第15章 文化際の開始6

 渡辺が戻ってきた事を忘れて、バックヤードのクラスメイトは、雄介を質問攻めにする。


「いや、なんで今村がそんなお嬢様と知り合いなんだよ!」


「それもそうね……やっぱなんかあるんじゃ……」


 疑いの視線を向けるクラスメイト、雄介はそんなクラスメイトに押され、面倒だと思いながらも、自分が女性恐怖症という事を伏せて、織姫と知り合ったきっかけを話す。


「……まぁ、というわけだ」


「フーン……今村のお母さんってなんかすごいな……」


「俺もそう思うよ。まぁ、その話は置いといて……頼む、あいつは今まで家の中でしか生活をして来なかったんだ。だから、今日も頑張って家から出て来たんだ。俺の単なるわがままなのは分かってる、あいつの事、サポートしてやってくれないか…」


 雄介はバックヤードのメンバーに頭を下げる。それに続いて、倉前も頭を下げる。

 バックヤードの面々は、驚いていた。

 今まで、こんな雄介の姿をクラスメイトは見たことが無かったからだ。

 クラスメイトの雄介に対する認識は、あまりクラスに干渉しようとせず、少ない友人の慎と静かな学校生活を送っているイメージだった。

 最近優子の一件で、少しはクラスに干渉するようになってきた雄介だったが、それでも雄介の性格なんかを知るクラスメイトは少なかった。

 

「う~ん、今村ってこんなキャラだったか?」


「なんていうか、新鮮だな~。まぁ、そこまで言われたら、やるしかねーな」


「そうね、今村君の態度見れば、本当かどうかなんてわかりきってるしね…」


 クラスメイトは乗り気だった。

 織姫が可愛いという理由ももちろんあったが、それ以上に雄介の態度が新鮮であり、珍しかったため、手伝っても良いと考えるクラスメイトがほとんどだった。


「ありがとう、悪いな……」


「まぁ、このお返しは打ち上げでしてもらおうぜ!」


「そうね、今村。女子は全員にケーキセットで良いわ」


「じゃあ、男子は……織姫ちゃんの連絡先を……」


 堀内がそういった瞬間、バックヤードの女性陣が、一斉に堀内に冷たい視線を向ける。


「あんたねぇ……織姫ちゃんは男性恐怖症なの! 連絡先なんて教えられるわけないでしょ!」


「やっぱり……?」


 悲しそうな視線を雄介に向けながら堀内は雄介に尋ねる。

 雄介は胸の前でバツ印を作り首を振る。

 堀内はため息を吐いて肩を落とす。


「ふふ……本当に良いクラスの方々ですね」


 一連の状況を見ていた倉前さんが雄介に言う。

 雄介はバックヤードのクラスメイトを見ながら考える。

 入学して半年、あまりクラスの行事や友人を作ろうとしなかったが、文化祭の準備などをしていて、雄介は気が付きつつあった。


「そうかもしれないですね……良いクラスなのかもしれないです……」


 そうこうしていると、再び渡辺がやってきた。

 どうやらまだ、頭を探しているらしい。


「なぁ、マジで俺の頭どこよ? 借り物だぜ、あれ……」


「あぁ、悪い俺の知り合いが借りて行っちまってな。後で返すわ…」


「い、今村……そ、そうだったのか……ところでそのコスプレ似合っているな……」


「ん? あぁ、ありがとう。渡辺はどこ行ってたんだ?」


 雄介は頭なし着ぐるみ姿の渡辺に尋ねる。

 渡辺は顔を赤くしながら、雄介に話し始める。

 そんな渡辺の様子に、雄介は疲れているんだろうか? と言う疑問を抱く。


「まぁ、着ぐるみを着て宣伝しながら、歩きまわってたんだ、意外に着ぐるみが熱くてな……」


(あぁ、それで顔が赤いのか……)


 雄介は渡辺に、大変だったな、と一言声をかけ、着ぐるみの頭の詳細を渡辺に告げる。

 渡辺はこれから休憩だったらしく、別に直ぐ必要ではないらしく、頭は後で返してくれればいいという事だった。


「しっかし、遅いな……織姫」


「織姫って、その頭被っていった子の名前か?」


「あぁ、さっきクラスの女子がメイド服着せに、更衣室に連れて行ったんだが……」


「そうだったのか、ところで今村」


「ん?」


「加山さんが、ミスコンに出ているが、見に行かなくていいのか?」


 渡辺はどこか不安そうに雄介に尋ねる。

 雄介はそんな渡辺に、平然とした表情で答える。


「いや、当たり前のように俺に言うなよ……別に興味無いし、どうせあいつが優勝だろ?」


「ふーん」


「なんだよ、その不満そうな表情は…」


「いや、随分信頼してんだなーって思って…」


 不満そうな表情を浮かべながら、渡辺は雄介に話す。

 雄介は何のことかわからず、疑問そうな表情で、渡辺の話を聞いていた。


「当たり前のように、加山さんが優秀するなんていうからだよ」


「あー、まぁな。あいつ、実際可愛いし……」


「実際はそうは思ってんだ……」


 悲しそうな表情を浮かべて、頭をガクッと下げる渡辺。

 雄介はそんな渡辺を放って、一人疑問に思い、そして一人で否定を始める。


(あれ? どうしたおれ! なんであいつが可愛いなんて……)


 雄介は完全に渡辺を放置して、自分の中で考え始める。だが、答えは一向に出ない。

 そうこうしている間に、渡辺はどこかに行ってしまい、雄介は一人になっていた。


「あれ? 渡辺??」


「先ほどの方でしたら、先ほど教室を出て行かれましたよ?」


「そうでしたか、それより倉前さん……何やってんすか?」


 少し雄介が目を離した間に、倉前さんは頭に猫耳をつけて、飲み物や商品を運ぶトレイを持って、接客をしていた。


「お手伝いすると申しましたので、サービスです!」


「……そうですか…いや、良いなら良いんですが……」


 一体誰につけられたのか、倉前自身は何やら楽しそうに接客をしていた。

 雄介が渡辺と話している間に、倉前のおかげでメイド喫茶には客足が戻りつつあった。

 席は、ほぼ満席でほとんど男性。そして視線のほとんどが倉前に向いている。


「やっぱスゲーな……」


 雄介が関心しながら見ていると、入り口の方から先ほど織姫を連れて行った女子生徒が現れた。


「お待たせしました!! 新人ちゃんでーす」


 そう言って出て来たのは、メイド服に身を包んだ織姫だった。

 恥ずかしいのか、頬をほんのり赤く染め、スカートを抑えながら入り口付近でもじもじしている。

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