第23話

「それじゃあ行くよ」

夏美とモコから唾をごくりと飲み込んだ音が聞こえた。

んぐ。

何だろう生温かくてこの舌触りのよいものは。

そして何かに俺の唾液を吸い取られているような。

そして口の中で動き回るこの正体は何なのか早く知りたい。

「はい。終了。初めてだったけど上手くできたかな?」

もしかして俺は今桜と一線を越えてしまったのか。

「桜。今のって・・・・」

三人はなぜかニヤニヤしていた。

何がそんなにおかしいのだろうか。

「太陽さん。今の行為をディープキスとでも思っていますよねです」

そんなことはない。

と言いたいのだが全く持ってその通りなので何も言えない。

「太陽残念。今のはサクちゃんの舌ではないんです」

俺の心の中では悔しがっている俺と良かったと思っている俺がいた。

あれ夏美って桜の事サクちゃんなんて呼んでたっけ?

「え、何を俺にしたの?」

桜はニヤニヤしながら体の後ろに隠していた袋を取り出した。

その中には赤ちゃんの体を拭いたりするのに使うガーゼが入っていた。

「見てどうやったかはわかったでしょ?ガーゼを指に巻いて口の中で動かしただけ。これなら取れるんじゃない?」

「取れるとは思うけど何で初めてとか言ったの」

「初めてなのは嘘じゃないもん。男の人の口の中に手を入れるなんて普通しないでしょ」

ごめんなさい。

俺の勝手な妄想でした。


俺たちは家に帰ってからモコにやってもらうことにした。

紅葉ちゃんは自分で歯を磨いた後にモコに仕上げ磨きと言って再度歯を磨いてもらっている。

今日はその時に作戦を実行する。

頑張れモコ。

「モコネェ~。今日もお願いなのじゃ」

紅葉ちゃんはいつものように嬉しそうにやってきた。

モコにやってもらうのがそんなに良いものなのだろうか。

「紅葉ちゃんは何でそんなに嬉しそうなの?」

「だってだってモコねぇは仕上げ磨きの達人なのじゃ。優しくソフトに磨いてくれるし、自分じゃ磨きにくい奥歯まできちんと磨いてくれるのじゃ。そのおかげで歯医者さんにも歯綺麗だね。って誉められたのじゃ」

嬉しそうに話してくるが俺には分からない。

俺もモコに・・・・。

「太陽さん。帰ってきてくださいです♡」

俺はまたなんてことを。

紅葉ちゃんは仕上げ磨きが終わったのかうがいをしに洗面所へと向かった。

モコの後ろに隠しておいたガーゼを見てみるとそこには乾いているガーゼしかない。

そしてモコは暗い顔をしていた。

「私には出来ないです。人を騙すようなことをです」

作戦は失敗。

また新たな作戦を考えればいい。

俺はそう思った。


次の日放課後俺は昨夜の事をすべて話した。

「ごめんなさいです」

みんな気にしないで。

次頑張ろうなどモコに励ましの言葉をかけてくれた。

本当に優しい仲間で良かったと改めて思った。

「それでね私なりに考えたんだけどです・・・・。百%正直には言えないと思うです。だけど五十%くらいは話してです・・・・・。それで私たちみんなで太陽さんとのDNA鑑定をすすっていうのはどうですかです」

ですって言った時少し小声になってるモコ可愛すぎ。

俺死んじゃう。

「太陽は無視して、その考えには私賛成だよ」

「私も賛成。大賛成だよ。モコが考えたことだし絶対成功させますって」

「「よーし頑張るぞー」」

二人は両手を天に向かって上げ午後の教室の窓から叫んでいる。

グランドで練習をしている野球部は気をそらしてしまい落球をしてしまったらしい。

そのせいで先生にどなられている。

なんかゴメン。

けれども俺も

「頑張るぞー」

また落球をしたらしい。

本当にゴメン。

明日は土曜日みんなで桜の家に集まることにした。

そこで作戦を実行させる。


「太陽お兄ちゃん朝なのじゃ。起きるのじゃ。太陽お兄ちゃん今日は桜の所に行くのじゃよ。早く起きるのじゃ」

紅葉ちゃんがお越しに来てくれたらしい。

本当ならおはようとすぐに言いたいところなのだが妹(?) が起こしに来てくれたのだ。少しくらい妹(?) に起こしてもらうのを堪能したいものだ。

「太陽お兄ちゃん起きるのじゃ」

体をゆすってきた。

寝返りを打ちながらも顔は反対側へと持ってきた。

これでもし万が一ニヤついても大丈夫だろう。

かれこれ十分がたとうとしている。

「太陽お兄ちゃん起きないならあたし泣くのじゃ。だから起きるのじゃ」

もう半べそ掻いていた。

ごめんな紅葉ちゃん。

でも最後まで演技はさせてくれ。

「ふぁ~。おはよう紅葉ちゃん。起こしに来てくれたの?ありがとな」

「太陽お兄ちゃん起きるの遅いのじゃ。もっと早く起きるのじゃ」

俺のパジャマの袖で涙をふくその姿は輝いて見えた。

紅葉ちゃんには悪いことをしたがなんかうれしい。

最低な兄(?) だよな。

ゴメンね。

朝からいろいろなことがあったが今日は俺にとっても紅葉ちゃんにとっても大切な日の一つになりそうだ。

「太陽お兄ちゃん早く着替えるのじゃ。朝食は桜の家で食べると言っておったじゃろ」

そうだった。

早く身支度して桜の家に行かなくちゃな。

モコはもう起きて身支度とかいろいろやってそうだし俺も急ごう。


かれこれ一時間くらいたっただろうか。

俺たちはやっと桜の家の前にやってきた。

チャイムを鳴らそうとしたその時上から声がした。

「遅いよタイちゃん。早く上がってよ。なっつんもう来てるよ」

奥から夏美の声が聞こえる。お待たせしました。

ってあれ桜って夏美の事をなっつんと呼んでたっけ。

まぁいいか。

「「お邪魔しまーす」です」

「遅いよ本当先に食べちゃおうかって話してたんだからね」

桜のお腹からはぐ~ぅと音が鳴った。

桜は赤面をした後俺を睨んできた。

何かすみません。

俺の後ろでモジモジしていた紅葉ちゃんがようやく顔を出した。

「お邪魔するのじゃ」

それを言った途端また俺の後ろに隠れてしまった。

いつもあっているのにどうしたのだろうか。

少し経てば慣れるだろう。

「何かいい匂いがするです。何の匂いですかです」

「あ、ゴメンね。ずっと玄関先で。どうぞ上がって」

桜に案内されてリビングに入った。

そこにはお腹を空かせてご機嫌ななめな夏美の姿があった。

「遅い遅い遅~い。すべて太陽のせいなんだからね」

はい。本当に申し訳ありませんでした。

俺は今日何回謝ったのだろうか。

そんなことはどうでもよいな。

良くはないけど今は朝食だ。

朝食のメニューはトーストの上にレタスのベーコンそして半熟の目玉焼きが乗ったトーストとスクランブルエッグだ。

好きなものが多くて紅葉ちゃんの目は輝いている。

「「「「「いただきます」」」です」なのじゃ」

うまい。

グルメリポーターみたいには言えないがこのスクランブルエッグの甘さ加減は丁度良い甘さだ。柔らかさは少し柔らかすぎかもしれないが味は高級レストランに出せるくらいおいしい。

紅葉ちゃんはあまりのおいしさのあまり泣いている。

モコもたまに作ってくれるのだがその時は無言で食べているくせに。

モコが可哀想だぞ。


朝食も食べ終わり紅葉ちゃんにDNA鑑定をしてもらうための作戦第一弾に出ることにした。

と言ってこの方法しかみんな浮かばなかったんだけどな。

「今クラスで流行ってるゲームみんなでやらないです」

当たり前だがモコの提案に賛成した。

「うちもやるのじゃ。けどどんなゲームなのじゃ?」

俺がルールを教えようとするとモコは咳払いをしながら目で俺に説明は私の役目と訴えかけてきた。

なのでここはモコに任せることにした。

「あいうえおシリトリって言うゲームなのです。ルールは簡単です。リズムに乗ってしりとりをして、前の参加者が述べた単語の最後があ段の文字だったら、その行の文字を全部言っていき、最後のお段で始まる言葉でしりとりをするゲームです。例えばコード→ドア→あいうえ大阪なのです。負けた人は罰ゲームをするのです」

紅葉ちゃんがなんとなくわかったと言うのでペースを落としながらゲームスタートした。今回は罰ゲームなしで行う。順番は夏美→桜→モコ→紅葉ちゃんで俺の順番だ。

「それじゃああいうえおシリトリの『リ』じゃつまらないから一つ上の『ラ』からね。ラ『マ』」

「まみむめモカ『カ』」

「かきくけコウ『ラ』」

「らりるれロー『ス』」

「スア『マ』」

一周目は俺だけ普通のシリトリで終わった。

俺もたちつてトース『ト』とか言いたかったなぁ〜。

なんて考えていたら俺まで回ってきたようだ。

紅葉ちゃんはたちつてトース『ト』だから『ト』か。

トは・・・・・また言えないのか。

「ト『ワ』」

「わをんって『ん』から始まることになるから太陽お兄ちゃんの負けなのじゃ。このゲーム面白いのじゃ。」

紅葉ちゃんの一声でゲームは再開された。

あいうえおシリトリは何度も続いたがそろそろやめて本題に入ることにした。

「あいうえおシリトリも結構やったし今はやりのDNA鑑定やらない?」

少し強引すぎるかもしれないがこれが話し合いの結果これを実行することに満場一致だった。当たり前だが紅葉ちゃん以外は賛成してくれた。

しかし、紅葉ちゃんは少しばかり警戒しているように思えた。

「紅葉ちゃんもやるよね?」

桜の言葉に少しピクっと体が動いたように見えた。

紅葉ちゃんはやってくれないのかと誰もが思ったそのとき。

「あったりまえなのじゃ。うちもやるのじゃ。でも何をするのじゃ?」

DNA鑑定のキットを取り出しモコが説明をしてくれた。

紅葉ちゃんは簡単なのじゃと言い簡単に唾液をくれた。

いとも簡単にくれるとは正直思っていなかった。

紅葉ちゃんの唾液をもらえた瞬間とても嬉しかった。

決していやらしい意味ではないぞ。


紅葉ちゃんの唾液をもらえたのになぜか静まり返った。

なぜだろう。

だってそれは・・・。

その時突然モコの携帯が鳴り響いた。

モコは慌てて廊下に出て通話をしている。

みんなはモコの携帯が鳴り響いたおかげで少し正気に戻ってきたみたいだ。

実際俺が一番びっくりして動けない状況なのだから。


「あったりまえなのじゃ。うちもやるのじゃ。でも何をするのじゃ?」

紅葉ちゃんはそう言って唾液をキットの中へ入れてくれた。

そこまでは予定道理だった。

予定ならこの後は俺と桜でキットを届けに行くはずだったのに。

今俺は人生初の体験をしている。

「ちゃんと渡したのじゃ。しかし、うち見たいな女の子から唾をとったのじゃこのくらいはしてくれるのじゃよな」

紅葉ちゃんはそう言った。

その言葉を最後にこの場は静まり返った。

俺は以前桜に口の中に指を突っ込まれたことがある。

その時俺は桜の指を舌だと勝手に思い込み妄想をしていた。

今まさにその妄想が現実になってしまったのだ。

要するに今俺と紅葉ちゃんは舌と舌を絡め合わせながらキスをしているのだ。

嬉しくないという男はいないだろうが今この場所でやられると非常に嫌だ。

何とかして辞めさせようとも思ったが体が言うことを聞いてくれない。

その時モコの携帯が鳴り響いたのだった。

モコは電話が終わり帰ってきた。

その表情は落ち込んでいる表情と嬉しいという表情がぶつかり合った表情をしていた。

モコは作り笑いをしながら

「急用ができてしまったので今日はお先に帰るねです。また明日ねです」

そう言い残して帰ってしまった。

俺と桜夏美もモコを追いかけるようにDNA鑑定で使う唾液を知り合いの家へ届けることにした。

届けに行った後も桜の家で少し遊んだが紅葉ちゃん以外はみんなあの出来事が脳内から離れずあまり楽しめないでいた。

またいつ紅葉ちゃんがあんなことをしないか心配でならなかった。

俺もあの出来事を思い出すたび紅葉ちゃんとうまく話せなくなってしまう。

今後の俺たちがどうなるのかも心配だがモコのあの表情の裏にはどんなことがあるのかのほうが心配でもあった。

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