第10話 構想のはじまり
この時期の温井総貞はある事を真剣に考えていた。それは“主家超え”である。畠山家をいかに超えて能登全域を治めるか・・・方法はいくつかある。
①若い主君に強制的に代替わりをさせ傀儡にする
②主君を追放(殺害)し、自分が能登の戦国大名となる
③①の亜種のようなものだが、主君を追放し強制的に若い主君をたて傀儡にする。
このうち実行不可能なのが①と③、義続の子は今年14歳になる嫡男の義綱だけで他に子がいない、義綱は操り人形にするには歳をとりすぎている。①と③を実行する場合、生後~10才くらいまでが条件だろう。となると残るのは②であるが、これについては総貞はいささか心配だった、河内畠山や越中の神保、越後の長尾が大義名分をかかえ能登国に攻めて遊佐がこれに同調する恐れがあったからだ、現に越中の神保はそれが理由で10年間攻められ現在は能登畠山の守護代として越中を治めるという元の状態に戻ってしまった。つまり②を選ぶとその後の見通しがつきづらい状況になる、少なくとも他国に大義名分を与えるのは間違いない。
総貞は何か良い手はないか考えていた、まるで奇術のような手はないかと、守護代を世襲できればいいのだが代々守護代の家は遊佐家であるという畠山家のルールがある。しかし、その守護代でさえ重要な案件は守護に仰がねばならない、神保の越中は守護がつねに在京しているから可能だった点がいくつもある。
「守護殿が自分の権限を自ら重臣に委ねるような事があれば・・・」
すぐに頭を横にふり馬鹿らしい発想を横によけた、自分の権限を小さくしようという愚かな主君がいるわけがない。それに“守護代”ではダメなのだ、重要な案件は守護の判断を仰がなければならない役職ではなく、守護へは事後報告で済ますほどの権限がほしい、そこまでいかないと主家を超えたと言えないだろう。
(応仁の乱において、主家を失墜させたのはその調停をできぬゆえであったな、あれを上手くする手でもあればの・・・)
何かここまで出かかっているものがあるのであるが、なにやら出てこない
(そういえば・・・あれは何じゃったかの?)
そう思うと昔、京に義総様につれられ行った時に何か聞いたような・・・
ここまで出かかっているのだが思い出せない・・・
そして何気なく紀貫之集に手を伸ばすと
頭の中で何かを思い出した
『紀貫之どのの歌にようにておじゃるの~』
『東の頼朝さんの死ぃんだあとに』
『頼家さんが力をもつことを嫌がりましてなぁ』
『家来がじぶんの仲間で寄り合いをつくり頼家さんを締め出した話ですわ』
「寄り合い・・・十三人の・・・十三人の寄り合い!!源頼家公を・・・締め出した!!」
「十三人の寄り合い・・・これをやれぬものか」
(重臣同士がある程度力を持ちその重臣同士が乱に及んだとして主家がそれを調停できなければ主家である畠山家の権威は大いに失墜する)
(そこに対する受け皿として重臣同士による寄り合いがそれにとって代われば・・・あるいは・・・)
(だが、そのようなこと可能であろうか?)
総貞は自分が考え出した方法がどうも非現実的な手段な気がしてならない、重臣同士の合議制も、乱にて主家の権威を失墜させるのも、非常にリスキーであることは間違いない。ただ今の状態を長くしているわけにもいかない。
駿河への謀反が濡れ衣だった事が判明して以来、守護代は遊佐の手元に戻った、この状態が続く事は温井にとっては毒でしかない。
だが重臣同士が乱をおこした後も畠山家がどう転ぶかは分からなかった。
いくら乱がおきた後の解決策として重臣同士の合議制による未然の戦の防止を提案したとしても、畠山家がそれを認めなければまるで意味がなかった。
(更にワシの考えではこの寄り合いで決めた事の最終決定権は寄り合いに属し、守護にも守護代にも手をつけさせぬという発想・・・これができれば温井家が一番の家になれるが、守護代のような権利では永遠に畠山の風下じゃ)
とりあえず総貞は考えを整理した。
・畠山家を失墜させる為には重臣同士の乱を現当主の義続が調停不可能になる事態が必要。
・その後温井が権力を握る為には乱に勝ち、尚且つ義続が今までの制度より重臣同士による合議制を採用した方が乱がおきることが少ないと考え、合議制の設立をゆるすこと。
・その後、合議制の主導権を温井家が握り離さぬこと。
その為にやらなければならない事は2つあった。
====主君・畠山義続の調略=====
何としても、合議制を認めさせるために、重臣達が以前から合議制を採用されない不満をもっていた事にし、乱がおきた際にあたかも合議制が採用されないせいで乱がおきたと思わせる様に日ごろから誘導する。
====長続連と遊佐続光を引き離す====
乱がおきた際にこの2勢力が敵にまわると温井家はかなり苦しくなる、なので長続連と遊佐続光を引き離し、温井家が単独で余裕をもって勝てる様にする。
そのためには長続連を鑑定し何を欲し、何に重きを置く人物なのか探らなければならない
「さて、おそらくこれにて温井の未来が決まるな」
そういうと、右手に持ったままの紀貫之集を本棚に戻すのであった。
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