第34話 全米連邦 チリ州 サンティアゴ市 旧大統領府州知事公舎 州知事執務室 密談

鯉淵とシオン福音国連携事務官広瀬、握手も程々にソファーに座る


広瀬、慄然も

「これはこれは、鯉淵臨時州知事、臨時とは言え昇進おめでとうございます、同胞として非常に心強い」

鯉淵、深い溜め息

「おめでとうね 全米最高議会の爆撃食らっておいて、心が晴れないわね、臨時修繕予算をどう組んで良いかしら」

広瀬、慇懃に

「Bー52大群は何れかの担保でしたが、全米も第三次世界大戦復興に忙しいのです たまには全米最高議会の糾弾審議を出さない事には、全米地域が遅滞しましょう それにですよ、鯉淵臨時州知事がいるのに、鼻っから殺傷目的の爆撃する訳も有りません その結果としてサンティアゴ市における警邏セキュリティーマシーンのプログラム暴走事件に、全米連邦が寒心に堪えなくなってエレクトリッククラスター爆弾落としたもののです、どうですか死傷者も最低限の次第に収まってますよね ここは臨時州知事になられたのですから、全米最高議会にはくれぐれも留意して下さい」

鯉淵、嘆息

「そうかしら、空から容赦なくヒューババンだったでしょう、まだエレクトリッククラスター爆弾、市内のあちこちでスパークしてるのよ、いつまで続くのよ」

広瀬、止めどなく

「ご心配無く、全米海軍の回収部隊が今日にでも入ります 3日を目処に撤収処理されますので、鯉淵臨時州知事の司政には影響を与えません」

鯉淵、広瀬を覗き込んでは 

「3日も我慢しろと、本当は逃げまくってたヒトラーも纏めて、隠し持ってる戦略核で手っ取り早く始末したかったんじゃないの、ここ是非聞きたいわね」

広瀬、深く息を吸い

「なれば、そこはミス鯉淵、本当はヒトラーのセーフハウス知っていたのでは」

鯉淵、憮然と

「司政の観点から老体に興味は有りません、どうしても市中引き回しがしたいのかしら本国は」

広瀬、拳を固め

「ここは重要です、シオン福音国への報告は正しく願いたい ドイツを狂った思想で私物化した人物を、みすみす逃したのでは、また歪みが生まれる、知っていたのですか、是非お答え頂きたい」

鯉淵、尚も

「先祖代々の怨敵など今更知りたくもない いいかしら、チリ州の連なる司政の前ではヒトラーなど後回しにしか過ぎません でもその答えでは本国は満足しないのでしょう いい、第三次世界大戦後の世界大編成を憂いる方々が大勢いては今日迄の一進一退です、こちらは必死の行政よ 御不満があるなら、チリ州にもっと人を割くべきだったわね」

広瀬、不満顔で

「第二次世界大戦は、もはや眼中に無しとでも」

鯉淵、毅然と

「全米連邦はすでにアメリカ合衆国では有りません、何を期待しているの全米に」

広瀬、止めどなく

「シオン福音国はどの国にも対等な関係を望み、同じ痛みを共有しては、国家運営を潤滑にしなければなりません その最重要国が全米連邦です ミス鯉淵、その橋渡しとしてあなたは一番の適任者だ、目の前の出来事に必死でお忘れになっては困る」

鯉淵、訝し気に 

「よくも言うわね その顔それだけじゃないのね、物欲しそうよ、生きていたヒトラーをネタに全米連邦に早速脅したいのかしら」

広瀬、くしゃりと

「そんな滅相も無い、とは言いません いやはや、ご明察 今回の顛末、言える事は、どう転んでもチリ州をシオン福音国の領土にしたいのですよ」

鯉淵、口が曲がる

「よくもまあ言うわね、もう駆け引きしているのでしょう、全米連邦も内心穏やかではないわね」

広瀬、揚々と

「ミス鯉淵、何を仰る 全米連邦も反米レジスタンスを慌てて鎮めさせ大陸統一を進めたかと思えば、第三帝国がこことぞばかりに筆頭、北米の復興も必死な中、徳の有るシオン福音国に統治願いをする位は容易い筈ですよ、この話呉々もご内密にして頂きたい」

鯉淵、目を細め

「ふん、最後にやっと出て来て統治なんて、チリ州の方に失礼よね」

広瀬、尚も

「失礼も何も共存ですよ、何より鯉淵臨時州知事あなたの貢献度は筆舌にし難い、密かに勲章を授ける準備は整っています」

鯉淵、憮然と

「密かね、第三帝国に深入りしすぎたって事かしら、シオン福音国も体面を気にする様になったのね」 

広瀬、制する様に

「いいですかミス鯉淵、シオン福音国は今も尚綱一本の上を脂汗を垂らしては必死に前に進んでいます、戯れ言は私の前だけでお願いしたい」

鯉淵、尚も

「必死ね、シオン福音国も」

広瀬、凛と

「よろしいですか、ミス鯉淵 砂漠化が進行しウズベキスタン・カザフスタン・モンゴル等々の様にシオン福音国もみすみす亡国になれとでも すでに旧アラビア領内は人間が仲良く暮らすには過酷な環境の元で狭く困難です、どこに住めと、地中海域まで人が移り住めば、また新たな戦いを生みます これは本国の総意です、チリ州が新たな希望の地たらん事を望みます」

鯉淵、事も無げに

「いざ現実になると目眩しそうよ いい南米地域の立ち回り的に、チリ州の名前は絶対変えないわよ」

広瀬、顔色も変えず

「それはごもっともです、しかし先の事は誰にも分かりません」

鯉淵、首を振り

「さて、チリ州だけでは足りなさそうね」

広瀬、くしゃりと

「私達の代で事が済むとは思いませんが、まずは橋頭堡たるチリ州です、もちろん更なる発展をお約束しますがね」

鯉淵、足を組み替え

「いい、今の私は臨時州知事よ、只の繫ぎよ」

広瀬、渋々と

「やはり州知事の椅子が欲しいですか、検討はしましょう」

鯉淵、鼻息も荒く

「いらないわよ、私はサポートで結構」

広瀬、従容と

「やはりそう来ますね ご心配無くミス鯉淵のご気性は存じています 丹波筋からミスター保科の指名が有りましたから、州知事はそれで当面行こうと思います」

鯉淵、くすりと

「ふっつ、保科さんを中繫ぎと思いでしょうが、当てが外れるわよ」

広瀬、破顔

「そのご様子ですと、ミス鯉淵、本気を出されますか 死海のリゾートホテルで長いひとときかとどきどきしましたが、実に良い」

鯉淵、憮然と

「それ、かなり失礼よ とは言え、良い提案だわ」

広瀬、感服しては

「これは私とした事が ですが、お時間が空いたら何時でもお申し付け下さい、自由になる部屋は常時用意しています」

鯉淵、尚も

「心に留めておきましょう まずは公国会議のお姉様方に吐き出させましょうか 工場を幾つか建設、そろそろ近代化に着手しないと、チリ州内の経済消費が高まらないわ」

広瀬、手を組んでは

「そこは、清貧が何たるかを理解せねばなりません ミス鯉淵の手腕ではチリ州内で一気に金回りが良くなってしまいます、ここは暫しお待ちを」

鯉淵、ソファーに背中を預ける

「これだからシオニストは」

広瀬、照れ笑いも大仰に

「はは、」徐に立ち上がり、ハンガーから黒帽子を取る「さて、ヒトラーをユーロへ連行をしないと、先を急がせて頂きます」

鯉淵、呆れ顔で

「ねえ、ブロンドのヒトラーなんて誰が信じるの」

広瀬、毅然と

「過去の幾人かのヒトラーとDNAは一致しています、問題有りません」

鯉淵、凛と

「本物が誰か、世界中が騒然となるわね」

広瀬、襟を正し

「生きた証言が得られるなら、些細な事です」

鯉淵、澄まし

「まあいいわ、ここは水掛け論になるわね、但し、」

広瀬、矍鑠と

「勿論、全米連邦の協力あってこそのヒトラー逮捕です」

鯉淵、切に

「そこ、ローマ参画政府もでしょう、ここは渡りを付ける為にも大切よ」

広瀬、苦笑しては

「あいつらが、証言台に上がって来た試しが有りますか」

鯉淵、逡巡しては

「それもそうね、だけど配慮はお願いするわ」

広瀬、ステッキを手に取り一礼

「勿論です、今では堂上さん米上さん共に既知の仲です しかし配下の報告より、昨日のサンティアゴ騒乱から姿を見かけなくなったとかでして さて、上家衆の全米班もチリ州の収拾もせずいなくなったのでは困りますな ここは僭越ですが、お役目を代行しましょう」口角が上がる

鯉淵、溜息

「呆れた、本当に抜け目無いのね、きっとどこかで痛い目見るわよ」

広瀬、矍鑠と

「いえいえ、何せ変奏曲ですよ、幾らでも無理は聞き入れもしましょう」

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