第7話-No Nagoya No Life
抹茶フォンデュを楽しんだ美少女、大高 和音と妄想デートを現実に持ち込んだヒキニート、中川 八熊はすぐ近くの大須公園の木陰で椅子に腰掛けながら、商店街の至るところで配布されている「大須マップ」を広げていた。
お腹が満たされた後の大須商店街は、特に買いたいものや探したいものが無ければ楽しめない。
そう言われることが多いが、断じてそんな事はない。
万松寺の方へ歩けば、三輪神社という珍しい形の鳥居がある神社があるし、そこには矢場町の名の由来となった「矢場」の跡が残されている。
商店街を歩く多くのリア充が知らない観光地が、人知れず眠っているのである。
しかし、目の前の美少女 大高 和音がそんな地味な観光地をデートスポットとして選ぶかどうかは甚だ疑問である。
幾度となく脳内の嫁とシュミレーションした理想のデートコースの一つとして、大須商店街からほど近い場所は…今日の時間的には、あそこしか無いだろう。
「じゃあ、少し歩くけど行こうか。」
「はい!」
矢場とん本店のいつもの行列を横目に、少し歩けば目的地にたどり着く。
久屋大通公園フラリエ である。
基本的に定休日は無く、入場も無料。
誰でもフラリと立ち寄れるアトリエ がコンセプトとなっていて、季節によって移り変わる花々と、異国感漂う雰囲気がデートに最適だ と、中川 八熊のホームページには紹介されている。
何よりここのオススメポイントは、比較的人が少ない上に、栄にも大須にも行きやすい という点だ。
「わー!綺麗です!」
「名古屋の真ん中とは思えないよね。ほんとに。」
「はい!」
フラリエは、中川 八熊が大須商店街の人混みに疲れた時に休息のためによく利用していた場所でもあった。
「あ、そうだ…。ここを出てすぐの、やば珈琲もオススメだよ。飲み物が安い上に、コンセントがあるから充電させてもらえる。」
「ほ、ほんとになんでも知ってますね…」
「なんでもは知らないよ。知ってる事だけ。」
テンプレ的返答をキメた後にも、尊敬の眼差しを向ける美少女の笑顔が眩しい。
結局1日一緒にいても、中川 八熊はその目を直視する事ができなかった。
…やはり、ヒキニートがリア充の真似事をするのは 間違っている…。
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