動に驚く。


「どんな奴だ!! 特徴は?!」


「落ち着け、一体どうしたって言うんだ!」


 雄介が北条から渡された紙には『今から全部を壊してあげる』と一言だけ書いてあった。

 その言葉が何を意味するのか、雄介は瞬時に理解した。

 このメッセージが、滝沢絵里からのものである事に……。


「あ、あぁ。すまん、取り乱した……」


「何か、あったのか?」


 文面からして、きっと滝沢はもう学校内に入っている確率が高い。雄介は北条に被害が無いように、校内から出るように切り出す。


「北条、今は何も聞かずに学校外に出ろ!」


「急にそんな事を言われてもな……何があったんだ、俺で良ければ相談にだって乗るぞ?」


 北条は心配そうに雄介の顔を見る。

 しかし、雄介は心配する北条に耳を貸さない。今は一刻を争う事態だ、被害者を出さないためにも、早く北沢を見つけ出す必要があったからだ。


「悪い! 北条、兎に角お前は学校を離れろ!」


「あ! おい!!」


 雄介は北条を教室に残し、教室を飛び出し校内を走り出した。

 理由はもちろん滝沢を探すためだ。


(教室には誰も居なかった、しかもあの手紙……まさか!!)


 雄介はそこで気が付いた、滝沢がバスで雄介に言った『大事な物を全部壊す』という発言は、雄介の友人や家族を指すものだとしたら、クラスメイトが狙われるのは想像が出来る。


「クソ!! 明後日って言ったのは嘘だったか!」


 雄介は若干は予想していた。

 あの女がわざわざ予告してその日に行動するメリットなんて無い、むしろデメリットの方が多い。

 雄介はそれを見越して、小畑達警察に連絡をしたのだった。

 しかし、雄介は考える。なぜ校内に滝沢たちが入って来れたのかを……。


「学校は常に警察に監視されていたはずなのに、なんで……」


 雄介は考えながら、校内を駆け回って滝沢を探す。

 探し始めて少し経った頃、校内放送のアナウンスが鳴った。


『ピーンポーンパーンポーン、今村雄介く~ん。今すぐ屋上に起こし下さ~い』


 雄介は放送の声を聴いて気が付く。

 この声には聞き覚えがあった。雄介はその声の主の名前を静かにつぶやく。


「滝沢……」


 周りの生徒やお客さんもおかしな校内放送に気が付き、ざわつき始める。


「なんだ、この変な放送?」


「今村って、加山さんの彼氏だっけ?」


 ざわつく校内の人々。

 放送はまだ続いており、滝沢は続きを話し始める。


『なお、学園祭はこれでお開きでーす。速やかに、一人残らず校内から出やがってくださーい。さもないと……殺しちゃいまーす』


 そこで放送は終わった。

 放送を聞いていた周りの生徒やお客さんは、最初は悪戯だと思い気に留めてはいなかった。

 しかし、次の瞬間、放送の言葉が本当だったと皆が理解する事になった。


バーン!!


「さっさと出ろ」


 大きな銃声が廊下内の雑音をすべて消し去った。

 最初は皆何事かと思ったのだろうが、若い男が天井に向けて構えてい物を見て、沈黙が悲鳴の嵐に変わる。


「きゃぁぁぁぁ!!」


「なんだあいつ!! 銃持ってるぞ!!」


「逃げろぉぉ!」


 拳銃を構える男と逆の方向に皆は逃げて行く。

 しかし、雄介はその場に残り、男を睨む。


「おい、お前もいけ、死にたくなければな…」


「生憎、俺は屋上に呼ばれてんだよ。だからよ……」


「ぬお!!」


 雄介は男の懐に素早く入り込み、身を低くして、そのまま拳を男の顎めがけて振り上げる。


「ぐぁ!!」


 男は体をのけぞらせ、そのまま床に倒れる。

 殴られた衝撃で、拳銃は手から離れ、床に転がる。雄介は拳銃を遠くに蹴り飛ばすと、床に転がった男の胸倉を掴み、懐に忍ばせたナイフを突きつける。


「言え、お前の他に、何人学校に入ってきている」


 雄介の口調は淡々としていた。

 怒りをむき出しにするでも無く、ただ淡々と目的だけを尋ねる。

 男もナイフを突きつけられているというのに、表情を変えず何も答えない。


「言わないと殺すぞ」


「無意味だ」


「なに?」


「私は、いや…私たちは死を恐れない。こんな事をされても口は割らない」


 男も淡々とそう言い、静かに目をつぶる。

 まるで男は「さっさと殺せ」そう言っているよな気がした。


「お前に、家族は居ないのか」


「私はただ殺すために作られた。オリジナルであるお前からな……」


「!! な…何を言っている……」


 雄介は男の言っている言葉の意味が分からず困惑する。

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