第11話 乱の誘発
(どうも最近“刈田狼藉”が多い、それも遊佐の領地のみが集中して狙われておる)
刈田狼藉とは土地の知行権を主張するためにその田んぼの稲を刈り取って行く実力行使の事をいう。いわゆる温井派の面々が土地の権利関係において遊佐家に因縁をつけてきてるのだ。
(それにありもしない遊佐の郎党の狼藉を守護代を通り越し守護に直接訴状をしている面々も多くなった、きっと守護殿は鵜呑みにしてるに相違ない、おそらく守護殿の目には遊佐と温井が激しく争ってるように見えているはずだ・・・)
続光は想像する。これは四家老から温井派を一掃したことへの報復なのだろうかと。
四家老とは俗に年寄衆と呼ばれ守護代の手足となり能登全土の行政業務を遂行する機関である、守護代にはこれの推薦権があり現在の四家老は遊佐・誉田・神保・それに続光の推薦で新たに四家老入りした長続連の四名により行われていた。これらの面々はいずれも温井派ではなく温井総貞にとってみれば頭の痛い問題だろう。それに総貞は先代の義総公のお気に入りという側面が強く、その時代でさえ守護代自体は遊佐家の傍流にあたる遊佐秀盛、秀頼親子であった。
そう考えると総貞は畠山家に元々ある身分に立脚して自分の立場をつくってきたわけではなく、それとは別の義総のお気に入りという畠山の統治機構からするとかなり曖昧な立場から家中一の実力者にまで昇って来たことになる、そして、その義総が死んだ後もその権威を維持しているのである。その事実にやはり改めて驚愕せざるえない。
だが、義総公は死んだのだ。
義続は彼が父の側近であった事を意識しそれなりに重く扱っているが、時がたてば人々は統治機構のもたらす利権にすり寄るようになる、何の身分の後ろ盾もない温井は時が経てば経つほど求心力を失い瓦解するはずだ。
つまり、この刈田狼藉は温井総貞の断末魔なのだ。奴は焦っている。
「守護代殿~~!!大変でござる!!」
平一族の平重冬が血相変えて府中館にやってきた。
「これは重冬殿、いかがされた」
「そなたの領地の球洲の話じゃ!謎の黒装束の者たちにいくつかの村が焼かれたそうじゃぞ!!」
「なにぃ!!???」
すぐに続光は現場に急行した。だがそこはすでに灰と死臭がたちこめた無残な土地になっていた、一体何人死んだのだろう。続光には犯人が分かっていた、温井総貞以外ありえない。奴は自分の軍を変装させ自家の旗を降ろし凶行に望んだのだ。
続光は七尾の府中館に戻ると球洲における凶行を総貞のものとする訴状を自ら書き、総貞に対して直々の聞き取りを望んだ。しかし総貞は「身に覚えなき宜、甚だ迷惑に候」との書状を返してきたきりでこの問題を終わらせてしまった。
そうするうちにまたいくつかの村が焼かれ、珠洲は総貞の実力行使により領国全土が焼け落ちる危機に陥っていた。その様は生き証人一人いないという有様で、もしや誰かが牢獄に閉じ込めているのでは?と勘繰ったぐらいだった。
「まさか、こんな荒技を使おうとは・・・総貞は遊佐の土地を焼きつくすまでやるつもりか」
続光はこれは最早“畠山家の問題”であるとして守護の名の下に畠山全家臣を招集し討伐令を出さなければならないと考えていた。そしてそれからしばらくしてから畠山義続の名で討伐を宣言するのだがここで驚愕の事態がおこる、なんと集まった軍は遊佐・飯川・平・長・誉田の軍のみで温井・三宅・仁岸などは「遊佐殿の私戦に加われというのは甚だ迷惑」といい参陣しなかった、義続はこれに大いに動揺し討伐は取りやめとなった。
この一件は温井の息のかかったものは守護の義続の命令よりも総貞の命令を聞くと理解された、その者の多さに義続は驚愕したのだった。
続光はいよいよ追い込まれてしまった。私戦だろうと遊佐家が先頭にたち温井を討伐しなければ自国の領土が消滅するのである。
続光が動かせる兵と考えているのは遊佐家、平家、それに長家であった。誉田、神保などは日和見でどちらにも属さない可能性がある。とにもかくにも続光は乾坤一擲の戦をしかけなければならなくなったのである。
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