第16話 その戦いの裏側
総貞が長続連の人物鑑定をする場面まで少し時間を遡る。
数人から長続連の話を聞き、行動と結果を見て、最後に本人と話して総貞は確信した。世間では何を考えてるか分からない男などという評価だがなんのことはない
この男は「利を重んじる男」だ、義や名に興味があるわけではなく、目の前の魚に喰いつく、ただ単に強欲なのだ。天秤にかけられた重りで全てを決める男なのだ。
ここから先の総貞は畠山家を超える為に賭けに出る。
長続連に畠山家の家臣でいるメリットを1から10まで享受した、むろん畠山家という直轄軍が存在しない事も喋った。そしてその後に自分が考えている重臣同士の合議制の話もした。
長続連はシンプルだった、「四家老」と「合議制の一員になること」要はこのどちらがよりメリットがあるかという話だ。
総貞は続連を完全に理解していた。
「その方にとり、良き方をとりなされ」この言葉だけでよい
あとは勝手にどちらが重いかを秤にかける、この男はそういう男なのだ。
続連はこう考える「とりあえず遊佐続光の話を受けてみる」四家老は確かに魅力だからだ。
その後四家老になった後に気づく、所詮はNO2の守護代の小間使いの仕事しかないのだなと、決定権を握るのは全て守護代か守護で何らかの決定に参加することができない。自分が担当する人事権が増す程度である。
そうすると「重臣同士の合議制の一員」になった方が決定プロセスに参加できるのではないだろうか?そもそも合議制なのだから温井一派を追い出すことも夢ではないのではないか?
そこでその「合議制の一員となる為の条件」とやらの珠洲の村の焼打ちを行う。
これで温井と遊佐のどちらが勝ってもどちらかの側として安定した地位が望める。
ここで総貞の罠にハマった事に気づく、珠洲を襲った黒装束が長続連の軍隊であると遊佐続光に知らせる遊佐側の生き証人を温井が閉じ込め牢に囲っていることが分かった。予め長続連の軍隊にひそませていた温井の部隊が手引きしたものだった。
ここで長続連は選択を迫られることになる。
遊佐軍が温井に勝利すれば生き証人を温井方に解放され遊佐続光は激怒しその後遊佐が統べる能登畠山軍討伐軍と戦う事になる。
温井方として戦っても「合議制の一員」になれるか怪しくなってきた、はたして総貞が約束を守るのだろうか?
こんな時、温井軍が遊佐軍に負けた報せが届く、もう長続連にはあとが無くなった、そこに最後のひと押しがくる、畠山義続が自ら穴水城まできて、「乱を止められなかったのは自分の責任である」との事を永遠としゃべりだし、最後は遊佐を打ち払ってくれたら続連に合議制の一員になる資格をあたえる事を喋り出したのだ。
長続連はなぜ温井から聞いた合議制の話を義続が知っているのか驚いたが、ずいぶんと前から総貞によって畠山の重臣が望んでいる事として聞いていたみたいだった。長続連も遊佐続光もそれを望み、それが叶わなかった場合は重臣の誰かが畠山家を殺しにくると言い含められていたみたいだ。つまり義続の頭の中では自分の失策により遊佐続光が逆心に及んだと理解されていたのである。ボタンの掛け違いのような話であるが、とにかく温井総貞は畠山義続にそう思い込ませることに成功した。
長続連にとって全てのピースがそろった瞬間であった。
「重臣同士の合議制」は確かにおいしい話に思えたが、“義続の許可をどう得るのか”というのが長続連にとっての大きなポイントだった。だが既に義続の許可は得たのだ。
義続にこんな話をさせた以上温井総貞も約束を破る事はしないだろう。
片方の天秤の皿には「不利益」しかなく
もう片方の天秤の皿には「利益」しかない
「迷う必要はないではないか」
こうして長続連は自分の妹の夫を裏切る決心をしたのだった。
その後の展開は前述したとおりである。
味方のふりをし遊佐軍に近づき包囲網の一角に突撃し鞍川親子を討ちとり、平と遊佐の軍団を跡形もなく壊滅させたのだ。
この戦によって畠山家中に「長続連」の名が響き渡る事になる。
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