第15章 文化際の開始9

「どういう意味だ! オリジナルってなんのことだ!!」


「そのままの意味だ。檜山雄介……いや、今は今村か。お前だって覚えがあるだろ? あの実験を……我々はその実験によってつくられた!!」


「ぐっ!」


 話の途中で男は雄介の不意を突き、雄介を蹴り飛ばす。

 男の力は強く、雄介は背中から床に倒れ込む。

 男は直ぐに立ち上がり、雄介から距離をとって、拳銃を回収する。


「お前はまだ殺すなと命じられている。屋上に来い、そこに俺の……俺達の同類と共に、あの女が待っている。お前の大事な物をすべて壊すためにな」


「あいつらに手を出して見ろ! 俺がお前らを皆殺しにする!!」


 雄介は立ち上がり、男から距離をとる。

 男はそのまま階段を上がり、屋上の方に駆けて行った。

 雄介は、その場で怒りに震えた。


「クソッ!! あの女……」


 雄介は誰も居なくなった廊下で、怒りを壁にぶつけるしかなかった。

 思いっきり壁を殴り、滝沢への怒りをぶつける。

 雄介は、屋上に急ごうとまた駆け出す。そして懐からあの四角いケースを取り出し、中を確認する。


「いざとなったら……これを使おう…」


 ケースの中には緑色の液体が入ったアンプルと、それを体内に打ち込むためのシューターが入っている。

 雄介は足を止めて、小畑に連絡を取るためスマホを取り出す。滝沢との因縁に決着をつける、そう告白するつもりだった。

 しかし、小畑は出ない、代わりに電話に出たのは、雄介が怒りを向けている最中の女だった。


『やっぱりこの男に連絡したね~、このおっさんなら今は屋上で伸びてるよ~。早く来ないと、こいつも死んじゃうね~』


「滝沢ぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


 雄介は怒りをむき出し、我を忘れて吠える。

 そんな雄介を電話の向こう側で、滝沢は楽しそうに笑う。


『あはははは! 怒ってる? ねぇ、怒ってるよね?? 良いよ~、その声。早く会いたいよ~』


「覚悟しろ! 俺が絶対に、お前を殺す!」


『やってみな~、クソガキ…』


 そこで電話は切れた。雄介は静寂に包まれた廊下を走り、屋上に向かう。

 敵が何人いるか分からない、それでも雄介は負ける気なんてさっぱり無かった。

 拳銃を持った奴が何人いようと、雄介には勝つための策がしっかりとあった。


「この先か…」


 雄介は屋上のドアの前にたどりつき、改めてアンプルとシューターを確認し、アンプルをシューターにセットしてポケットに忍ばせる。

 アンプルはすべて合わせて3本。それらを確認し、雄介は屋上のドアを開ける。


「あははは! 待ってたよ~、遅いから一人殺そうかと思ってたとこだったけど、間に合ったね~」


 ドアを開けた先には、滝沢と先ほど戦闘をした男の他に、スーツを着た若い男が8人ほどいた。

 その後ろには、クラスメイトが十数名と優子や慎、沙月に帰ったはずの織姫と倉前さんも居た。


「あぁ~、まずは謝ろか~、我慢できなくてねー。結局今日全部壊す事にしたんだよ~」


「鼻からお前の言葉を信じたつもりはない、だから警官も手配してもらった」


「でもね~、このおっさんまったく使えなかったね~」


 滝沢は、頭から血を流して倒れている小畑の髪を掴み、顔を無理やり上げさせて、雄介に見せる。


「小畑さん!」


「…う…す、すまない…ゆう…すけ……君」


 小畑は苦痛に顔をゆがませながら、雄介に謝罪する。

 雄介はそんな小畑に心配そうな表情を浮かべる。

 滝沢はそんな小畑から手を離し、腹部に蹴りを入れる。


「ぐあ!……うぐ……」


「小畑さん!! 滝沢ぁ!」


「あはは!! その顔だよ、その顔!! 私に向ける怒りの表情! 私はあんたのその表情が見たかった~。でも、クラスメイトは怖がってるよ~」


 そこで雄介はクラスメイト達の恐怖におびえる表情が目に入った。

 覚悟したはずだった、それなのに、クラスメイトに向けられた視線に、雄介は心を痛める。

 嫌われても仕方ない、居なくなるんだからどう思われても良い。そう思っていたはずなのに、雄介はそんなクラスメイトの恐怖の視線が痛かった。


「じゃあ、さっそく始めよっか~、遊んであげな! おまえたち!」


 滝沢が声を上げると、スーツ姿の男たちは一斉に雄介に襲い掛かる。


「雄介!!」


 優子の叫び越えが聞こえた。

 雄介はもう隠す必要はないと、覚悟を決め、構える。

 そして、襲い掛かってくる男たちを次々に殴り飛ばしていく。


「フン! オラァ!!」


 男たちは一瞬のうちに全員が倒れる。

 雄介は何かかがおかしいと思った。こんなに弱い奴らを滝沢がわざわざ連れてくるだろうか? その違和感は的中した。


「強くなったね~、でも残ねーん。こいつらにはノーダメージだよ~」


「やっぱり……まさかお前!!」


「あはは、気が付いた? そうだよ、こいつらはあの時の研究の成果さ!」


 滝沢が言った瞬間、男たちは起き上がり、目にもとまらぬ速さで、雄介を殴り飛ばす。


「グアッ!! こ、この力……やっぱりか!」


 雄介は何とか体制を崩さずに済んだが、一撃だけにも関わらず、大きなダメージを受ける。

 

「そうだよ、こいつらこそ、あんたの研究結果をベースに作った強化兵士の完成形さ! どうだい? 後輩たちと…同類とあった気分は?」


 狂気の笑みを浮かべながら話す滝沢。

 男たちは再び雄介に襲い掛かる。

 雄介は何とか身を固め、ガードで防ごうとするが、男たちの力が強力過ぎて防ぎきれない。


「がはっ!! クソ!!」


 隙を見て反撃を試みるが、男たちには全く通用していない。

 雄介は距離を取り、どうにかしようと策を練るが、なにも思いつかない。


「こっちも奥の手を使うか……」


 雄介はポケットにしまっていたアンプルを取り出し、シューターにセットする。

 そしてシューターを首筋に当てる。


「おやぁ? まさか、それは……あはは! 最高だよ!! 本当に最高だよ!! あんたは人間を捨てる気だね? しかもそんなものをまだ持っているなんてね~」


「あぁ、お前も知ってるよな? このアンプルの事を!!」


 雄介は言葉を言い終え、アンプルを首筋に打ち込む。


「う! ……グゥ…が! ウガァァァ!!!」


 雄介はアンプルを打ち込んだ瞬間。苦痛の叫びを上げながら、体を震わせる。

 瞳が赤く変わり、前進は日焼けしたように薄っすらと黒くなっていく。


「あはは!! 打った! 本当に打ち込んだ!! あんたはもう人間じゃない! 化け物だよ!!」


「……」


 雄介は何も答えない、代わりに滝沢をギロリと睨みつける。

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