第13章 文化祭と新たな火種 11

 雄介は、あるところに急ぎ電話を掛けた。

 相手はコールして直ぐに電話に出た。


『はい、どうかしましたか? 雄介様』


 電話の相手は倉前さん、雄介は先ほどの出来事で、他にやる事が出来てしまったため、急遽今日は行けなくなったことを伝える為、倉前さんに電話を掛けたのだ。


「いえ、それが……用事が出来てしまったので、今日はちょっと行けそうになくてですね……」


『あ、そうだったんですか。残念です。お嬢様もお待ちしていたんですが……』


「すいません、明日の事は後でメッセージを送っておきます。急で本当にすいません」


『大丈夫ですよ。急用でしたら仕方無いですから、お嬢様も理解してくれます』


 優しい口調が電話越しに伝わるのを雄介は感じる。

 この人達が文化祭に来るのは危険ではないのだろうか? そう考える雄介だが、それでは雄介の今の状態についても話さなければいけなくなり、余計危険かもしれな。

 雄介はそのまま「すいません」と一言だけ言って、電話を切った。


「……どうする」


 雄介は必死に考える。どうすればこの事態を回避できるかを、どうすればあの女を止められるかを……。


「やっぱり、一人じゃ無理だよな……」


 雄介はとりあえず家に帰り、策を練る事にした。

 帰り道をどう帰ったのか、雄介は良く覚えていなかった。

 気が付いたら家についた。それほどに周りが見えなくなっていた。


「まずは電話だな……」


 雄介は自室に戻ると、机の引き出しを開けて目的のものを探す。

 几帳面な性格からか、引き出しの中は整理されており、探し物は直ぐに見つかった。


「あった。この番号だな……」


 取り出したのは、携帯電話の番号が書かれたメモ用紙だ。

 雄介はこの前スマホを変えた事で、データのほとんどが飛んでしまい、電話番号も消えてしまっていたため、あるところに電話するのに、この電話番号が必要だった。

 雄介はスマホを操作し、番号の相手に直ぐに連絡を取った。


『はい、小畑です』


「小畑さん、お久ぶりです……雄介です」


『おぉ、久しぶりだな~。どうした?』


 電話の相手は、十年前の事件でお世話になった小畑秀明(オバタヒデアキ)だ。

 十年前、監禁されていた雄介を救い出し、犯人一味の大多数が検挙された際に、雄介に優しく接し、色々と世話を焼いてくれた刑事さんで、年齢は今年で47になる。

 何か困ったら相談してくると言い、そういわれ、当時孤児院に行くことになった雄介に、小畑はこのメモ帳を渡していた。


「はい、かなり緊急の要件です。あいつが……滝沢絵里が……俺に接触してきました」


『な、なんだと!! 大丈夫なのか? 怪我は?』


「自分はなんともありません。でも、下手をしたら大変な事が起きるかもしれません……」


 雄介は小畑に、先ほどあった事を伝えた。

 雄介の知人や友人を狙っている事や、明後日の学園際を狙っている事、すべてを……。


『そうか……警察でも、最近は滝沢の目撃情報が多く上がっていてな。何とか身柄を確保できないかと考えていた。もっと君に対して注意を向けておくべきだった……』


「それで、何とか警察の力で、学園祭を中止に出来ませんか? 被害が出るよりはよっぽど良いので……」


『何とかこちらも動いてみるが、学園祭は明日なのだろう? 二日とも中止に出来るかはわからんが、何とか滝沢の予告した二日目は中止に出来ないか、学校に掛け合ってみよう』


「ありがとうございます。ですが、あの女が何を考えているか分かりません。周辺にも注意を向けて頂けないでしょうか?」


『あぁ、今から署に戻って、緊急に通達を出す。あと、雄介君』


「はい」


『頼むから、変な気は起こさないでくれよ』


 雄介は小畑の言葉が、ちくりと胸に刺さるのを感じた。

 当たり前だが、皆いう事は一緒だ、敵打ちなんてバカな真似はするな。そう言いたいのだ。

 雄介はそんな心配をしてくれている小畑に、心の中で謝罪する。


「分かってます。警察におまかせします。だからこうして小畑さんに電話したんです」


『そうか……なら良いんだ。何とかこちらも動くが、君も十分に注意してくれ。あと、大きな混乱を招くと悪い、あまりこの件は郊外しないでくれ』


「はい」


『気を付けるんだぞ』


 小畑からの電話はそこで切れてしまった。

 雄介はスマホを置き、ベットに寝転がった。

 落ち着こうとしても落ち着かない。目を閉じれば、雄介は滝沢の事を思い出して眠れない。

 怒りで頭が一杯になっていた。十年間待ち続けた敵を討つチャンスに、雄介は冷静では無かった。


「終わらせるんだ、もうあんな女を好き勝手させてはおけない……」


 雄介は立ち上がり、クローゼットの奥から手のひらサイズの四角いケースを取り出す。


「一応持っておこう……」


 雄介はそのケースをポケットにしまった。

 すると、机の上のスマホに通知が来た。

 雄介はスマホを手に取り、なんの通知が来たのかを確認する。


「優子か……」


 そこには優子からのメッセージが映し出されていた。

 一言ほどの簡単な物だったが、雄介はそれを見た瞬間に笑みを浮かべる。


「あいつ……」


 そこには一言「明日は頑張ろうね!!」とだけ記せれており、なんとも優子らしいと雄介は思っていた。

 いままで怒りで頭が一杯だったが、そのメッセージを見た雄介は、少し落ち着きを取り戻した。


(そうだ、今まで準備を頑張って来たんじゃないか……)


 明日くらいは楽しもう、油断は出来ないが、皆の前では普通でいよう。そう雄介は決意し、雄介は優子に一言「そうだな」とメッセージを返す。


「必ず、守ってみせる……」


 雄介は友人達や家族の顔を思い出す。

 この日常を守るために、大事な人たちが傷つかない為に、雄介は明日以降の事を考えながら、力ない笑みを浮かべる。


(また、一人になるかもな……それでも)


 雄介は明日の予定を倉前さんと織姫に送り。いつものように料理を作るために、一階のキッチンに向かう。

 色々な意味で騒がしくなりそうな文化祭が、始まろうとしていた。

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