フィギュア④レッグロック
「俺たちはそのカミサマを、〈
「で、そのカミサマが実在するとして……」
「お、信じてくれちゃう?」
愉快そうに訊き、梅宮改は身を乗り出す。
「あくまで実在するとして、だ!」
怒鳴るように強調すると、小春はメニュー表を盾にし、目と鼻の先まで来ていた奴の顔を押し返した。
「そのカミサマと
「まあまあ慌てなさんな」
小春を
「カミサマって言っても、全知全能の超越者じゃない。賽銭ドロしてもバチは当てないし、二四時間お祈りしても、年末ジャンボで億万長者になったりはしない」
この一言には、小春も無条件に頷けた。
「〈
梅宮改は親指を立て、アンパイアのように見せ付ける。
「万物は〈
「世界を動かしてる、か。確かに『カミサマ』だね」
「や~っと信じてくれたんだ」
感慨深げに漏らし、梅宮改は額の汗を拭う。
「その話がホントなら、だけど」
最大までぬか喜びさせてやったところで、小春は素っ気なく言い放ち、奴をどん底に突き落としてやる。
「もう最近の子って疑り深くてやんなっちゃう」
まんまと普通に否定される以上の落胆を味わった奴は、力なく首を左右に振った。
「ともかく俺たちはその偉大なカミサマを騙して、望む現象を引き起こしちゃってる」
「カミサマを騙すと、願いが叶えられる?」
「言ったっしょ、この世界じゃカミサマが審判だって。誰も裁定には逆らえない。命令されたら従うしかないんだ。明らかにビデオ判定が必要な状況だったりしちゃってもね」
「カラカラに乾いた砂漠でも、カミサマがゴーサインを出せば雨が降るってこと?」
「よく出来ました」
保父さんのように包容力溢れる微笑みで誉めると、梅宮改は小皿の落花生を小春の前に積み上げた。保父の正体が猿回しなのは小春にも判った。
「俺たちの業界じゃ、この技術を〈
「はいはい、判った、判りましたよ」
ヨタ話に呆れ果てた小春は、投げやりに手を叩く。
カミサマを騙せば、思い通りの現象を引き起こせる?
馬鹿馬鹿しい。
デタラメ吐くだけで願いが叶うなら、年間三万人も自殺者は出ない。
「お前がなかなかのストーリーテラーだってのは認めてやる。でもね、私が聞きたいのは現実のお話。中学生レベルの妄想じゃない」
「そりゃ改ちゃん、二枚舌だったりしちゃうけど」
ぬけぬけと言ってのけた奴は、ポテチを二枚
「いい加減、まじめにやれ!」
我慢も限界に達した小春は、梅宮改に突進し、鼻の頭に噛み付いてやろうとする。
「顔はやめてっ!」
ファルセットな悲鳴が上がり、ポテチの二枚舌が奴の口に引っ込んだ。
「んじゃ、証拠を見せちゃう。じゃじゃーん!」
昭和のテレビっぽい効果音を発すると、奴はポケットから何かを引っこ抜く。
テーブルに置かれたのは、あのリモコン大の
「この
安っぽい光沢に狙いを付け、小春は毒の混じった唾を吐く。
「いやぁ! ママンのくれたお誕生日プレゼントが!」
慌てて
「小春ちゃん、見なかった? 何もない場所から突然、骸骨の闘牛士さんが出て来たの」
「見た、けど……」
現場を目撃した瞬間の絶句を再現するように、小春は言葉を詰まらせる。
首輪に
日曜の朝にしか許されない現象だ。
金曜の夜にはあり得ない。
目撃した時は見る目と認識する脳の間に、CGの関与を疑った。
「あれはね、この
嘘だ!
一七年
気持ちは判るが、小春は我が目で現場を見た。そして現実はリアルタイムだ。CGによる加工は追い付かない。
では催眠術ならどうだ?
何もかも幻だったとすれば、摩訶不思議な現象にも納得出来る。梅宮改が名うての
いや、炎は肌を
このレベルの催眠術が存在するなら、ヨタ話に匹敵する超常現象だ。
「持ってもいい?」
許可をもらい、小春は手に
受話器以下の軽さ――中に闘牛士が収納されているとしたら、バーベル以上の重さになっているはずだ。第一、リモコン大の物体に着ぐるみを詰め込むなんて、これまた嘘=本当に比肩するサイエンスフィクションだ。
悔しいが、小春の学歴では常識的な説明が思い浮かばない。
しかし実体化しているとは言え、実際には「ない」物体で怪物をミンチに出来るのだろうか?
いや、実在の
「要はアストロ
既知の価値観への未練が、確認する声を濁らせる。
「あ~、や~っと信じてくれた~」
心底疲れ切った様子で返し、梅宮改は深くソファにもたれ掛かる。いい機会だ。普段のオオカミ少年ぶりを存分に反省してもらいたい。
理路整然と説明付けてみたものの、どうもすっきりしない小春は、もう一度
どっからどう見ても、クリスマス商戦の問題児だ。
これが魔法の杖だと言うのだから、世の中判らない。
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