第13章 文化祭と新たな火種 13

 雄介と沙月が教室に戻ると、教室では開店の準備作業が始まっていた。

 みんな各々が衣装に着替え、メニューの作り方を確認したり、シフトを確認したりしている。

 そんな中に、異様な雰囲気を醸し出している二匹の着ぐるみが居た。

 着ぐるみだけを見れば、可愛いのだが、なぜか二匹ともしゃがみ込むように教室の隅に居た。


「なぁ……あれなんだ?」


「くまポンとニャフッシーだ」


「そういう事じゃねーよ」


 雄介は近くに居た慎に尋ねる。

 慎の話によると、なんでも昨日準備が終わった後に、試験的に着ぐるみを着て外を歩いrたらしい。

 そうしたら、近所の小学生にバカにされまくり、精神的にダメージが来てしまったらしい。


「あの中身って、確か石崎先生と渡辺だったよな? 今から本番だけど大丈夫か?」


「まぁ、着ぐるみはシフトの間だけって事になってるし、先生は見回りもあるから、そこまでずっと着てるわけじゃないから、大丈夫だろ。それより、加山は見つかったのか?」


「いや、教室に居るんじゃないのか?」


「さっきお前と入れ違いで登校して来てな。なんだ、会ってなかったのか?」


「あぁ、沙月さんとは会ったんだけど……」


 いつもは居なくても良い時に居る癖に、肝心な時に居ない。

 こんな時に限って傍に居ない。

 いつもは逃げる立場の雄介だが、今日は優子を追う側になっていた。


「もう一回探してくる」


「おい! あと十五分で文化祭始まるから、それまでに戻ってこいよ!」


 慎の言葉を背化に受けながら、雄介は廊下を駆け足で歩き、優子を探す。

 登校したという事は、おそらく着替えをしに更衣室に向かったはずだろう、雄介はそう思い更衣室を目指す。


「来たわ良いけど、考えてみれば、中を見て確かめるわけにもいかんな……」


 更衣室に到着した雄介は、焦ってそんな単純な事を忘れていた。

 仕方がないので、更衣室の脇の廊下でどうするか考える。

 そして雄介は、気が付いた。

 なぜスマホで電話を掛けるという、単純な事をしなかったのかと。


「そう言えば、電話番号知ってたんだっけ……」


 雄介はスマホを取り出し、連絡帳のアプリから「加山優子」の名前をタップし、電話を掛ける。


「も! もしもし!!」


「大声を出すな、びっくりしたわ……」


「あ、ごめん。雄介から電話って、久しぶりだったから……どうかした?」


「ん……あぁ、文化祭前に話がしたくてな。今どこに居るんだ?」


「えっと、屋上だけど、電話じゃダメなの? もうすぐ文化祭始まるよ?」


 雄介は、優子から居場所聞くと、優子との会話が終わる前に、屋上へと足を進めていた。


「あぁ、どうしても会って話たい。今から行くから待っててくれ」


 雄介はそれだけ言うと、屋上までの道のりを駆け足で向かい始めた。

 何かあってからでは遅いと思い、雄介は登校して直ぐに、優子にある話をしようと決めていた。

 雄介は思っていたのだ、あの時優子と約束した「その時」が今なんだと……。


「優子」


「あ、雄介!」


 屋上の扉を開けると、優子はメイド服姿で一人で景色を眺めていた。

 雄介が名前を呼ぶと、満面の笑みを浮かべて駆け寄ってくる。


「どうしたの? あんな事言われたら、告白じゃないかって、勘違いしちゃうじゃん。あ! もしかして本当に……」


「あぁ、告白なのかもな…」


 雄介は真剣な眼差しで、優子を真っすぐに見つめてそういう。

 当の優子はそんな雄介の真面目な表情に気が付かない。


「はいはい、わかってるって、違うんでしょ? まったく、雄介は………ん? 今なんて??」


 そこで優子は、真剣な表情の雄介に気が付き、顔を赤く染める。

 雄介の表情から、優子は今から言われる事が冗談ではない事を察する。

 雄介は、優子にゆっくり話し出す。


「前に、警察から二人で話を聞かれた時、俺が屋上でお前に言ったこと覚えてるか?」


「うん」


「今がその時なんだ」


 優子は何を離されるのか、雄介の「その時」という単語で思い出した。

 雄介の過去の事だ。

 前は、まだ話すときではないと言われてしまい、結局優子は聞くことが出来なかった。

 優子はなぜ今が「その時」なのか、わからなかったが、雄介の過去に前から興味があり、静かに話を聞いていた。


「俺が、今村家の本当の子供じゃないのは知ってるよな?」


「うん、お姉さんが血がつながってないって……」


「あぁ、俺が今村家に来たのは10年前だ」


「じゃあ、本当のお母さんとお父さんは……」


 雄介は少し間を置く。

 優子も雄介の言葉を待った。

 学校は間もなく文化祭が始まるとあって騒がしい。しかし、屋上だけは静かだった。


「殺されたんだ。一人の女のせいで」


「……」


 優子は何となく察しはついていた。

 警察から話を聞かれた時も、似たような事を雄介と刑事さんは話していた。

 なぜそんな事になったのか、優子が知りたいのはそこから先の事だった。


「10年前、あの日はゴールデンウイークの丁度中日でな、姉さんの誕生日だったんだ。家で母さんが御馳走を作って、みんなでそれを食べながら、姉さんの事を祝ってた」


「本当のお姉さん?」


「あぁ、俺と二つ違いだから、生きてたら高校三年だ。強くて、優しくて、頭の良い姉さんだった」


 雄介は空を見上げて話す。

 その視線はとても寂しそうで、優子は思わず視線を雄介からそらした。


「姉さんの誕生日……あの女がいきなりやってきたんだ」


 雄介は昔の事件の話を優子にし始める。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る