第13話 初陣の総大将

 続光は平、鞍川を従え一路七尾城に進軍した。その間に畠山義続には逆族(温井)を成敗し義続様のお心を鎮める為にこの度の戦をおこした、という言い訳にも似た書状をおくっていた。

誰の目にも畠山家など関係が無く遊佐家個人のための闘争であることが明らかであったがこういう言い訳がましい書状がないと後が面倒になる。



遊佐続光率いる軍が最初の戦闘に入ったのは七尾城近くの天神河原という所であった、現在もその地名が残っており多少海側まで下りて行くと大谷川という河川がある、天神河原町が大谷川よりも高い所にあるのを想像すると、かつてここには現在よりも太い河川として大谷川が脈々と流れていたことになるのではないだろうか。

話はそれたが、ともかくそこで最初の戦闘があった。敵側の総大将は温井家の傍流にあたる温井光宗、副将には温井派の無愛想で有名な仁岸宗心がつとめた。


遊佐軍は前衛を平重冬と鞍川清房が担当し続光は後衛で総大将として全軍の差配をした。驚くべき事に続光にとってこれが初陣である。



お互いに川をはさんで向かい合ったので、弓矢による攻防がしばらく続いた、そんな戦いを続けていると背後が気になってくる・・・というのも続光には実は憂慮すべきことがあったのだ、長続連の軍とは七尾で合流する手配になっていたはずなのだが一行に来る気配がない。使いの者を2~3度送ったのだが「守護代殿の戦の仕度の最中にて、しばし遅れ申す」という返事のみ。そもそも長続連の穴水城から七尾まではそれなりに遠いが珠洲からよりはよほど近い、遊佐の軍隊は畠山家による討伐のために集めた軍隊をそのまま運用したもので、ここに鞍川の軍が加わった事になる。だが長は一度引き上げる必要があるというので、その要望を聞いのだが、遅参するというのはどういうことなのだろう?


(裏切ったのか?それとも遅れているだけか?)


続光はそもそも長の軍事力を頼むところが多かった、その為に四家老の席まで用意したのだ。これは続連にとっては破格の待遇のはずである。


(私がいなくなればまたお前は元の外様だぞ、わかっているのか!!)


続光はだんだん苛立ちを隠せなくなり渡河の命令を出そうとした、だが本陣にいた鞍川清房の息子、鞍川清経に止められる。


「守護代殿!気は確かか??この状況で渡河するなど正気にあらず!!」

続光は自分より年下のしかも氷見などという辺境地方にいる若造に一喝された事に大いに腹をたてた。



「では、この状況をどう打開いたす!!」


「このまま弓矢を打ちあう事こそ上策」


「愚かなり清経!!」


「愚かなのは守護代殿の方にござろう!!渡河などしたら全滅にござる!!」


「かまわん全軍渡河せよ!!」



と命令を出した直後、驚くべきことにしびれを切らした温井軍が渡河して来たのである。


遊佐軍の渡河の命令は中止され岸から弓を放ち応戦、近づいてきた兵には長槍をもって対処した、結果温井軍の先鋒をつとめていた仁岸宗心は戦死、温井光宗は命からがら七尾城に逃げ帰る事になり、遊佐軍はこの初戦に勝ったのである。


遊佐軍の軍勢は1000人ほどであるのに対し温井軍は2000人であった。


遊佐軍が天神河原に布陣した事が結果的に両軍の勝敗をわけたのだ。


その後、遊佐軍は七尾城を包囲し激しい攻城戦をしかけることになる。

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