第11話-この美少女には問題がある!


東山給水塔から少し下ると、日泰寺の敷地が見えてくる。

日泰寺といえば日本で唯一、どこの宗派にも属さないお寺…超宗派のお寺として一部の層に有名なお寺であるが…その凄さに女子高生が如何程の興味を示すかどうか、恋愛経験ゼロのヒキニートである中川 八熊が想像できるはずもなく、思考の結果『恋の三社巡り』という女子ウケが良さそうなコースを選択した。


その選択は正しかった。

そう、中川 八熊は正しかったのだ…。





件の日泰寺からほど近いお洒落カップケーキのお店で今時女子のようなランチを済ませ、三社巡り最初の目的地である城山八幡宮に向かう道中、これまでのどんな表情よりも輝いた表情を浮かべる大高 和音を見て、中川 八熊は確信した。


この美少女は、占いだとか、おまじないだとか、神頼みだとか、そういうのが大好きである。

そういうのが好きな女の子が、空想上の存在では無いという事を確認した頃、目的地に到着した。




「着きましたね!早く!早く行きましょう!」


「う、うん…行くから、ちょっと落ち着こうか…。」




恋の三社巡りは名の通りではあるが、三箇所の神社を巡って恋愛運を高める、わかりやすく言えばスタンプラリーのようなものだ。

覚王山と本山の間にあるここ、城山八幡宮

千種駅近くにある、高牟神社

大曽根駅近くの山田天満宮にそれぞれあるパワースポットを巡る。

需要の割にはあまり知られていない観光ルートなのではないかと思うが、如何せん移動距離が長いため、どにちエコきっぷをフル活用する他ないのが悩みだ。

ちなみに三社巡りに順番は無いので、もし行く場合には都合の良いルートで巡って大丈夫である事を補足しておく。



そんな現在地 城山八幡宮には、連理木という縁結びの御神木がある。

その周囲を男女定められた方向に周り、自然と足が止まった場所の紙垂の裏を見て、恋愛運を占うのだそうだ。

中川 八熊も、ホームページの写真を撮影するために来たことはあるが、実際に三社巡りに真剣に取り組んだ事は無かった。


しかし目の前の美少女、大高 和音はいつになく真剣な表情を見せていた。

真剣になっても結果など変わらないのだろうが、それほどまでに恋愛に対して真剣…というか、必死なのだろうか…。


大高 和音が連理木を堪能した後、一言。


「…管理人さんは、しないんですか?」


「…あー、うん、いいよ。」


信じてないし。とも言えず、歩を進める。

でも二次元の嫁との妄想デートとしては、二人で三社巡りっていうのも良いな なんて考えてしまうのはやはり病気であろうか。病気です。



ともあれ、三社巡りの一つを済ませた大高 和音は上機嫌であった。

そもそもこの美少女が不機嫌な所などまだ見た事もないが、それでも尚、過去に無いくらいの上機嫌であった。



目的を済ませ、足早に次の目的地に向かおうとする大高 和音を呼び止めるには勇気が必要だった。

しかし、それは呼び止めるに値する物だった。


「ここ、結構スルーされがちだけど…四葉のクローバーが探せる…らしいんだよ。」


そう言って、中川 八熊は目立たない看板を指さす。


「すごい! 言われるまで、気付きませんでした!」


そう言って足を止め、大高 和音はすぐ横に広がった緑の世界に目をやる。

ふと屈んだかと思うと、すぐに立ち上がり

満面の笑みをこちらに向ける。


「見つかりました。 さぁ行きましょう!」


「…まじか。」


「まじです♪」


そう言って四葉のクローバーを自慢げに見せる大高 和音。

可愛い上に、運にも恵まれている。

天は二物を与えすぎだよ、常識的に考えて…。



いや、前回も思った事だが…。

神様…この美少女へのステ振りには、問題がある…。

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