第14章 文化祭と過去と……1
*
今日は姉さんの誕生日だ。
母さんは朝から買い物に行って、御馳走を作っている。
父さんは今、ケーキを買いに行っている。
幼い俺は、姉さんへのプレゼントを作っていた。
「出来た!!」
幼い俺は出来たものを改めてみる。
母さんと父さん、そして姉さんと幼い俺が書いてある絵。
絵が好きだった幼い頃の俺は、こんなプレゼントしか思いつかなかった。
「喜んでくれるかな?」
姉さんが喜んでくれるか、当時の俺は少し不安だった。
絵は好きだが、すごく上手いわけでは無い。
だから、喜んでくれるか不安だった。
「ただいま~」
父さんがケーキを買って帰って来た。
父さんは優しくて、休みの日はいつも遊んでくれた。
「お帰りなさい、ケーキ買ってきてくれた?」
母さんが父さんを出迎える。
母さんはいつもニコニコしている人で、いつも笑っていた。
「あぁ、この通りだ。美由はまだ帰って来ていないよな?」
美由とは姉さんの名前だ。
この時姉さんは、空手の練習で近くの道場に行っていなかった。
姉さんが居ない間に、誕生日の準備をして、帰ってきたらクラッカーでお祝いをする。
そういう計画だった。
幼い俺は、父さんと母さんのところに向かい、自分のプレゼントについての意見を求めに言った。
「お母さん、お父さん……お姉ちゃん、これ喜んでくれるかな?」
幼い俺は出来上がった絵を両親に見せる。
両親は柔らかいを笑みを浮かべて、幼い俺の頭をワシャワシャと撫でる。
「すごいじゃないか雄介! お姉ちゃん喜ぶぞ!」
「そうよ、ユウ君が頑張って書いたんだもの、お姉ちゃんも喜ぶわ!」
両親の言葉に、幼い俺は安心する。
両親からはあまり怒られた記憶が無い、二人がただ単に親バカだったのか、自分が良い子だったのか、今ではさだかでは無いが、両親は優しかった。
「さ~、雄介も手伝って! 早くしないとお姉ちゃん帰って来ちゃうわ!」
「うん! わかった!!」
母さんは幼い俺にそういう。
幼い俺は準備を手伝い。父さんも飾り付けなどをしていた。
あっという間に準備が整い、リビングが華やかになる。後は姉さんが帰って来るのを待つだけだった。
「ただいま~」
準備が終わって待っていると、姉さんの声が玄関の方から聞こえてきた。
「お! 帰って来たな」
「雄介クラッカー持って!」
両親と俺はリビングで待機し、姉がリビングに来るのを待った。
早く来ないか待っていると、姉さんは道義姿で直ぐに表れた。
パーン!!
構えていたクラッカーを三人で一気に鳴らす。
姉は何事かと目を丸くし、少し間をおいて両親と幼い俺は揃って言った。
「「「お誕生日、おめでとー!!!」」」
姉はその言葉を聞いた瞬間に、ハッと思い出した様子でニコっと笑う。
「あ! そっか!! 誕生日だった!」
姉は満面の笑みで母さんに言われる通りに、椅子に座る。
父さんはケーキを出して、ロウソクを七本差し、テーブルに置き、部屋の電気を消す。
誕生日の歌を歌いながら、家族で姉さんの誕生日を祝う。
楽しい誕生日をしていた時だった。
ピンポーン
玄関のチャイムが鳴る。
もう時刻は20時を回り、こんな時間にいったい誰だろうと、両親は不思議に思う。
「お父さんが行こう。ハイハーイ」
父さんは駆け足で玄関の方に向かう。
どうせ宅急便か何かだろう、家族は皆そう思っていた……。
父さんの声を聴くまでは……。
「母さん!! 子供たちを連れて逃げろぉ!!」
玄関から聞こえた父さんの大声に、ビックと体を震わせる幼い俺と姉さん。
母さんは何事かと、玄関の方に向かう。
「……!?」
母さんは廊下に出た瞬間、目を見開いて、驚いてた。
そしてすぐにリビングに戻ってきて、幼い俺と姉さんの元に駆け寄りいう。
「逃げるわよ! お母さんから離れないで!」
言われた姉さんは、母さんのいつもと違う態度に、言われた通りに従う。
幼い俺も母さんに従い、椅子から降りて母さんの手を握る、しかし……。
「おっと、逃げちゃ駄目だよ~。お父さん殺してほしくないでしょ~?」
廊下の方から、土足で家に入ってくる一人の女性と二人のスーツ姿の男性。
一人の男性は、片手で父さんの首根っこを掴んでリビングの方に投げ捨てる。
「ぐっは!」
父さんは頭から血を流して倒れた。
母さんはとっさに、幼い俺と姉さんを自分の後ろに隠す。
「ねぇ、逃げられると思った~? バカだよね~。子供まで作っちゃって」
女性はしゃがみ込んで、父さんの顔を見ながらそういう。
父さんは立ち上がり、母さんの前に守るように立つ。
「子供には手を出すな!!」
「うるさいねぇ、ちょっと黙ってな!」
女は懐から銀色に光るナイフを取り出し、躊躇なく父さんの腹部を突き刺した。
「う……」
父さんの腹部からは赤い血が大量に出ている。
「あなたぁ!!」
「パパ!!」
母さんと姉さんは、そんな父の姿を見て、叫んで泣いていた。
見知らぬ女性は、刺された腹部を抑えてうずくまる父に再度、銀色のナイフを突きさしては抜き、突き刺しては抜きを繰り返す。
「あぁ!! ぐはっ! こ…子供……には………妻には……」
「あはは! まだしゃべれるんだ? 何回刺したら黙るのかな??」
女性は容赦なく、父さんにナイフを刺していく。
何度も何度も、次第に父さんは声も上げなくなり、ぐったりとしたまま動かなくなった。
そこで、幼い俺は、父さんとの約束を思いだした。
父さんが居なくなったら、お母さんと、お姉ちゃんを守って欲しいという、約束を……。
(守らなきゃ……)
幼い俺は気が付いていた、もう父さんが死んでいる事に、もう父さんは母さんや姉さんを守れないという事に。
「あれ? もう終わり? つまんないなぁ~」
女は銀色のナイフをそこら辺に捨てる。
父さんは相変わらず、動かない。
母さんはそれを見て泣いている。姉さんも泣いていた。
『雄介なら強くなれるよ』
幼い俺の脳裏には、父さんの言葉がよぎった。
幼い俺は女性と男二人の目を盗んで、女が捨てたナイフを手に取り、女に向かって行く。
「うわぁぁぁぁぁ!!!!」
幼い俺は、ナイフを両手で持って、父さんを切り付けて殺した女に向かって行った。
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