ジグソーパズル
メアリーという老婆がいた。
頼れる身内はおらず、生活はきわめて貧しかった。
暇つぶしの道具といえば、孫娘の形見のジグソーパズルがあるだけだった。
そのジグソーパズルは完成させると、森の中で動物たちが楽しげにパーティーを開いている様が現れるのであった。
メアリーは来る日も来る日も、ジグソーパズルを完成させてはぐちゃぐちゃにして、再度、並べ始めた。
完成させてはぐちゃぐちゃに。完成させてはぐちゃぐちゃに。
何もかもあきらめてしまい、無気力になっていたメアリーが、ゆいいつ、体に力を込めるのは、ジグソーパズルをぐちゃぐちゃにするときだけであった。
なぜ、自分がこんな目に会わなければならないのか。
ひもじさ、孤独、絶望・・・・・・。
そういう思いを手に込めて、メアリーはジグソーパズルをぐちゃぐちゃにするのであった。
完成させてはぐちゃぐちゃに。完成させてはぐちゃぐちゃに・・・・・・。
その日はメアリーの誕生日であった。
しかし、祝ってくれる人もいなければ、ごちそうを用意することもできなかった。
メアリーは仕方がないので、いつものように、まだ家族に囲まれていたころのことを思い出しながら、ジグソーパズルを並べ始めた。
もはや枯れつくしたはずの涙が、どういうわけか、この日にだけは流れるのであった。
それが何回目になるのか、メアリーには見当もつかなかったが、ジグソーパズルが完成した。
ジグソーパズルの中では、動物たちが宴を開いており、クマが陽気に踊っていた。
奇跡が起きたのは、そのクマのうえに、メアリーの涙が落ちたときだった。
ジグソーパズルが光り輝くとともに、愉快な音楽が流れだし、動物たちがジグソーパズルの中から次々と現れて、メアリーを囲んだ。
「おばあちゃま。おまたせ。やっと時間が来たのよ」
事情がつかめないメアリーに、小鹿が声をかけてきた。その小鹿はどこか孫娘に似ていた。
「一体全体。わしはどうすればいいのかね?」
「なにも心配しなくていいわ。私たちと一緒に、ジグソーパズルの中へ入りましょう」
小鹿の返答に「しかし……」とメアリーはためらいをみせた。
「でも、おばあちゃま。ここにいても仕方がないでしょう?」
優しく問いかける小鹿の声に、メアリーはそれもそうだと思い、ひとつうなずくと、小鹿に続いてジグソーパズルの中へ入って行った。
翌朝。
机のうえのジグソーパズルはぐちゃぐちゃになっており、それに覆いかぶさるようにメアリーは事切れていた。
様子を見に来ていた隣人は、無言で十字を切った。
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