[2] 快進撃

 中央軍集団はスヴァウキとブレストの突出部から、独ソ国境である「モロトフ」線を突破した。第3装甲集団が北翼から、第2装甲集団が南翼から東方に進撃していた。

 6月22日、第2装甲集団は第4軍(コロブコフ少将)の陣地を突破してミンスクに向かう街道を東方へ進撃していた。ブレストの東方で第14機械化軍団(オボーリン少将)が反撃した。しかし、定員割れの旧式戦車しか装備されてない第14機械化軍団は第2装甲集団の強力な装甲部隊の敵ではなかった。

 第3装甲集団は第57装甲軍団(クンツェン大将)が第3軍(クズネツォーフ中将)の防衛線を突破して、西ドヴィナ河の上流に向かって進撃した。後方の2個軍団(第5・第6)が背後に残る敵部隊の掃討に従事していた。

 2個装甲集団の間隙に位置するビアリストクの突出部に対しては、第9軍の2個軍団(第20・第42)と第9軍の3個軍団(第7・第9・第43)が南北から襲いかかった。歩兵部隊の任務は装甲部隊が抉じ開けた突破口に前進し、敵部隊を拘束して東方への脱出を阻止することだった。

 パヴロフは切迫する事態にひどく取り乱していた。西部正面軍司令部では、激昂したパヴロフが電話に向かって怒鳴る声が響いた。国境におけるドイツ軍攻撃の報告を別の前線指揮官から受けたところだった。

「分かっている!報告はもう受けた!上層部は我々よりよく知っているんだ!」

 前線ではボルディンが反撃の指揮を執ることになった。この日の夕方、ボルディンとゴルベフはパヴロフから命令を受けた。パヴロフの命令は「指令第3号」をそのまま履行するものだった。その内容に愕然としたボルディンはパヴロフに抗弁した。

「現状の兵力では、そのような反撃に出ることは自殺行為です!」

 パヴロフは断固とした口調で言い放った。

「これは命令なのだ!君らは黙ってそれを遂行すればよろしい!」

 6月23日、ボルディンは第10軍の第6機械化軍団(ハツキレヴィチ少将)と第6騎兵軍団(ニキティン少将)、第3軍の第11機械化軍団(モストヴェンコ少将)に対して反撃を命じた。ビアリストク周辺で包囲の危険にさらされている部隊を救援することが目的だった。

 しかし、この反撃は中央軍集団の圧倒的な進撃に影響を与えることもなく、第10軍は燃料と弾薬を消費して大きな損害を被った。第6騎兵軍団は移動中にドイツ空軍の空襲を受けたことにより、兵力の半分以上を喪失した。もはや反撃が無意味だと判断したボルディンはパヴロフの許可を得ずに独断で残存兵をいくつかのグループに分け、ビアリストクから東方のミンスクへの撤退を命じた。

 6月24日早朝、第3装甲集団は第39装甲軍団(シュミット大将)がヴィルニュスに到達した。ヴィルニュスの陥落を受けた中央軍集団司令官ボック元帥は第3装甲集団を北東に差し向け、西ドヴィナ河上流の要衝ヴィテブスクの攻略と西ドヴィナ河とドニエプル河に挟まれたモスクワ街道沿いの地峡部を封鎖しようと考えた。

 ところが陸軍総司令部からボックに下された命令は、第3装甲集団をモロデチノからミンスクに至る東南東に差し向けよという内容だった。陸軍総司令部は第3装甲集団をブレストから北東に進撃中の第2装甲集団とミンスク近郊で連結させ、ミンスク以西に展開する西部正面軍の包囲を企図していたのである。ボックと第3装甲集団司令官ホト上級大将はこの命令が「時間の浪費」であるとして抗議したが、ヒトラーが陸軍総司令部の方針を支持したために却下された。第3装甲集団は陸軍総司令部の命令に従い、モロデチノの方角に転進した。

 ミンスク市内では、主要施設の疎開が始められていた。銀行の資産や工場設備などが貨車に積み込まれたが、疎開作業はドイツ空軍の爆撃によって中断を余儀なくされて遅々として進まなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る