第12話-ドームの地下には車輌が眠っている。
名古屋には、まだまだあまり認知されていない部分が沢山眠っている。
例えば、ナゴヤドームの地下には中日戦の後の追加運転に対応するため、地下鉄の車輌基地があるし、名古屋駅のシンボル的存在のグルグルオブジェ「飛翔」は、災害時にはユニモールからの避難場所として機能するよう設計されている。
それらと並ぶ程の認知度かどうかは定かではないが、名古屋にも大仏がある という事をご存知だろうか。
しかも、全身が結構鮮やかな緑色の大仏。
本山駅から少し歩いた『桃巌寺』の奥に、その大仏がある。
しかも大仏を見るだけなら無料。
まさに観光資源!
でもなぜか、雑誌等で取り上げられる事は少ないこのお寺は、緑色の大仏以外にももう一つの名所がある…のだが、そちらは女子高生に決してオススメできないのがネックだ。
そんな大仏を目にした大高 和音の反応は、中川 八熊が予想していた以上の物であった。
「名古屋にこんな場所が…というか、奈良の大仏様よりインパクトありますよね…?」
「うん、色がね…すごいよね。」
元々は落ち着いた色だったそうだが、なんというか…このくらいの方が名古屋らしくて、中川 八熊は好きだった。
本当の名古屋が、本当の意味で何なのかは、中川 八熊にもわからないが…しかし、こんな姿も見せる名古屋を知らずして、本当の名古屋を知り得る事はできないのだ。
「よしじゃあ気を取り直して、三社巡りの続き行こうかー。」
「はい!」
本山駅から地下鉄に乗り、次に向かった先は千種駅であった。
駅から出て、徒歩数分で『高牟神社』に到着する。
「…なんだか、城山八幡宮とは規模が違いません…?」
と、美少女 大高 和音が零す。
しかし、その気持ちは充分に理解出来る。
城山八幡宮は石段があったり…敷地が広かったりと、いわゆる観光地的な構えであるのに対して、高牟神社はなんというか…閑散としている。
「いやまぁ…比べるものじゃないけど、気持ちはわかるよ…」
そう言いながらも社務所でスタンプを貰い、『恋の水』を飲む。
この恋の水 とやらは、長寿の水とも言われているそうなので、恋愛に縁のない中川 八熊も一応その水を口にする。
名水百選 にも選ばれているこの水は、水の歴史資料館で飲んだ『名水』とはまた違った美味しさだ。
などと要らない事を考えていると、大高 和音は急かすようにこう言う。
「管理人さん、早く次に行きましょう!」
「あ、うん…。」
そんなに焦らなくても可愛いんだから大丈夫だろ…と思う反面、それだけその先輩とやらに対して本気なんだとも思い直す。
足早に千種駅に戻り、地下鉄に揺られ 大曽根駅で降りる。
三社巡りもここで最後となるが…
まさかこんなに急いで回ると思わなかったため、予定以上に早く回りきってしまいそうだ。
最後の山田天満宮 寄り添い石を巡り、社務所で記念品を受け取った頃、まだ時刻は15時前であった。
「…思ったより早く回れたし、良かったらあと一箇所行く…?」
そう切り出すのに、中川 八熊は相当の勇気を振り絞った。
ただもう少し、大高 和音との時間を過ごしたいがための提案だったからだ。
「はい!是非お願いします!」
そうとは知らない美少女の屈託のない笑顔に罪悪感が芽生えながらも、中川 八熊は内心ガッツポーズした。
二人の向かった先は、ナゴヤドームの近くにある、名古屋で最もハートフルな神社 を自称する『晴明神社』であった。
名の通り、かの安倍晴明を祀った神社である。
京都にも有名な晴明神社があるが、格式が全く違うので決して同列に考えてはいけない。
まず、敷地内の至る所に☆や♡マークが溢れている。
女子高生のプリクラみたいだ。
「三社巡りした後に言うのも気が引けるけど、名古屋で一番願いが叶う神社らしいよ。」
と言うのも、神社境内に書いてあるだけで、もちろん真偽は不明ではあるが…
真剣に恋愛祈願する大高 和音の前で、決して下手な事は言えない。
…ちなみに晴明神社には、オリジナルグッズが販売されている。
お札にはラミネート加工がされていたりと、有難いのかどうかの判断に困る仕様である…。
ちなみに、大高 和音は迷わずあれこれ買っていた。
「えーと…満足した?」
「はい!」
なんというか…そこまで熱心になれるのが羨ましいとさえ感じた。
晴明神社を堪能した二人は、とりあえずナゴヤドーム前のイオンを目指す事にした。
大体何でも揃うイオン。
あれ、大高 和音…?ポイント、たまる…?
…いや、深く考えるのはやめよう…。
フードコートでジャンクな夕飯を済ませた二人は、次回の集合場所を確認して、互いに帰路についた。
あぁ、それにしても今回は本当によく歩いた…。
やはりヒキニートが、現役女子高生の体力に合わせて行動するのは、間違っている…。
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