事件の謎
「なるほど、あなたたちで犯人を捜すね」
村から帰ってきた後、俺たちはその足で先生の診療所へ向かい、決めた決意について伝えた。
「はい。だから先生に事件のことについて聞きたいんだ、です」
犯人を捜すと決めた以上、まずは情報を集めないといけない。なので俺はまず昨日事件のことについて教えてくれた先生にもっと詳細な情報を聞き出せないか、そう思ってここに来た。
「事件のことね。話してあげたいのは山々なんだけどいかんせん私も事件当時ここにいたわけじゃないからね。知っているのは公に開されている情報くらいなのよ」
「そう、ですか」
俺は少し肩を落とす。先生ならいろいろ知っているかなと思ったんだけど。
「でも、先生前に言ってましたよね? あの事件はおかしいって」
「なんだ、聞いていたの。なるべく君の前ではあの事件のことは言わないようにしてたんだけどね」
「そうだったんですか……すみません、気を使わせてしまって」
「別にいいわよ。私が勝手にそのことについて敏感になっていただけだから」
とは言うけど、きっと雪歩が事件のことで傷つかないように気を利かせていてくれたんだな。結構いいとこあるじゃん。
「それで、おかしいって一体なにが?」
「ええ。『不老の民』を研究する者として、あの事件についても出ている情報からいくつか私なりに考えてみたのよ」
「そしたらおかしなとこがある、と?」
「そうよ。私なりにまとめた結果、三つおかしな点を見つけたわ」
そう言って先生は指を一本立ててこちらに向ける。
「まず第一に犯人はどうやって村民を全滅させたのか?」
「え? それは複数人で村を襲ってとかじゃ……」
「そうね。普通一晩で村を全滅させるとしたらそれくらいは必要よね。でも警察が調べた結果、村の中には凶器どころか村人以外の靴跡もなかったのよ」
「なっ!?」
足跡がない? それじゃ犯人はどうやって村の人たちを殺したっていうんだ?
「さっきも言ったけどに死因は刺殺や絞殺など様々。だけどその凶器もなく、道にも家の中にも犯人の足跡一つない。そんなの死神に殺された、とでも言うしかないわね」
死神……確かに状況からしたらそんな非科学的なことを信じるしかない。
「そして第二に、どうして電話が繋がったのか?」
電話?
「そりゃ電話は繋がるでしょう? いくら山奥にある田舎だって電話回線くらい繋がってなきゃおかしい」
「ええ、そうよね。でも問題はそこじゃない」
「そこじゃない?」
「そう。なぜ犯人は電話するだけの機会を与えてしまったのか?」
電話する機会?
「あれだけの事件よ。かなり前から計画を練られていたはず。だったら最も気をつけなければならないのは警察への通報のはず。事実、普通なら何本通報きておかしくないほどの事件なのに実際来たのは一回だけだった。でもその一回だってなければ事件の発覚はもっと遅れていたはず」
言われてみればそうだ。事件の発覚が遅れれば遅れるほど、犯人は証拠隠滅と逃亡時間が確保出来る。被害者たちからの通報は最も警戒しなければならないもののはず。
「むしろ村へ繋がる元の電話線を切るなどの方法もあったはず。なのに犯人はそれを行わず、ましてや通報されるというミスとも言える行為をさせてしまった。それはなぜなのか? それが二つ目の謎」
そしてこれが最期。そう言って先生は指をもう一本立てて三本にする。
「三つ目は……今あなたの目の前にあるわ」
「え?」
俺の目の前って、今俺の前にいるのは先生と、そして斜め前で椅子に腰かけている雪歩……!?
「気づいたようね」
そう言ってゆっくり頷く先生。
「私が見つけた三つ目の疑問点。それは、雪歩、あなたよ」
「え? わたし?」
先生に言われて不意を付かれたみたいにきょとんとした顔で驚く雪歩。
「あの事件で村の人は皆殺された。老若男女関係なく全て。でもその中で唯一あなただけが生き残った」
そうだ。村の人が皆殺されたのに雪歩だけは救われた。赤ん坊だった雪歩だけが。
「意図的に生かされたのか、それとも単に見逃したのか。どちらにしろ雪歩、あなたが生き延びたのにはなんらかの理由がある」
先生が明かした三つ目の疑問点、そこに事件の謎を解く何かがあるだろうか? 今の俺には何もわからない。でも何か重要なことがあるような気がしてならない。
雪歩が殺されなかった理由。もしかしたらそこには俺でも考え付かないような大きな理由があるのかもしれない。
「以上が私なりに考えたこの事件の疑問点よ」
そう言って先生は話を締めた。
「わたしが、生かされた理由……」
話を聞き終えて、雪歩がポツリと呟いた。
「ごめんなさい、急にこんなこと言って。やっぱり動揺するわよね」
「あっ、いえ、大丈夫です。そのことについてはわたし自身ずっと気になっていたことですから。むしろ全部話して頂いてありがとうございました」
そう言って雪歩は先生に頭を下げる。
「……強いのね。いつの間にそんなに強くなったのかしら。昔はあんなに泣き虫だったのに」
「ちょ、ちょっと先生! 何いってるんですか!」
「あら? 本当のことじゃない」
「た、確かにそうかもしれないですけど、別に今言わなくたって……」
雪歩は顔を赤くさせながらチラッと俺の方を見た。今の話を聞いて俺がどう思っているか気になったのだろう。個人の過去ほど他人に聞かれて恥ずかしいものはないからな。
「ほう。私の知らない間に随分と仲良くなったみたいね」
意味ありげに笑みを浮かべながら俺と雪歩を見る先生。
「べ、別に仲が良いとかそういうのじゃ……ただ、お母さんのこと知っている人に会ったの初めてだから、興味はあります」
「興味、ね。まあ、そうか。そういうことにしておきましょ」
何か言いたげな感じだったがそれ以上先生は何も言わなかった。
「それで、これからどうするの? 事件のことを調べるのでしょう?」
「はい。とりあえず図書館に行ってみようかと思います」
「図書館ね。悪くない、堅実な選択ね」
先生は納得と言った感じで頷く。
「じゃあわたしたちはこれで、お話ありがとうございました」
ぺこりと頭を下げて雪歩は出口の方へ向かう。俺も頭を下げてからその後に続く。
「あっ、ちょっといい?」
と、背中を向けたところで先生に呼び止められる。
「なん、ですか?」
「いや、どうってころはないんだけど……雪歩を頼むわね」
先生はそれだけ言って机の方を向く。
「……はい」
俺も返事だけをして出口に向かう。
彼女はいろんな人に愛されているんだな。そんなところまで雪菜にそっくりだ。
なんてことを思いながら俺は診療所を後にした。
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