第9話-尾張のクロニクル
水の歴史プロムナード
知名度の低いそれは、いわゆる名古屋市の水道の歴史を辿る散歩道のようなもので、鍋屋上野浄水場から東山給水塔辺り、給水100周年記念碑までを結ぶ。
最寄り駅にして、砂田橋~覚王山のおよそ5kmを歩かせようという、なんとも魅力に対しての移動距離が長い散歩道であるが、中川 八熊は観光雑誌にも載らないこの道が好きだった。
なにせ、人通りが少ない。
しかも自慢のビオトープには、6月~10月にしか水が流れていない。
一度ビオトープの停止期間にも訪れた事があるが、なんとも悲しくなるほどの静けさ溢れる散歩道であったと記憶している。
しかし、男女が二人で歩く いわゆるデートというやつならば、そんな静けさが時には必要なのかもしれない。
楽しい場所に行くだけが、デートではない…と、何かで読んだような気がした中川 八熊は
港エリアに次ぐオススメデートプランに、水の歴史プロムナードを選んだのだった。
ただし中川 八熊、ヒキニート。コミュ障。
隣を歩く美少女に、気の利いた会話を続ける事もできない。
…流れる水の音だけが、二人を包んでいた。
この場所の魅力を伝えるのに、自分では役不足だ。
そう思いかけた時、大高 和音が歩を止め、口を開いた。
「…こういうのも、静かでいいですね。」
「あ、あぁ。よかったよ、わかってくれて。」
「前回も楽しかったですけど、私、都会って少し苦手なのかもしれません。」
都会にいち早く馴染みそうな今時の女子高生でも、そんな風に思うことがあるのか…。
「…名古屋は、都会なんかじゃないよ。」
「え…?」
「都会な部分も勿論ある。でも、そんなのは本当の名古屋じゃない。」
中川 八熊は、懐かしい感覚に浸っていた。
自分が初めてこの道を通った時の事が、つい昨日のことのように思い出せた。
ちょうど、ホームページを作った頃…3ヶ月前の事だ。
世の中が見ている名古屋の姿は、間違っている。
自分も間違っていた。
そう思って作り上げたホームページが、ここから生まれたのだ。
「今日は、本当の名古屋を教えてあげるよ。」
「はい!お願いします!」
そう言ってまた、二人は歩き出した。
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