第35話 全米連邦 チリ州 サンティアゴ市 メトロポリタン大聖堂

昨日の爆撃騒乱に巻き込まれ、避難場所に開放されたメトロポリタン大聖堂、厳かな雰囲気に包まれ、自然と安堵し漸く眠気が襲い転寝するサンティアゴ市民等


市内を一通り物見するローマ参画政府欧州組一行

渕上、溜息混じりに

「一通り終って、ゆっくり聖堂を見学出来ると思ってましたがね」

島上、ぐるりと見回し

「このごった返す有様で悠長な台詞言うな」正面を見据えては「それで、あの老人、昨日の騒ぎで帰る場所も無くなったのだろ、花彩も放っておけないか」

渕上、目を見張る

「いや、あれは佇まいが違いますよ、」

島上、懐のホルスターを辿る

「そうか、やはりただでは帰れんか」


矍鑠たる白髪の男、配給のパンの袋を丸めては

「…そう船の旅は良いのものだよ」

花彩、牛乳のパックを手渡す

「そこからチリ州なんですね」

白髪の男、牛乳のパックをむんずと掴み

「ああ、腰は据えないつもりだったが、この佇まいが気に入ってね、20世紀の風情も残ったままで天国そのものだよ そして、何度か商売を取っ替え引っ替えしては、先日迄精肉店をやっていたが、一連の騒乱と爆撃で仲買が店仕舞いした上に、エレクトリッククラスター爆弾が私の店のフライヤーに飛び込み引火、豪快に焼かれては家迄持っていかれたよ」

花彩、切に

「成る程、それは大変ですね まだ詳しく判明していない騒乱でも民事裁判なら、ローマ参画政府の指導した救済保険金として保険金の一部を早く頂けるかもしれません、訴状のお手伝いしましょうか」

白髪の男、力も無く

「いや、もう終った事だ それに保険なんて入れもせんよ、大体戦争体験者がそんなものを信じられるか」

花彩、凛と

「でも不思議ですね お話の限り、第三次世界大戦より、第二次世界大戦の方が鮮やかとは、余程歴史が好きなのですね」

白髪の男、自嘲しては

「ふん、信じないだろうが今日迄全て見届けて来たのだよ、この世界を いざ実際に巻き込まれるとなると酷い話だ、また全てを失ったのか、」

花彩、その尋常ならざる雰囲気に戸惑う

「でも、ここにいる皆さん、多かれ少なかれ同じ境遇です、一緒に復興頑張って行きましょう」

白髪の男、吐き捨てる様に

「言うに事を欠く、私を一般人扱いするな、そうだよ敢えて蒙昧な一般人に告げよう これでも後悔の念しか無いが、私は散々言ったつもりだ、終末の世界で生き残るのは、僅かな人間だ、そこに及んで安易に邪魔な人を殺せるかね、貴重な労働者は何としても確保せねば、そう決して殺せまい いいかね、第三次世界大戦はその轍を踏まず夢想の中で悲劇を生んだのではないか 何でもかんでも私に押し付けやがって、第三帝国総統が前例を作った、冗談ではない、誰があんなに人を送り込めと言った、言わんよ私は、」

花彩、戸惑うも

「えーと、まさか、」

白髪の男が、花彩に迫る

「私はやってない、やってないんだよ、信じてくれお嬢さん」

花彩、立ち上がり後ずさり

「でも存在するのですよ、ホロコーストは、」

白髪の男、立ち上がり激昂

「私は知らん!」

花彩、渕上に向き直り

「渕上さん、睨んだ通りです、この無駄な覇気は、その人です」

島上、H&KUSPエレクトロを振り翳しては

「離れろ、花彩、」

渕上、怒声省みず

「そのおじいさん、もはや不気味でっせ」

花彩、駆け寄っては、島上に隠れる

「この人、まさか、アドルフ・ヒトラーです」


怒りを越え、一斉に銃を身構える避難市民一同


白髪のヒトラー、高揚しては身振り手振り

「君等はどうしたのだ、一群集のくせに私に銃を向けるか、お笑い種だ、この私に銃弾は通じん、何故か分かるか愚民共、私こそ選ばれた民だ、まだ感じぬか、この威風を、」

渕上、皆を促す

「皆さん、聖堂の銃撃は御法度どす、早よ逃げなはれ、早く、get up、」

渕上に促され漸く出口へ向う一同


島上、H&KUSPエレクトロを尚も身構える

「今更か、何人いるんだよ、ヒトラー」

渕上、息を飲む

「今回は大物ですよって、注意しなはれ」

島上、H&KUSPエレクトロの切り替えレバー躊躇するも電磁銃モードへ

「全く、チリ州に居残って正解か」

渕上、歯噛み

「シオン福音国の広瀬さんとやらも少々頑張りが足りませんな、ローマ経由でどこぞのヒトラー捕まえたと浮かれ過ぎですな」


避難の人並みが途絶え、立ち竦む花彩渕上島上、そして白髪のヒトラー

白髪のヒトラー、悠然と

「私は知ってる、君達はローマ参画政府の客分なんだろ、ここまで張り切ってどうする 私は全てを捨てて、普通に生きて、一から人生をやり直した、そこに慈悲は無いのか、その道を開けなさい、」

島上、腰のホルダーからFRP手錠を放り投げる

「残念だが無いな、いいからデン・ハーグ統合軍事裁判所の法廷に立てよ 分かったなら自分でFRP手錠打て」

渕上、尚も

「そうですな、何万回、懺悔しようと、誰も帰って来ませんよ、アドルフ・ヒトラー あなたを含め、たがの外れた人間達を私達がどう軌道修正しろと言うのです、そこ迄の矯正施設世界中のどこにもあらしません」

白髪のヒトラー、止めどなく

「人の進むべき道、若輩共がそれをどうこう言えるかね だが実際会って私には分かった、そう、ここにいる君達は、荒廃したこの世界で、今日ここ迄の道程で生存競争を勝ち抜いて来たではないか、これぞ優劣思想の体現、正に本懐である、淘汰した己の本性を忘れるとは、まさに笑止」興奮しては体の刻印が浮き出し始める

渕上、怒気も荒く

「私らローマ参画政府が、弱める民を見放した事はありはません 勝手に物事を決めつけるなど、耄碌してる証拠ですよっって、そこは改めて頂きましょう」

白髪のヒトラー、激昂

「私に、修正を求める等、言語道断、」

花彩、白髪のヒトラーの手の甲の紋様を見つめては

「手の甲のあれ、何ですか」

島上、渕上に一瞥

「渕上、何だあれ」

渕上、訝し気に

「今はそれを撃たんと、放っといたらよろしい さて、ヒトラーさんと話しては、同じ壇上に立たされたくはないですな 世界中の聖堂で何回ともなく懺悔しても、まだそこですか」

島上、尚もH&KUSPエレクトロを構える

「本当に本物か、ホムンクルスじゃないのか」

渕上、見据えては

「ええ、けったいな刻印してますから、相当な金積んだようですな」

島上、徐々に詰め寄る

「ヒトラーよ、ここから先通れん、いいから、そこ動くな、自分でFRP手錠打てよ」床に転がるFRP手錠を見やる

白髪のヒトラー、尚も激昂

「そんな恥辱、私がする訳もなかろう、通さねば殺るまでだ」

渕上、嘆息

「さすがに毒されそうですわ、島上さん早う逮捕しなはれ」

白髪のヒトラー、毅然と言い放ち、

「来るな、儂に銃弾は利かんよ、」手の甲の刻印が腕全体に浮き上がってゆく

島上、白髪のヒトラーまで悠然と歩み

「ならば、脳に刻み付けるのみだ、」H&KUSPエレクトロを、ヒトラーの顳顬にを当てる

白髪のヒトラー、声を荒げ

「利かんと言っておる、」島上を片腕で投げ飛ばす白髪のヒトラー

島上、受け身をしながら素早く起き上がる

「ジジイの癖に力技かよ、渕上、花彩、油断するな、」

渕上、口を尖らせ

「だから、早う逮捕しなはれと言いましたで、まあ賑わいも消えたので少々押し通しましょうか」

花彩、とくとくと

「あの、渕上さん、ここは由緒有るメトロポリタン大聖堂ですよ、修復大変ですよ」

渕上、じりりと

「ヒトラー、ここの聖堂に逃げ込んだ時点でそれを織り込み済みですな、大丈夫、対処しましょう」

白髪のヒトラー、一際高笑い

「ははは、通せ、通さねばローマの汚点になるぞ 私にはベネズエラ州が待っている、君達は相手にしてられんのだよ、私のいる場所こそ第三帝国、未来永劫だ、今度こそこの世の業捨てて、輝かしい未来を築いて見せよう 見ておれこれからの大反攻」刻印が顔迄上がり始める

渕上、うんざりと

「これは、あかん強さですな」

花彩、目を丸く

「駄目ですよ渕上さん、勝てますよね、」

渕上、溜息混じりに

「実は一張羅置いて来ましてな、そんな無茶な力技に乗れますかいな 島上さん、兎に角丹田に打ち込みなはれ」島上を煽る

島上、H&KUSPエレクトロを連射

「土手っ腹見せろ!」尚も連射するも、“バス”“バス”白髪のヒトラーの黒の刻印に容易く阻まれ弾かれる 見る見る循環するヒトラーの体の刻印


“バキン”空間の割れる音が教会中に響く


辺りを見渡す、渕上

「えっつ結界、誰、」

回廊を通り抜け、ソフト帽の京塚が手を翳す

「肉屋の主人、毎回聖堂に通ってご苦労な事だが、越境は許さん、ここでお仕舞いだ、アドルフ・ヒトラー」

白髪のヒトラー、目を見開き

「この男、揚げ物に難癖付けては文句ばかり言う奴、おお、」齢とも思えぬ筋肉が漲り始める

京塚、事も無げに

「ああ、ただのクレーマーじゃないぞ」

渕上、くすり

「あら、やっとこさ最後に、凄い人来ましたな」

島上、H&KUSPエレクトロをただ繰り出しては

「京塚、見張ってるなら、早く合流しろ」

京塚の結界が“バキン”と鈴生りに鳴っては次々構築されてゆく

「こいつを野放しにしていた、島上さん達に言えますかね」

渕上、憮然と

「丹波さんの苦情はローマ参画政府に正式に送って下さい、京都ですと拗れますよって それで魔裝は慣れていませんので、京塚さんにお任せするどす」

島上、白髪のヒトラーの丹田に撃ち込むも、黒の刻印が阻む

「さっさと仕留めろ、京塚」

京塚、溜息も、

「何ですかね、その人任せさ」右手のリングが集約し、大聖堂に結界が網の目上に顕在化展開

花彩、うっとりしては

「お見事です、これ何ですか、触らない方がいいですか」

京塚、花彩を諭しては

「ああ、見てなさい、“麟”」結界網の目が黄金に輝く

一際大きな音“バキン”、一気に番という番が外れる

渕上、懐の札を取り出しては、文字のとんだ札を見やる

「あらまリングまで使うとは、お札とんでしまいましたが、京塚さんいけずですな」

島上、分解されたH&KUSPエレクトロを放り投げ

「何だよ、こっちは電磁銃分解だよ」

京塚、果敢にも

「いいか何もしかけるな、フィールドを無効化している」

花彩、目を見張る

「ヒトラーさんの体が、」

ヒトラーの顔と体が、見る見る黒く曇って行く

「何をした、クソ素人に魔術が使えるか、言え、何をした、」黒の刻印に侵食されるヒトラー


尚も煌煌と輝く網の目結界内


京塚、右手首を捻る

「これで、仕上げだ、」デン・ハーグ統合軍事裁判所の訴状を開く

白髪のヒトラー、訴状のからくり紋様の見ては増々魔装の刻印が浮き出る、身震いしては

「おおお、刻印に力が吸い込まれて行く」見る見る筋肉が萎縮し不格好に刻印部分が浮き出し始める

島上、見届けるも

「止めろ京塚、無理に引き出したら暴走するぞ、」

渕上、唾棄しては

「ほう、それでも不気味な魔装の刻印が隈無く施されてますか、けったいな施術師いるんですね」

京塚、右手を掲げたまま網の目結界を張り続ける

「その魔装に支配されたら、どうなるんだ、さあ」

白髪のヒトラー、咆哮、白髪が一気に黒髪へと

「ぬおーー、自由にさせるか」のたうち周りながら網の目結界に次々引っ掛かり、黒の刻印が迷走、反撃とばかり隆々とした右手が教会の長椅子を投げようとするも、体が一気に収縮「馬鹿な、」不格好にも転げる

京塚、尚も網の結界を展開

「これ以上動くな、身がやつれても貴重な生証人だ、全人類に知らしめてやる」

黒髪のヒトラー、息も絶え絶えに

「フン、誰が、こんな荒唐無稽な話を信じる、いや信じまい、第二次世界大戦後からずっと、私は高みから世界の眺めていたのだよ、お前達こそ悪魔だ、その有り余る力で何人も甚振る、振り上げた拳にムキになっては何故一度も下げようとしなかった いいか誰かが世界の覇権を握らないから、世界は常に混乱の極みだ 見てろ、こうなれば再び私が世界を掴む、この手にだ、施した刻印でこの世界で生き続けてやる」

京塚のリングが集約する

「老人の聞き齧りか、実情も知らずに良くも言う」網の目結界に光が灯り、網の目を走りはじめる

島上、徒手を構えたままで

「この悪魔顔負けが言うかね」

渕上、溜息

「ここまで来たら、根気強くて、悪魔も驚きますよって、」

花彩の声が聖堂に一際響く

「ヒトラーさん、お言葉ですがそれは違います、ヒトラーさんに隷従するのが幸せな人達は今や誰一人いません、人間である以上信仰し希望を見出さなくてはいけません、あなたの生きる先には地獄しかありません」

黒髪のヒトラー、黒の刻印に押され、体中から汗が止めどなく流れる

「ふん、神がいるなら、何故私は裁かれん 所詮手にした財宝の重さで、幾らでも席の序列は変えられるのだよ、それは永遠にだ、グウ、オー」黒の刻印が尚も隆起して行く

花彩、尚も

「神は存在します、諸悪の根源、いよいよあなたが最後なだけです、私の祖父も連綿と続く負の連鎖に投げ込まれました、あなたの行いこそが多くの人間のたがを外したのです、まず懺悔をすべきです」

黒髪のヒトラー、立つのもままならず

「絶対、懺悔はせん、グフ」内蔵までもが押し上げる勢い

渕上、凛と

「懺悔するのです、悪意に押し込まれて死にますで、」

黒髪のヒトラー、拒んでは、尚も隆起する黒の刻印、黒髪が一気に白髪へ

「だから、ウウ」隆起が止まらない黒の刻印に全身の骨をへし折られるヒトラー、堪らず咆哮「ギャーーーー」人の声とは思えぬ絶命


反響が漸く途絶え、再び静まる大聖堂


渕上、憮然と

「絶命したとは言え、チャクラは残ってます 島上さん、もう一つのまじない付きの手錠しなはれ」

島上、ヒトラーに近寄り

「死んだか、正に自業自得か」腰のまじない付きの手錠を外し、ヒトラー後ろ手に手錠を掛けようとするも「おい、この隆起じゃ手錠無理だよ、京塚の結界鎮めろよ」

京塚、右手のリングを集約させ封じる

「それは無理ですよ、辛うじてヒトラーの残滓だけであって、もはや魔物です、こんな施術に深入りしたくもない」

渕上、くすりと

「全く、呑気な事言いますな、次はどう対処すべきか文献に残して頂きませんと困り果てますよって」

京塚、不敵に

「知るか、全力で倒さないと、術も進展しないぞ」

花彩、ウルトラAED持ち寄り、白髪のヒトラーのワイシャツを開きパッドを当て、通電、ただ体が跳ねる

「駄目ですこの硬直具合、正に全身骨折によるショック死、ウルトラAEDでも脈無しです」

渕上、不意にヒトラーから目を背ける

「京塚さん、やはりエグい違います」

京塚、尚も

「知ってるだろ、これでも暴走抑えたんだぞ それにチャクラが残ってる以上押し止めないと、外に飛び出てたぞ」

渕上、嘆息

「それも厄介でしたな、京塚さん来てくれはって正解どす それにしても、ここまでの刻印、初めてですが」改めて黒の刻印の流れを見やる

京塚、じりりと

「渕上、まだいるぞ、」

渕上、微動だにせず

「ラスプーチンですか、あれは厄介ですな」

京塚、遠い視線で

「まあ、それは何れだ、くれぐれもロマノフ王朝の残滓に触れるなよ」

視線を逸らすと、全身の骨が砕け横たわるヒトラー、口から尚も泡が吹かれ、漸く凝り固まる黒の刻印



白髪のヒトラーの遺体処理の為に、厳重に出入りも警戒される大聖堂

噂を聞きつける野次馬が引きも切らず


その様子を大通りから眺める、花彩渕上島上

花彩、不意に

「本当に帰っていいのですかね」

渕上、揚々と

「後は京塚さんに任せるどす、そもそも、京塚さんが追っていた案件ですよって」

島上、腕を組んでは

「いや、待てよ この完全ヒトラーを早く逮捕していたら、それで終っていたとかじゃないのか」

花彩、微笑

「それは無いですね 皆に見放されたのか、私の差し出した配給のパン一気に食べてましたよ」

渕上、苦笑

「そんな有様では、サンティアゴ騒乱、どうにもあかんですな」

島上、憤懣遣る方無く

「そりゃ、ここまで拗れもするか」

大聖堂前には、サイレンを消したパトカーが尚も詰め掛ける



実況検分に詰め掛ける大聖堂を抜け、一人回廊を進む京塚 

メトロポリタン大聖堂の入り口に佇むスーツ姿その男、井岡

「いやー京塚さんお疲れ様です 何故、早くに始末しなかったんです、FBIとしては本物を起訴出来ればそれで十分だったんですよ」ただ飄々と

京塚、一瞥しては

「ふん、だったら何故全米連邦が全力で捕まえん、存在していたら厄介なのはどこの国も一緒だ、進んで泥を被れ」

井岡、事も無げに

「まさか第二次世界大戦からずっと生きてるなんて、検証チームでも早くから見送りでしたよ そう、刻印ヒトラーも追っていたら仕事が増えて、他の仕事がお留守になりましたよ」

京塚、微笑

「お留守か、その割には小芝居も大変だな、井岡 このチリ州でシオン福音国も巻き込むとは大層なご身分だよ」

井岡、尚も

「全米連邦も諸外国との連携事情があるんですよ、そう正しく負の連鎖が延々続いては終りません、これは前に進む為の気高い仕事です」

京塚、不敵に

「ふっつ、その過程としてシオン福音国に出し抜かれたのは、それも計算か チリ州も第三帝国を徹底排除したつもりが、引き継ぎの職員がシオン福音国で固められたぞ」

井岡、溜息混じりに

「それは止む得ません、これも全米最高議会の承諾を貰った上での権謀術数共闘ですよ シオン福音国にこれ以上全米連邦に深入りさせない為の防波線と考えれば容易い事です」

京塚、口角が上がり

「チリ州で済めばいいがな」

井岡、とくとくと

「そうですね 発案から成り行きの結果になってしまったのも、何の偶然か上家衆が集結してしまった以上、どこも対応に大わらわになって必死でしてね まあ自分が何とか連携取ってこの案件を訴追すれば済むのですが、そこは群雄割拠の中、やはり調停役は必要 畿内の丹波京塚さんの手をお借りした迄です、白髪のヒトラーを内偵していたのだからかなり手間が省けましたよ」

京塚、見据えたまま

「井岡、上家衆を袖にするな 彼等の第三帝国一掃が無かったら、ヒトラーを追い詰め頓死で済まなかったぞ」

井岡、襟を正し

「袖など滅相も無い、全米最高議会の上家衆好きは多いのですよ かく言う自分もお世辞抜きで感服しました」

京塚、尚も

「まあいい、今回の件但し条件が有る この先も一橋財閥の解体は無しだからな、ここで目立ち過ぎたお姉さんの芽を摘みたいだろうがそれは無しだ」

井岡、不敵にも

「勿論です 全米最高議会には一橋令嬢の根強いファンが沢山いるんですよ、スターの大統領に押し切られる訳が有りません もっとも図らずも収録されたその『あなたの向こうで』が放送されたら、全米大熱狂でしょう 全米連邦12億人の世論を疎かにできません」

京塚、尚も

「それならいい、口約束だから幾らでも含みはあるぞ」

井岡、凛と

「分かっていますよ、どこも袖に出来ませんよ」

京塚、ポケットからトレード・ダラーを取り出し、井岡へ返す

「立ち回りが分かればいい このコイン、役目も終り返すからな この信用忘れるべからずだ」

井岡、懐から硬貨パレット取り出し、8つ並んだ最後の1つに京塚のトレード・ダラーをはめ込む

「やれやれ、なんとか全米カトリック教会に硬貨パレットお返し出来ますよ こことぞばかり全米カトリック教会も本気出しますね」

京塚、訝し気に

「当たり前だ相手が相手だぞ、いいかセバスチャンに盛大に盛るなよ、また調子に乗って使い走りにされるからな」溜め息も深く「それと刻印まみれのヒトラー、確かベネズエラ州と言っていたが、後は任せたぞ」

井岡、偉丈夫に

「石油開発会社との接触は無いです、各個人まで掘り下げて資金提供も受けた形跡も有りません 強がりです、とことん哀れな奴です ですが言った以上は調査せねばですね」

京塚、不意に

「張り切って、何か含みが有りそうだな、」

井岡、とくとくと

「現代は、新エンジン:ジェネレーションの黎明期ですよ 国内の石油開発会社は何としても一本にして供給量を制限しませんと、一般大衆への浸透もままなりません」

京塚、一笑に付す

「ふん、ヒトラーをとことん使い倒すか、これだから大国の趣は」

井岡、身振り手振りに

「これでも人口12億養うのは大変なんですよ」

京塚、不意に

「ミレニアム期の旧中国を抜いたか」

井岡、自重しては

「おかげさまで、どんな政策を強いても回っています」

京塚、ぴしゃりと

「いい加減、サンクトペテルブルク公国と張り合うのはやめろ」

井岡、襟を正し

「分かっています サンクトペテルブルク公国は人口3億とは言えど、移住申請が厳しいですから、国民の質ではまるで敵いません」

京塚、事も無げに

「もう水面下の戦いは無しだぞ、畿内が前面に立っては、宿願が遠のく」

井岡、苦笑しては

「エデン計画ですか、誰も実態を知らないのに、そここだわりますよね」

京塚、微笑

「審判の日は決して遠く無い あまり仕事にのめり込むなよ」

井岡、溜息混じりに頭を掻いては

「まあ、報告書次々書いては、全米最高議会に提出し終えてもいないのに、そんな余裕はどこにも有りませんよ」

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