第19話-やはり名古屋の観光PRは間違っている。


天白区にある地下鉄平針駅。

隣の赤池駅は名古屋市営地下鉄で唯一、名古屋市の外にある地下鉄の駅であり

平針駅といえば、主に運転免許の試験場に用事があって降りることが多い駅として知られているのではないだろうか。


そんな平針駅に二人がやってきたのは、当然ながら別の目的があっての事だった。




朝、開園直後を狙って二人がやってきたのは、名古屋市農業センター だ。

ここでは名古屋市内にいながら、牛の乳搾り体験ができる…のだが、あまり来る人は多くない。

入園無料なのに、本当に勿体ない話だ…。



三大都市の一つとは思えないような体験をできる。

そんな魅力が伝わるかどうかはわからないが、観光地として認知されていないのが悲しかった中川 八熊は、農業センターの事を陰ながら応援していた。

だってここ、名古屋コーチンの雛の出荷量が1位だったり、色々な畜産動物が間近で見られたり、地元の野菜が売られていたりとなかなか凄い場所なのに、休日に来ても全然人がいないのだ…。



「とりあえず、搾らせてもらおうか。」


「は、はい!初めてなので…緊張してきました…」


「教えてもらった通りにやれば大丈夫だよ。」


そんなこんなで、乳搾り体験をした後は、牛舎近くの売店で無調整牛乳を呑む。

まさに栄養そのまま!という感じの味わいを体験できる、都会では考えられない施設。


「…私、動物園よりここが好きかもしれません。」


「うん、俺もそうなんだよね。」


中川 八熊が初めてここに来たのは、とある牧場経営シュミレーションゲームにハマった事が原因の一つにあるが、ここでは本当にリアルな牧畜たちの姿を見る事ができる。


そして…運が良ければ、卵からヒヨコが孵る瞬間を見る事ができる部屋もあり、何度も通う価値アリな場所なのだ。


そんな解説も交えながら、ゆっくりとヒヨコを眺めていた2人は、ふと思う。



「…お腹すきましたね。」



大高 和音のお腹がぐぅと鳴る。


会ってすぐにモーニングを食べてから移動するのが毎度の流れのようになっていたが、今日はまだ何も食べていない。


「すぐ着くから、ちょっと歩こうか。」


「はい!」



名古屋市を知り尽くしたとも自称するヒキニートの中川 八熊は、馴染みの店で今日、初めてのメニューに挑戦するつもりだった。




あいうえお


平針駅から徒歩数分の所にあるその店は、とにかくメニューの種類が多い。

そして、どのメニューも量が多い事が特徴である。

味はもちろん保証できるが、定番メニューから一風変わったメニューまで、とにかく多すぎて選べないくらいだ。


スパゲティが多いこの店だが、今回のお目当ては「まんまみーや」という、食パン(1斤)の上に、生クリームやフルーツが盛られた贅沢スイーツだ。


注文してからしばらくすると運ばれてきたそれは、圧倒的存在感を放ちながらも、見た目から美味しさを振りまいていた。



「すごい!!美味しそう!!」


「俺も実物は初めて見るけど…一人一個はやっぱり多かった…?」



とは言え、まずは一口…と食べてみると、パン生地がフワフワで口の中でとろける。

これは…余裕で1斤いける…!



終始笑顔で幸せそうに食べ切った2人。

食後のコーヒーを飲みながら次のデートの計画を立てる2人。


テレビ塔にも、水族館にも、動物園にも行かずに観光が成立しないだなんて事は、決してない。

知れば知るほどに、深い歴史が眠っているこの街は、一般的な観光雑誌には載らないような名所が、まだまだある。

それなのに、観光雑誌はすぐに名古屋市の外に遊びに行かせようとするのだ。


そんな観光PRのやり方は間違っている。



そう思って一人で立ち上げた「名古屋愛」の形は、思わぬ形の愛を引き寄せ、そして…

中川 八熊はこの名古屋の地でようやく、愛を知る事ができたのだった…。

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