第9話

後夜祭のスライドショーが終わった。

スライドショーにはあの水の球以外に俺らとつながるものは何も映っていなかった。

やっと肩の力が抜けた。

早く帰ってお風呂にでも入りたかったのだが・・・・・。

今年は例年と違う後夜祭らしい。

他の学校と同じくこの後参加者自由でグランドに集まり文化祭で出た廃棄物などを燃やしてその火の周りを踊るらしい。

他の学校での七不思議には後夜祭で一緒に踊った二人は結ばれるなどがあるのを知っていた女子生徒は好きな男子と踊ろうと必死である。

なぜ、後夜祭に一部二部があるのかは生徒会長さんがグランドに集まり文化祭で出た廃棄物などを燃やしてその火の周りを踊る後夜祭をやってみたかったからだそうだ。

はっきり言って自由参加だしとっとと帰ってお風呂に入りたかった俺は帰ろうと思っていたのだが、夏美なつみたち三人に私と踊りましょうと誘われてしまったので残ることにした。

初めは私と踊るのなどと喧嘩っぽくなっていたが、モコが

「全員で一緒に踊るか、じゃんけんをして一周交代に踊るのはどうですかです」

と案を出してくれたおかげで事は収まった。

踊る順番は案を出したモコ、ジャンケンをして勝った夏美、さくらの順番だ。

「太陽さん。お願いしますです」

手を自分の胸の前で合わせて、俺の顔をキラキラした目で見つめる。

初めてモコを見る男性、いや女性もだろうがあまりのかわいさに倒れてしまいそうだ。

まあ俺も今倒れそうだ。

「太陽さん?太陽さん?踊りますです」

太陽はモコの手を取り踊り始めた。

太陽は今まで踊ったことは小学校の修学旅行の時に夏美とキャンプファイヤーで踊ったくらいだ。

リードの出来ない俺の代わりにモコがリードしてくれている。

男としては情けないが、今はステップなどを覚えなくては・・・・・

「太陽さん。次はこうですよです」

太陽のダンスは次第にうまくなっていった。

炎の周りを半周したところで

「太陽さん。私が未熟なために今日の文化祭中にタクティスが現れた事すらも気づかず遊んでいたです。私はバツを受けるです。何か私にバツをくださいです」

多分ギガンレスが現れた時の事だろう。

「バツなんて受けなうていいよ」

「ダメですよです。悪いことをしたらバツを受けるのが―――――」

「確かに遊んでいたことはいいことではないと思うよ」

「ならバツを―――――」

「もしかしたら、以前に同じ顔をしたタクティスに俺たちはやられたかもしれない。でも、モコのサポートがあったから今ここに俺らはいるんだ。だから、これでプラマイゼロ、いやまだプラスだよ。ていうか桜も同じことしてバツを受けてないんだからモコも一緒。間違えは人なんだからするんだよ。それを繰り返したら罰を受けてもらうけどね」

目をうるうるさせながらバツをくださいと言うのは卑怯だと思うがもともとモコにバツを与えるつもりはなかった。

「太陽さん。ごめんなさいです。これからも頑張りますので宜しくお願いしますです」

モコはそのまま桜の元へ走って言ってしまった。

そして、夏美が俺の前に立ちよろしくと手を出している。

夏美の手を取って踊り始めたがモコが気になってしまう。

モコを見てみると桜にも謝っていた。

桜の胸に抱かれて泣いているのが見える。

「太陽?何見てるの?モコちゃんを見てるの?」

「いや、別に見てないよ」

嘘をついてしまった。

ばりばりモコを見ていた。

「まあいいや。モコちゃんあまりの太陽のリードのなさに呆れて泣いちゃっているんじゃないの」

「そんなことないよ」

太陽は夏美の手を強く握り直した。

モコから教えてもらったスッテプで夏美をリードする。

「うまいじゃん」

「どうも」

二人にはそれから会話はなく炎の周りをまわった。

「ありがとね太陽」

「おうよ」

少し照れくさかった。

「また一緒に踊ってね」

手を後ろで組みまんべんな笑みを浮かべ太陽に言った。

太陽じゃない他の男子ならの心は強く打ち抜かれていただろう。

そのくらい・・・・・いや、それ以上に太陽の瞳には夏美がかわいく映った。

「あ、そうだ太陽。後で後夜祭前半に三人で何話してたか教えてよね」

太陽は額から炎の近くで踊っているために掻いた汗とは違い汗が湧き水のように湧き出てきた気がする。

俺が愛想笑いをしていると桜がやってきた。

「何変な顔してるの?あ、ゴメン。普通の顔だったね」

「どうせ俺はいつもこんな顔ですよ」

太陽はそのまま一人で炎の周りを歩いて行った。

「え、あ。ゴメンってば~。タイちゃん待ってよ~」

桜は俺の手を取りダンスはしなくていいと言った。

その代わり手をつないでと言われたので手をつないで炎の周りを一周することにした。

「ねえ杉並くん」

杉並くんと呼ばれたのが久々すぎてゾッとした。

「なんだよ。桜が杉並くんなんて気持ち悪いぞ」

桜は下を向きながら歩いている。

「そうだよね。ゴメンねタイちゃん。あのね・・・・」


      ☆


「なんだよ桜。気になるよ」

「タイちゃん。私ね・・・・・なの。ずっと前から・・・・・だから・・・・」

太陽は微笑んだ。

そして、何も言わず桜の頭に手をのせ撫でた。

炎の周りを半周くらい回った夏美たちの視界から二人の姿が炎で見えなくなるところで二人はキスをした。

「桜」

「タ、タイちゃん」

二人は見つめあい・・・・・


      ☆


桜の頭の中では最高のビジョンが完成していた。

しかし、桜は意を決して言おうとしていたのだが、口が思うように動かなかった。

「なんだよ桜。気になるよ」

桜は唇をかんだ。

「ゴメンね。忘れて」

桜は作り笑いをしながら言った。

その姿の意味を知るのはまだ先の話なのだろうと太陽は思った。

炎の周りを半周くらい回った夏美たちの視界から二人の姿が見えなくなるところで二人は手を離した。

「タ・イ・チャ・ン」

すると桜は太陽の後ろに回り太陽の背中にダイブした。

太陽はよろけたがすぐに体勢を立て直し、桜をおんぶした。

「なんだよ急に」

「何でもない。ただ・・・・・」

「ただなんだよ」

桜は笑みを浮かべ何でもないと言った。

「また何でもないですか?」

「女の子にはヒミツが数えきれないほどあるの」

太陽はあきれてため息も出なかった。

「あ、あっそ。的な態度取ったな。なら教えてあげよう。ただタイちゃんの温度を感じていたかっただけだよ」

太陽も桜も中学生で思春期中だ。

お互い恥ずかしくなり、太陽はすぐに桜をおろしてしまった。

太陽はおろしたことに少し後悔しながらも顔を赤くしていた。

桜は自分が嘘をついて恥ずかしいことを言ったことに後悔はしているものの嘘はついていないようなとあいまいな気持ちで、顔を赤くして下を向き歩いていた。

そんな二人は先ほど離した手をまたつないで歩き始めた。

おんぶの事は夏美たちにはばれたないか桜は心配だった。

心配で夏美たちを見ても二人は仲好く話していたので桜は少し安心した。

残りの時間は太陽と二人っきりでたわいもない話をした。


後夜祭後半は自由参加だったので三人と踊った後は静かに家に帰った。

帰り道に夏美に後夜祭前半に三人で何を話していたのかしつこく聞かれたがうまくごまかせた。

モコとも夏美とも桜とも今まで以上に仲が深まった気がした。

そんな三人を見て太陽は一人にやけていた。

「早く来ないと置いていきますよです」

戦いでも何でもみんなをサポートしてくれる縁の下の力持ちのモコ。

「ほら、太陽行くよ」

いつも明るく頼りにしている夏美。

「何変な顔してるの?あ、ゴメン。普通の顔だったね」

笑顔でけなしてくる桜。

太陽は今まで自分はみんなにはないタクティスと同じくらいの力を持っているから倒すくらいしか思っていなかった。

しかし今は違う。

太陽はこの楽しい時間を壊したくなかった。

まだ、具体的にはどうしたら良いのか分からない。

だけどこれだけは分かる。

タクティスを一日、一時間、一分いや違う。

一秒でも早く倒して誰もが安心できる世の中にすると心に誓った。

「待ってよみんな。今行く~」

太陽たちの戦いはまだまだ始まったばかりなのだ。

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