第6話 代替わりの祝賀Ⅰ
「あやつめ・・・隠居しおった・・・」
総貞はそこだけとってみても遊佐総光(遊佐早雲)は手ごわいプレイヤーであったと認めざるをえない。
「代替わりで隠居せよと言われ、隠居するなど気骨がありませんな父上」
総貞は呑気な事をいう息子の横っつらを引っ叩きたい衝動に駆られた
「我が嫡男は阿呆のようじゃ」
「何と仰せか!」
「分からぬか!!遊佐めに逆心ありと守護殿に信じさせる機会を失のうたのじゃ!!・・・・・・総光・・・あやつなかなかやりおる、更に守護殿は遊佐に逆心なしとして嫡男の続光をまたとりたてる様子・・・」
「遊佐など最早風前の灯火!!父上は何を恐れております」
「恐れてなどおらぬわ、総光のせがれがどの程度の器量を持つかは知らぬが親父にはまだまだ届かぬじゃろ」
しかし、そうは言っても総貞には一抹の不安がある。その不安のもとはやはり隠居話をうけた総光にあった、総貞の“読み”では総光は隠居など断固拒否すると思っていたのだ、そうして総貞は義続に遊佐は危険であるという不安の種を更にまき、少しづつ遊佐の領国を召し上げ、十分に弱まったところで討伐する…ここまでが総貞のシナリオであった…が、違う結末になった。強力なプレイヤーを舞台から引きおろしたのはいいが肝心の遊佐の領地は健在なのである。
(次の策を考えねばならんようじゃ・・・そのためにもまずは総光のせがれの器量を確かめねば・・・)
一方続光はというと遊佐宗家を継いだことでまずは居城の「府中館」で次々とくる代替わりの祝賀を受けていた。
遊佐宗家は能登守護代の家柄とあって能登国内だけではなく加賀や越中からも代替わりの祝賀の使者がきた、使者の役割は二つ、遊佐家との友好を示す事と当主の器を見極める事であった、戦国の御世、当主が凡庸ならばその家は落ちぶれ、有能であれば一国の主にまでなれる、つまり実力がものを言う時代であった、能登はまだその時代の波に襲われてはいないが隣国はすでに下剋上の中を泳ぎまわる世で能登もいつそうなってもおかしくなかった、ゆえに当主の才能の見極めはどの国でも重要視された。
(守護代の遊佐の新当主・・・いかほどの器量であろう)
「皆がそう思うて祝賀に来ておる、ただの使者と思うな、中には自分の腹心をこの祝賀にこさせ人物を鑑定しようとしてる者もおる、そなたの器量を見せよ、遊佐の行く末はその方にかかっておる」
頭を丸め仏門に入った早雲(総光)にそう言われると、続光は控えの間からゆっくり出てきて広間の上座に座った。
座った瞬間目の前を見て続光は流石に驚いた。そこには温井家当主の総貞が最初の代替わりの祝賀の使者として来ていたのだ。
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