第14章 文化祭と過去と……1



 今日は姉さんの誕生日だ。

 母さんは朝から買い物に行って、御馳走を作っている。

 父さんは今、ケーキを買いに行っている。

 幼い俺は、姉さんへのプレゼントを作っていた。


「出来た!!」


 幼い俺は出来たものを改めてみる。

 母さんと父さん、そして姉さんと幼い俺が書いてある絵。

 絵が好きだった幼い頃の俺は、こんなプレゼントしか思いつかなかった。


「喜んでくれるかな?」


 姉さんが喜んでくれるか、当時の俺は少し不安だった。

 絵は好きだが、すごく上手いわけでは無い。

 だから、喜んでくれるか不安だった。


「ただいま~」


 父さんがケーキを買って帰って来た。

 父さんは優しくて、休みの日はいつも遊んでくれた。


「お帰りなさい、ケーキ買ってきてくれた?」


 母さんが父さんを出迎える。

 母さんはいつもニコニコしている人で、いつも笑っていた。


「あぁ、この通りだ。美由はまだ帰って来ていないよな?」


 美由とは姉さんの名前だ。

 この時姉さんは、空手の練習で近くの道場に行っていなかった。

 姉さんが居ない間に、誕生日の準備をして、帰ってきたらクラッカーでお祝いをする。

 そういう計画だった。

 幼い俺は、父さんと母さんのところに向かい、自分のプレゼントについての意見を求めに言った。


「お母さん、お父さん……お姉ちゃん、これ喜んでくれるかな?」


 幼い俺は出来上がった絵を両親に見せる。

 両親は柔らかいを笑みを浮かべて、幼い俺の頭をワシャワシャと撫でる。


「すごいじゃないか雄介! お姉ちゃん喜ぶぞ!」


「そうよ、ユウ君が頑張って書いたんだもの、お姉ちゃんも喜ぶわ!」


 両親の言葉に、幼い俺は安心する。

 両親からはあまり怒られた記憶が無い、二人がただ単に親バカだったのか、自分が良い子だったのか、今ではさだかでは無いが、両親は優しかった。


「さ~、雄介も手伝って! 早くしないとお姉ちゃん帰って来ちゃうわ!」


「うん! わかった!!」


 母さんは幼い俺にそういう。

 幼い俺は準備を手伝い。父さんも飾り付けなどをしていた。

 あっという間に準備が整い、リビングが華やかになる。後は姉さんが帰って来るのを待つだけだった。


「ただいま~」


 準備が終わって待っていると、姉さんの声が玄関の方から聞こえてきた。


「お! 帰って来たな」


「雄介クラッカー持って!」


 両親と俺はリビングで待機し、姉がリビングに来るのを待った。

 早く来ないか待っていると、姉さんは道義姿で直ぐに表れた。


パーン!!


 構えていたクラッカーを三人で一気に鳴らす。

 姉は何事かと目を丸くし、少し間をおいて両親と幼い俺は揃って言った。


「「「お誕生日、おめでとー!!!」」」


 姉はその言葉を聞いた瞬間に、ハッと思い出した様子でニコっと笑う。


「あ! そっか!! 誕生日だった!」


 姉は満面の笑みで母さんに言われる通りに、椅子に座る。

 父さんはケーキを出して、ロウソクを七本差し、テーブルに置き、部屋の電気を消す。

 誕生日の歌を歌いながら、家族で姉さんの誕生日を祝う。

 楽しい誕生日をしていた時だった。


ピンポーン


玄関のチャイムが鳴る。

もう時刻は20時を回り、こんな時間にいったい誰だろうと、両親は不思議に思う。


「お父さんが行こう。ハイハーイ」


 父さんは駆け足で玄関の方に向かう。

 どうせ宅急便か何かだろう、家族は皆そう思っていた……。

 父さんの声を聴くまでは……。


「母さん!! 子供たちを連れて逃げろぉ!!」


 玄関から聞こえた父さんの大声に、ビックと体を震わせる幼い俺と姉さん。

 母さんは何事かと、玄関の方に向かう。


「……!?」


 母さんは廊下に出た瞬間、目を見開いて、驚いてた。

 そしてすぐにリビングに戻ってきて、幼い俺と姉さんの元に駆け寄りいう。


「逃げるわよ! お母さんから離れないで!」


 言われた姉さんは、母さんのいつもと違う態度に、言われた通りに従う。

 幼い俺も母さんに従い、椅子から降りて母さんの手を握る、しかし……。


「おっと、逃げちゃ駄目だよ~。お父さん殺してほしくないでしょ~?」


 廊下の方から、土足で家に入ってくる一人の女性と二人のスーツ姿の男性。

 一人の男性は、片手で父さんの首根っこを掴んでリビングの方に投げ捨てる。


「ぐっは!」


 父さんは頭から血を流して倒れた。

 母さんはとっさに、幼い俺と姉さんを自分の後ろに隠す。


「ねぇ、逃げられると思った~? バカだよね~。子供まで作っちゃって」


 女性はしゃがみ込んで、父さんの顔を見ながらそういう。

 父さんは立ち上がり、母さんの前に守るように立つ。


「子供には手を出すな!!」


「うるさいねぇ、ちょっと黙ってな!」


 女は懐から銀色に光るナイフを取り出し、躊躇なく父さんの腹部を突き刺した。


「う……」


 父さんの腹部からは赤い血が大量に出ている。


「あなたぁ!!」


「パパ!!」


 母さんと姉さんは、そんな父の姿を見て、叫んで泣いていた。

 見知らぬ女性は、刺された腹部を抑えてうずくまる父に再度、銀色のナイフを突きさしては抜き、突き刺しては抜きを繰り返す。


「あぁ!! ぐはっ! こ…子供……には………妻には……」


「あはは! まだしゃべれるんだ? 何回刺したら黙るのかな??」


 女性は容赦なく、父さんにナイフを刺していく。

 何度も何度も、次第に父さんは声も上げなくなり、ぐったりとしたまま動かなくなった。

 そこで、幼い俺は、父さんとの約束を思いだした。

 父さんが居なくなったら、お母さんと、お姉ちゃんを守って欲しいという、約束を……。


(守らなきゃ……)


 幼い俺は気が付いていた、もう父さんが死んでいる事に、もう父さんは母さんや姉さんを守れないという事に。


「あれ? もう終わり? つまんないなぁ~」


 女は銀色のナイフをそこら辺に捨てる。

 父さんは相変わらず、動かない。

 母さんはそれを見て泣いている。姉さんも泣いていた。


『雄介なら強くなれるよ』


 幼い俺の脳裏には、父さんの言葉がよぎった。

 幼い俺は女性と男二人の目を盗んで、女が捨てたナイフを手に取り、女に向かって行く。


「うわぁぁぁぁぁ!!!!」


 幼い俺は、ナイフを両手で持って、父さんを切り付けて殺した女に向かって行った。

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