死を切り裂く双剣(ただし活躍していない模様)③

 冒険者組合を出てンフィーレアの店に向かう準備をする。街の人々にとって冒険者はやはり興味の対象なのであろう。組合の前には人だかりが出来ていた。だが、いつもこれほど人数が集まっている訳ではない。噂話が彼らを呼び寄せていたのだ。

 何でも凄い魔獣がいるらしいぞ。とびきりの美人の姿を見たぜ……等々。アインズについては、高そうな鎧を着たヤツがいる、程度である。

 この世界でも人間は中身ではなく外見で人を判断してしまうらしい。最も、鎧の中身白骨死体を見られると非常に不味いことになるので、ここは広い心を持つべきであろう。


 周囲からの注目を集めながらアインズはハムスケに近寄ると、颯爽と飛び乗った。家族づれやアベック(死語)御用達の遊具に、いい歳こいた男が一人で乗る様ではあるが……そこでアインズの脳裏に、裏も表もそもそも脳自体がないが、浮かぶ物があった。

 アインズは死の支配者である。死に関しては一家言あると言っても良いだろう。そう、死語に関しても。アベック、それは男女の二人連れを意味する和製フランス語で、検索の時点で候補にが出てくるまごう事なき死語であり、アインズの得意分野であった。


 男女二人……この場合の男はもちろんアインズだ。そしてここに女の子が存在するではないか。

 当たり前のことではあるが、ハムスケのことではない。そもそもアインズはハムスケがメスだとの認識を持っていない上、人なんて数え方はしていない。

 そう、ルプスレギナだ。こちらもたまに人と数えない時があるが、それは今だけ無視しておこう。

 皆がうらやむ美人と共に馬……ではなくハムスターだが……に騎乗する。なかなかシチュエーション的に美味しいのではないだろうか?こんな役得有っても良いよね。


「ルプーよ、一緒にハムスケに乗るのだ」

 こう命令すれば(まだ言っていない)ルプスレギナはハムスケに乗るであろう。だが、権力を振りかざして強制とはいかがなものだろうか?

「ルプーさん、一緒にハムスケに乗って貰えませんか?」

 鈴木悟的にはこちらで行きたい気分である。だがどちらにしても女性に対して、それも少々ながら下心のある要望を伝えるのはなかなか度胸がいるものだ。そんな事だから実戦使用しないまま(ry


 ……逆にルプスレギナの方から乗りたがるように仕向けるのはどうだろう?

「ハムスケの乗り心地って良いなー」

 とでも言えば、何でもかんでも興味を持つルプスレギナなら、ホイホイと食いつくのではなかろうか?乗ってみるか?と誘導すればもくろみ通りとなるであろう。

 よ、よし、アインズが心を決めた時であった。


「のぉ。おぬし……」

 ンフィーレアの祖母がアインズに声をかけた。

「……」

 完全にタイミングを逸したアインズが硬直する。ハムスケをメリーゴーランドの馬に見立てて、ちょいと良い気分になろうとしたのがご破算である。

 その代わりにルプスレギナが応答する。

「ンフィーちゃんのおばあちゃんっすか!こんばんはっす~」

 ルプスレギナの人当たりの良い一面が遺憾なく発揮される。

「元気で可愛らしい子じゃな」

 アインズを除いた三人がそれぞれ挨拶をしていた。


 女三人寄れば姦しいとは言った物である。魔獣(メス)とか、人狼とか、枯れ切ったばあさんとか、カウントの内容に疑義が生じるだろうが、一応皆だ。

 この魔獣が伝説の森の賢王とは!と大音量で驚き周囲を沸かせたり、いまからお店に向かうから、のタイミングでお腹を鳴らして夕飯の約束を取り付けたり、あげく「よかったっすね、ハムスケちゃん。お腹の虫を鳴らしたかいがあったっすね」とそれをハムスケになすりつけたり、ともかく賑やかであった。

 そして飲食不要の指輪は不良品だった様子だ。GMコールが通用するなら運営に苦情を入れるところであろう。


 リイジーを加えた一行が、なんやかんやで店に到着する。

 店に入ろうとするリイジーであったが、様子がおかしいことに気づく。リイジーは無用心な戸締まりに、アインズは三体のアンデッドの反応に、ルプスレギナは漆黒の剣の四人が全員死亡し、ンフィーレアが誘拐された事に。


「えっ?」

 アインズが厄介だとつぶやき、応じたルプスレギナから小声であらましを伝えられて、思わず声を漏らしてしまったのだ。

 リイジーが店内へと先走ろうとするため、アインズはとりあえずグレートソードを構え、店の奥へ……アンデッドの反応のある方向へと進む。

 勢いよく扉を開けると血なまぐさい現場を目撃することとなる。ルプスレギナの言うとおり四人は詳しく確認するまでもなく死亡していた。

 そして、アインズの能力が示したとおり、ペテルが、ルクルットが、ダインがゾンビとなって襲いかかろうとしてくる。だが、鈍い動きのゾンビなど敵ではない。アインズの振るうグレートソードが彼らに今度こそ覚めぬ眠りをもたらす。


「ンフィーレア!」

 ここにいない孫を求めてリイジーが別室へ駆け出していく。このような凄惨な場面に出くわして、孫を心配しない者がいるであろうか。だが油断は出来ない。自身のスキルによってアインズは他にアインデッドがいないことは確認しているが、生きている者の反応は分からないのだ。他に何者かが潜んでいる可能性があり、リイジーを一人で行動させるのは危険であろう。ルプスレギナに護衛をさせよう……まで思い立ち、手っ取り早く解答を聞くこととした。

「ルプーよ、他に何者かがいる気配はあるか?」

「私たち以外には誰もいないっす」

 はい解決。リイジーは適当にほっておいて良いだろう。


 それよりも、ここでやるべき事がある。現場検証じみたことだ。ニニャは唯一ゾンビになっていない。しかし、それはとても幸運と呼べる物ではなかった。

 激しい拷問を受けたと思われるニニャは、他の三人に比べるまでもなく酷い有様であった。そして実はニニャが女の子だったと初めて知るアインズ。そんな事だから実戦使用しないまま(ry

「……少しだけ……不快だな」

 かなり不快な調子でアインズがつぶやいた。


「……うぅん……」

「んーー」

 少し離れたところからうめき声……いや、寝ぼけ声が聞こえてくる。その方向に目をやると、ペテル達が気怠そうに両手を伸ばしたり、寝ぼけ眼をこすっていた。

 覚めぬ眠りをもたらしたはずだったのに、またも目が覚めた模様。そして目の前のニニャもそれに続いた。

 アインズには何が起こったか、誰が起こしたか瞬時に理解した。そしてその張本人は満足そうに頷いている。もちろん悪びれた様子は一切ない。

 以前アインズがカルネ村で死者を蘇らせたら、どんな厄介ごとに巻き込まれるかと想像していたが、ルプスレギナにはそのような想像力は持ち合わせていなかったのだ。他にも配慮や警戒心、用心深さもない様子。


(どうするんだよこれ……)

 今更なかったことにも出来ないアインズ。こうしてチーム漆黒の剣は再結成(?)となるのであった。

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