夏美ごめんね。
第16話
桜の花吹雪が見られる時期になってきた。
俺たち四人は無事に進級することが出来た。
しかも全員同じクラスだ。
そしてこの春からこの中学校の最上級生となったのだ。
春と言えば桜だ。
俺は桜が好きだ。
桜と言っても花の桜だ。
ほんのりとピンク色に染まる桜の木が学校には何本とある。
最近では桜とモコとお昼は桜の木の近くで食べている。
「今日もきれいねぇ~」
「本当だな。桜はいつ見てもきれいだ」
そして誉めても何も出ないぞと言わんばかりに俺の肩を叩いて来る。
桜とは言ったが俺の言った桜は桜ではなく桜なのだが。
名前が一緒だとうれしい時もあるがややこしい時もあるものだ。
「はぁ~」
今、俺もこのややこしさと夏美ともあの日からろくに話せていないことにため息をつきたいくらいだ。
何かしたのかと俺自身心配になっていた。
そんなときお昼の時間が終了したとチャイムが鳴った。
俺らのクラスは昇降口から一番遠いクラスである。
そのためチャイムが鳴ったら急いで帰らなくてはならない。
次の授業に間に合わないからだ。
授業も終わり帰ろうとしたとき夏(なつ)美(み)を見かけた。
今日は部活が休みだとクラスの友達から聞いていたので話しかけたが・・・・・
以前は話しかけても無視されるくらいだったが最近は一緒に登校すらしてくれない。
俺は何かしてしまったのか。
そうであるなら早く謝らなくてはならないと思っている。
「何をしたのか全く分からない。分からなくては許してもくれないよな」
太陽は一人つぶやきながら帰宅した。
桜は夜桜を楽しんでいた。
桜を見ることが好きだ。
毎年この時期になると春翔やさくらと夜桜を見に近くの河川敷まで毎日のように足を運んでいた。
しかし、もうそれは出来ない。
そう思うと胸のあたりがギュっと苦しくなってくる。
そんな悲しい過去を忘れさせてと願うように桜を眺めている。
「きれいだなぁ」
この言葉に返事をしてくれるものは誰もいない。
けれども桜は寂しくなかった。
今この場所にはいないけど新しい仲間たちが私にはいる。
もうわたしは一人じゃない。
桜は仲間のため、そして世のためにこれからも精一杯戦うことを桜に誓ったのだった。
冬休みのある日。
夏美は太陽の家に向かった。
昨日太陽に、お子ちゃまにはまだ早いのだよと言われた言葉の意味を知りたかったからだ。
太陽の家に行ってみると太陽の姿がない。
モコちゃんならいると思ったがモコちゃんの姿もなかった。
諦めて帰ろうかと思ったが最近太陽と仲の良い桜なら知っているかと思い桜に電話してみた。
すると
「もしもし桜ちゃん。突然悪いんだけど太陽知らない?」
「あ、タイちゃんね。知ってるよ。」
予想通りだった。
「駅前にいるよ。あ、でも行かない方が良いよ。これからちょっと遠いところに行っちゃうから」
「遠いところ?どこ行くの?」
「えっとねぇ~。さく――――――」
携帯電話の充電が切れてしまい聞くことが出来なかった。
でも桜ちゃんから駅前にいると聞いていたので行ってみることにした。
駅に着いたのは十八時十分。
あたりを見渡して探していると太陽とモコちゃんの姿があった。
「お~ぃ」
手を振り始めたとき、桜が二人の目の前にやってきた。
姿はデートにでもいくような格好だった。
太陽の言った
「お子ちゃまにはまだ早いのだよ」
の言葉は、そういう意味だったのか。
桜ちゃんとできていて野球よりも桜ちゃんと遊んでいる方が良いと。
今まで野球一筋でやってきていたのに。
桜ちゃんとできたからって野球を簡単に諦めていいの。
桜ちゃんより私のほうが・・・・・。
色々な感情が夏美の中でぐるぐるとまわっていった。
その日から夏美は太陽から何を言われても無視をし始めた。
数か月たった今もなおだ。
正直意地っ張りで子供っぽいだと思う。
しかし、そのくらい夏美はショックだったのだ。
今日もまた桜を見ながらお昼を食べている。
桜は日に日に散っていき緑色の葉がだんだんと大きくなってきている。
モコが毎日作ってくれているお弁当にも桜の花びらが描かれていて食べるのがもったいなく感じる。
「今日のお弁当もおいしいよ。毎日ありがとな」
「いえいえです。料理は私の趣味の一つですです。こちらこそ作らせてもらってありがとうございいますです」
「いやいやモコが作ってくれるから―――――」
「あ~も~うるさーい。何回同じこと言うねん。私も話に混ぜてよね。一人で桜も楽しいっていえば楽しいけどやっぱり寂しいもん」
「ごめんごめん。でも本当にありがとな」
「いえいえです」
桜が頬を膨らませ初めた。
その姿は可愛すぎるよ。
その膨らませた顔ががもっと見たくてあのやり取りを続けようとしたがしつこくやりすぎてもいけないと思いまたいつかの楽しみに撮っておくことにした。
と言っても今の俺は心から笑えたり出来ない。
夏美の事が気になって仕方がない。
もしかしたら二人なら何か知っているかもしれない。
「あ、そうだ。二人に相談にのってほしいことがあるんだけど・・・・。」
桜たちに相談を聞いてもらってから最初の日曜日。
夏美の所属している部活は日曜日が休みらしい。
だから今日は夏美をあの公園へと呼び出した。
来てくれるのだろうか。
心配をしながら待っていると時間通りに夏美は公園へ来てくれた。
相談をしたときに桜もモコも
「「まず何が何でも誤りながら何が悪かったのかを探るべし。」」
とアドバイスをくれた。
「夏美ごめん。俺って不器用なところがいっぱいあって、一つの事に集中しちゃうともう一つの事が出来たり・・・・出来なかったりして・・・・」
夏美は目が縦になるくらいの勢いで睨んできた。
頬も膨れ上がっている。
軽い喧嘩なら頬のふくらみを押したらなんとなく仲直りするのだが今はそんな状況ではない。
「夏美。俺は何をして夏美につらい思いをさせてしまったのか分からない。だから、教えてほしい」
「そのくらい自分で気づきなさいよ。私は前の太陽のほうがが好きだった。」
夏美はそのまま走り去ってしまった。
俺はその場に立ち尽くしていることしかできなかった。
来る日も来る日も夏美に謝り理由を聞いた。
しかし、夏美は一向に教えてくれない。
このままの関係はもう続けたくない。
それは夏美も同じ気持ちだと思う。
そうであってほしい。
だから俺は毎日のように謝り、理由を聞き続けた。
一週間が過ぎたころだろうか。
夏美の心が折れて教えてくれた。
理由は野球を辞めてまで桜と付き合い遊んでいることらしい。
桜も部活のマネージャーを辞めている。
そのため勘違いされることは仕方がないのかもしれない。
だが、俺たちは戦っているだけで付き合ってはいない。
戦っていることを話せば早いのだが夏美にはそのことは言わない方が良いと思う。
だから桜とは毎日一緒にはいるが付き合っていないと言い続けた。
しかし、信じてはくれない。
付き合っていないのになぜ毎日一緒にいるの。
など色々質問されたが答えられない。
どうしたらいいものか。
悩んでいても仕方がないと思い、桜を呼んで桜に助けを求めいssとに謝ってもらうことにした。
「なっちゃん本当に私たち付き合ってないよ。だから機嫌直して」
はい。分かりました。と、すんなりといくわけもないよな。
「じゃあこの前の駅前のデートは何ですか?」
駅前でデートなど桜としたことがない。
人違いなのかもしれないと思うが自分で言うのもなんだが夏美は俺の事をほかの人と間違えるはずがない。
だとしたら何のことだろう。
「駅前のデート?もしかして冬休みなちゃんが私に電話くれた日の事?」
「そうです」
あ、修行の時の事か。
桜から少し話を聞いていたからわかったが教えてくれてなかったらヤバい状況になっていただろう。
あれはデートだと勘違いされても仕方がないかもしれない。
しかしあの時はモコも一緒にいたぞ。
「夏美。よく聞いてくれ」
「何よ、改まって。謝るなら今のうちよ」
「俺は謝らない」
「まあ許す気はな・・・・。え、太陽はバカなの?」
「俺はバカじゃない。あの桜の姿はデートだと勘違いされても仕方がないと思う。しかし、あれはデートではない」
いきなり言われても言い訳を言っているようにしか感じられないだろう。
しかし、これが本当の事だから仕方がない。
「デートじゃない証拠は?」
「モコもその場にいた。デートなら二人でどこかに遊びに行く」
「デートではないとするよ。じゃあ三人で何やっていたの?私だけ抜けものにして」
俺は言葉に詰まった。
桜も俺も夏美には戦いの事をばれたくないと思っている。
何を言えばいいのか。
それは一つしかなかった。
俺と桜の共通点は野球。
丘に行っていたなら特訓をしていたといえばいい。
嘘をついてしまうが今はこれがベストだと思う。
本当の事を教えるときまでは騙していく今心に決めたのだった。
夏美には中学では野球部には入らないが高校に入ったらまた野球をやると約束し許してくれた。
これからは出来るだけ四人で遊ぼうと思う。
そうして俺たち四人はまた楽しい日常を取り戻した。
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