第19話 逐電
七人衆制度がはじまり1年半ほどがたった。この1年半やってきた事といえば通常の業務の話し合いだけだろう、ただこれには大きな意味があった。温井紹春には七人衆制度というシステム自体に力を発揮させるために敢えて守護・守護代が決定権を握っていた業務をここで決議することによって七人衆での決議の方がこれに勝るという実績を積み重ねていきたかったのだ。そういう意味でこの1年半の温井紹春は畠山家と戦っていた事になるだろう。そしてこの1年半の間は勝利を収めてきた事になる。
温井紹春にはもう一つ気になる事がある、長続連の動向である。当初、温井と長が反目し両派に分かれた調略戦になるかと想定していたが意外にも長続連はあっさり折れる、というよりも反抗の意味無しと現在の状況を解釈したのか、この1年半の間ただ温井紹春の命令を聞き続けたのだ。まるでその行動は温井派になりたがっているようにも紹春には感じられた。
(この強欲の思考は一貫しておるな、ワシに刃向っても利益なしとみたか、つくづく喰えぬ男よ・・・結局ワシに刃向って来たのは阿呆せがれだけであったか)
とにかく長続連が紹春の下についたことによって、温井紹春は七人衆決議の決定権を握る事になり、紹春の野望はすんなりと完成したのだった。
ただ一つ、紹春には決断を下さなければならない事があった。続光の処分である。このまま続光が大人しくしていればいいが、隙をみせれば喉ごと喰いちぎられる可能性もあった。
「やはり消えてもらうのが良いじゃろうな」
能登にいる遊佐の兵数などたかが知れている。
何かで因縁をつけ、滅ぼせばよい。
そこに何やら血相を欠いた感じの遊佐家の小姓がやってくる、この頃になると七尾城に温井屋敷と遊佐屋敷があり、両家とも七尾城内に住んでいた。
「紹春様、大変失礼かと存じますが・・・我が主を見ましたでしょうか?」
「おお、守護代殿か?見ておらんな・・・」
「左様にござりましたか、では失礼いたします」
この時、紹春は何かおかしいと感じた、いくら両家とも七尾城内に屋敷を構えるようになったとはいえ遊佐家の小姓が温井家の棟梁に“主を行方を聞く”などという事は尋常ではない。
「待て、どうしたのじゃ!」
小姓が言いにくそうしている、何かあったことは間違いない
「言わぬか、首をはねられたいか」
「はっ・・・では・・・一週間ほど前に主が流行り病にかかったという事で家臣以下主の座敷へ入室を禁じられていたところ、今日になり我が小姓組の者がいくら呼んでも返事がないゆえ勝手に座敷に入るとそこには誰もおらず、どうしたものか途方にくれておりました。」
紹春は直感した
(逐電【逃亡】したのじゃ!!なんという奴!!)
(しかし、なんたる勘の良さじゃ・・・ワシが消そうとした矢先に逐電するとは・・・)
能登国中が守護代が逐電するという前代未聞の珍事に驚いた。
人間いざとなれば我が身かわいさに守護代という地位ある人さえも逃げてしまうのかと
温井紹春は続光の大胆かつ間抜けな行動に力がぬける思いであった。ともかく、紹春はこれを好機と捉え、「七人衆の欠員を補う」という名目で続光の欠員を補うだけでなく七人衆の中で比較的、温井に反抗的なメンバーを追い出し、新たな温井派を入れ、自身も息子に家督をゆずり裏方から七人衆を操ることに決めた、そしてただ一人守護の畠山義綱たっての願いという事で畠山義綱のブレーンである「飯川光誠」も加わることになり、温井紹春の私心丸出しの第2次七人衆がはじまるのであった。
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