第3話 混乱のはじまり
天文14年つまり西暦1545年7月12日、能登守護、畠山
能登国にとって義総の死はあまりに大かった、戦乱の時代に30年も平和を維持する事は並大抵ではない、その理由は義総の持つ調整能力と外交手腕にあった。内側は対抗馬の台頭させる事で巧みに抑えつつ外側も足利将軍の権威を利用し敵を作らず戦を極力避ける、この内と外を掌握する手段は方々から絶賛された。だが能登国中の誰も思っている、「これは名君畠山義総だからこそ可能だったのではないか」と彼が一声かければ能登中の武士が動き出す。後継者にそれだけの器量があるのだろうか?能登中の誰もがその事を考えた。
結局家督を継いだのは義総の次男「畠山
「畠山“駿河守”」とは何者か、畠山慶致の四男、つまり畠山義総の弟である。この弟は兄義総と不仲で加賀に出奔していたのだが、兄が死んだと聞いて能登に舞い戻ってきたようであった。この駿河守は相続権は自分にあると考えていたようで
「嫡男が死んでいる以上、弟のワシに畠山家を相続する権利がある」と言ってはばからなかった、だが既に義続が畠山家を継承していると聞くと激怒し、また加賀に帰ってしまったのである。
この頭のネジの外れた伯父の行動を義続は笑って見ていたが温井総貞はある予感を感じていた。
「これは戦になるな」
温井家親子水入らずの囲碁の最中に総貞がふとつぶやいた
これにはさすがに息子の続宗が驚いた
「まさか、駿河殿はあのような奇行を繰り返すお方ですぞ」
黒い碁石を膝の横でジャラジャラさせながら総貞は繰り返す
「いや、戦になる、もう義総様はおらんのじゃ」
「しかし父上はこのような戦をいつも未然に防いできたではありませんか」
「その通りじゃ、ワシならこの戦を一向宗との“仲”で防げるじゃろう」
続宗が笑って白石をとりだす
「ならばやはり戦にならぬではありませんか」
続宗は白の碁石を盤上に置こうとしたが、その刹那、恐ろしい程の殺気を感じた…その殺気は自分の父が発しているようであった
「それを防いだとて、ワシにどれほどの利がある?」
続宗は父が放つ言葉の意味が分からなかった
「ワシはな、温井を能登で一番の家にしたいのじゃ、遊佐よりも畠山よりもじゃ」
続宗はあっけにとられながら父総貞を見ている、総貞は右手の黒い碁石を力強く碁盤に叩きつけ盤全体を揺らし続宗を見た
「ゆえに駿河殿には乱を起こしていただく・・・・・・温井の力を能登中に見せつける為にな」
温井家は輪島に広大な所領を賜っており、すでに畠山家で一番の軍を保有していたが武士は武威に従う事をよく知っていた、この広大な所領は総貞が遊佐に対抗するためにもらったようなもので義続時代になっても安堵される保証はなかった、むしろ他の家臣に分け与えられる公算が大きかった。それを牽制するためには武威を見せ温井を敵にまわすとやっかいだと印象づける必要があった。
こうして畠山家の忠臣であると思われた温井家はその本性を徐々に見せ始めるのであった。
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