第4話 押水の合戦

「伯父上(畠山駿河)が兵をあげた??、その話まことか??」


義続が驚くのも無理はない、畠山の家督を要求したのも伯父の奇行癖程度にしか思っていかなった為だ


「は、まことでございます。この総貞が調べたるところ駿河殿は一向門徒をひきつれ加賀より能登に入るつもりらしいとの事」


「して数はいかほどぞ」


「は、多くて八百あまりかと」


「八百??」


これには義続も驚きを隠せなかった、800人ほどの軍で本当にこの七尾城を落すつもりかと、しかしこの義続の思考を読み切ったように総貞が続ける。


「今は八百という数にござりますが、能登でお味方を増やすやもしれず」


「味方?伯父上の味方をするものなどこの能登にいようか」


ここで温井総貞が待っていましたとばかりにある疑惑をなげかける


「そうでございますな…例えば遊佐総光とか」


「何??」


「遊佐宗家は御父上様による冷遇を恨んでるやもしれず、駿河殿の側に寝返る可能性はございます」


「では、もしも遊佐が伯父上に合力するようなことがあれば」


「まずいでしょうなぁ」


義続の顔がみるみる青くなっていくのがわかった、総貞は青くなっていく主君を見て満足げであった、いつ見ても人が己の言葉により術中にハマっていく様を見るのは気分が良い。


「総貞!!なんぞ良い手はあるものか」


「ございます」


「!!してどのような策じゃ!!」


焦った義続をなだめるように総貞がいいきかす。


「要するに遊佐が動く前に駿河殿を討ちとれば良いのです、しらせによると駿河殿の軍はここ数日のうちに能登に動き出すとの事、我が軍はこれを城にて待つのではなく積極的に国境にて討ち払えば良いのです、遊佐の領地は能登最北端の珠洲、たとえ遊佐総光が駿河殿の味方をしたくとも戦場は能登の最南端、全てが終わった後では何もできますまい」


義続の顔が途端に明るくなった


「なるほど流石は総貞よ、万事滞りなく行え」


「はっ、では早速輪島にて出兵の準備を致します」


「うむ」


総貞は足早に七尾城を経つと息子の続宗に出兵の催促をする文を書きそれを配下に渡し温井軍の到着をまった、数日して温井軍の大軍が現在の志賀町あたりまでくると、これと合流、温井、飯川、笠松を含めた全軍を指揮することになった。この総勢3千人の軍隊は畠山駿河守が率いる八百の軍隊と対決する為に一路西に向かい進軍し、2日ほどして七尾城を目指す畠山駿河軍と「押水」というあたりで接触した。


両軍は道の真ん中で戦闘に及び数で勝る温井軍が駿河軍を押しに押しまくることで1時間ほどで畠山駿河の軍は崩壊した、


これが畠山後継者の椅子をかけた「押水の合戦」と言われた合戦である。


温井方の記録ではこの時、畠山駿河と2人の息子、その他雑兵を数百人討ちとったとされている。


ともかくこの戦いにより能登国中の温井を見る目が変わった…「貴族と付き合いのあるナヨナヨした温井」というイメージは払しょくされ「恐ろしい程の武力をもった温井」という見方に変化したのだった。



「父上」


続宗に声に総貞が振り向く


「なんじゃ続宗」


そうすると続宗が嬉しそうに喋り出す


「さきほど殿中で仁岸殿とすれ違うと深々と礼をされもうした、普段無愛想な仁岸殿がでござる」


その様子を聞くと総貞は堪えれずとうとう大笑いしだした


「この戦国乱世で誰に取入れば己が生き残るか皆わかっておるようじゃの、あやつもなかなかしたたかな奴じゃ」



この後、温井総貞は畠山家中に強力な温井派の派閥を築くことになる。

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