第17話-俺の脳内選択肢がネット恋愛を全力で邪魔している。
『ここでは恥ずかしいから』と、舞台は天守閣から名城公園へと移る。
そんな中、数多のライトノベルを読破し、深夜アニメでは毎クール違う嫁を追いかけたヒキニート、中川 八熊は人生最大とも呼べる悩みに直面していた。
名古屋城のお堀沿いを歩きながら、話を始める美少女 大高 和音。
「えっと…改めて話すとなると、何から話せばいいかわからないですね…。」
「あー、うん…。」
「…この前は、結局水族館とフラワーガーデンに行ったんです。」
「うん。」
「先輩も、凄く喜んでくれて…本当に、管理人さんのおかげです。」
「いや、それは君が…頑張ったからだよ。」
「…それで、フラワーガーデンで告白しようとしたんですけど…。」
「…うん。」
「…できませんでした。」
「…そうなんだ。」
「…いえ、違います。しなかったんです。」
「…」
「…管理人さん、私…。」
そう言って、美少女がヒキニートの方を向き直る、刹那
どこからか、ふわりと柔らかな風が吹いた。
堀を泳ぐ鯉が跳ねる音がした。
「…待って、それ以上言わないで。」
それを制したのは、中川 八熊だった。
青春胸熱展開なんてこれまでもこれからも縁がないであろう彼自身が、この展開に着いていかないだなんて
自分でも理解出来ない事であるが、しかし…
「ごめん、この展開は流石にちょっと許容できない。」
「…私、まだ何も言ってないです…よ…?」
少し潤んだ瞳で見つめる美少女、だが…
それでも尚、こんな青春ラブコメは間違っている。
「…いや、ダメなんだよ。全然ダメ。前回会った時からフラグ乱立しすぎて足元見えないくらいになってるし、伏線回収の仕方も雑すぎるだろ…常識的に考えて。平積みのラノベかよ って感じだよ、まじで。」
「…ごめんなさい、ちょっと何言ってるかわかんないです…。」
何を言ってるかだって?
そんなのは中川 八熊でもわからない。
つまり簡単に言えば、動揺しているのだ。
「管理人さん。」
「…はい。」
「管理人さんとじゃないと、名古屋を歩いても、心から楽しめなかったんです。もっと、沢山の知らない場所を教えてください。これからも、ずっと。」
「…俺も、君と一緒に遊んだ日々は楽しかったよ。」
「良かった…。」
そうして、大高 和音は一息 呼吸を置く。
「…管理人さん、あなたの…名前を教えてください。」
「…ネットで知り合った相手に、軽々しく名前を名乗るのは、間違ってるよ。でも…」
「中川 八熊…です。これからも、よろしく。」
そう言って中川 八熊は、眼前の美少女から目を逸らした。
しかしすぐに、彼女は屈託のない笑顔を向けてこう言う。
「素敵な名前ですね、中川 八熊さん。私の恋人になってください。」
ネットに出会いを求めるのは間違っているし、そもそもが間違いだらけだ。
それでも、間違っていると知っていても尚、人は、間違いだらけの今を、間違ったまま歩み続ける。
結局は正しさなんて、最後に決めるのは自分であるべきだ。
中川 八熊は、そんな答えの出ない思考を捨てる事にした。
今は、目の前の少女に正直に向き合おうと決めた。
「…俺も、君と付き合えたら嬉しいよ。」
こんな時さえも、目を見て言えない自分が残念でならない。
しかし、大高 和音は満足そうな笑顔を向けてこう言う。
「八熊さん、私、安心したらお腹すいちゃいました。」
昼下がり、名城公園。
確かに、お腹も空いてくる頃だ。
「じゃ、行こうか。パンケーキとか好きかな?」
「はい!大好きです!」
「近くにはちの巣Cafe ってとこがあって…」
リア充カップルを夢見て調べたおしゃれカフェ情報をようやく役立てる事ができた中川 八熊。
よくあるテンプレを踏襲した上で、新しい締めを描くとすれば、これが相応しいだろうか。
…彼の間違いだらけの青春ラブコメは、まだ始まったばかりだ。
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