第1話 ひとりぼっちのソユーズ Fly Me to the Moon(七瀬夏扉)/推薦者:真野絡繰
この作品をひと言で表すなら、「たとえようもないほど美しい作品」ということになるでしょう。地球と月、男の子と女の子、日本人と外国人……といった、さまざまな対比をいくつも提示して織りなしていきながら、ひとりの少女の夢を繊細かつ透明感のある文体で描いていきます。
主人公の「僕」と、「外国の女の子」であるユーリヤ。
彼女が近所に引っ越してきたことで知り合うのですが、ユーリヤは月への強い憧れをもっています。そして「僕」に、こう告げます。
――ここから引用――
「よろしい。私はユーリヤ・アレクセーエヴナ・ガガーリナよ」
そして、ワンピースの裾をつまんで可愛らしくお辞儀をした。
その瞬間に、僕は体が浮かび上がったんじゃないかってくらい胸が弾んだ。
人生で初めての無重力体験だった。
ユーリヤは僕と目を合わせてにっこりと笑った。
「よろしくね、スプートニク」
――引用おわり――
これが、ふたりの出会いのシーンです。どうですか? まだ6歳ぐらい(だったかな?)のユーリヤの愛らしい仕草や表情が、目の前にくっきりと浮かぶように描き出されています。
こうして、「僕」はユーリヤにとっての「スプートニク」となり、ふたりは手を取り合うようにして少しずつ成長していきます。その間、読者も一緒に成長するかのようです。サブタイトルに置かれた『Fly Me to the Moon』は誰もが知る有名なスタンダード曲ですが、これはそのままユーリヤの願いでもあります。
――月へ連れて行ってね。
ちょっと気が強いユーリヤに振り回されっぱなしの「僕」。ときどきケンカもしつつ、それでもいつも一緒にいるふたり。この微笑ましい関係が、読む者をやさしく包み込んでくれます。
そして、感動的なエンディング。ネタバレになってしまうので書きませんが、最後の「outro」まで読んだら、ぜひもう一度「intro」まで戻ってください。すべてのことが、その一瞬でつながります。
第2部の『月のプリンセス When You Wish Upon A Star』は、それから何年かが経過した後日談にあたる作品です。
登場するのは、ユーリヤではなくソーネチカという女の子。その成長が、今度は大人になった「僕」の視線から描かれていて、読者はユーリヤのことを思い浮かべながらソーネチカの物語を読み進めることになります。
作者(七瀬夏扉さん)が「続編を書く」と宣言したとき、私はちょっと心配になりました。あれほど完璧に完成された『ひとりぼっちのソユーズ』に続編なんて蛇足では? と感じたからです。でも、それは私の杞憂でしかありませんでした。見事な物語が、またもや展開されていたからです。
物語全体を包むテーマは「月」や「宇宙開発」ですからSFにカテゴライズしていいと思いますが、本作はそれだけにとどまりません。ユーリヤ、ソーネチカ、僕の3人の成長物語であり、愛と友情の物語であり、夢と約束の物語でもあります。
およそ8万字。読み進める間、この素晴らしい世界にどっぷりとひたれることを保証します。そして、その後しばらくの間は、もっと素晴らしい読後感にも酔いしれることでしょう。
もちろん、「切なさ」や「感動」というキーワードに対して耐性の弱い方は涙腺にきますので、大きめのタオルなどをご用意のうえでお読みください。
この作品に、私の下手なレビューなど必要もありません。レビューすること自体が野暮ではないかと感じさせられるほどの名作です。
私は、この作品が好きです。そして、「この作品が好きな人」も好きです。
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