森の賢王(VS狼の女王 まるで頂上対決!)③
アインズ達は森から出ると、ゲットしたての森の賢王を皆にお披露目することとなった。
アインズからすればただ大きいだけの愛玩できない愛玩動物に過ぎない上、森の賢王を詐称する巨大ハムスターであったが、ンフィーレアと漆黒の剣の皆はその森の賢王に恐れおののいていた。なお、森の賢王まで詐称しているとは、アインズは知るよしもない。
漆黒の剣の面々はンフィーレアを守ろうと身構えるが、おそらく無駄な抵抗になるだろうと表情は暗い有様ですらある。
「私の支配下に入っておりますので、決して暴れたりすることはありません」
私の支配下を強調するモモン。ルプスレギナとこのハムスターとは口裏を合わせてある。戦士モモンが活躍し森の賢王を屈服させたと。
このハムスターは実のところルプスレギナのご飯になりかけていて、それを止めさせた事でモモンに従っている、だなんて言えない。絶対に知られる訳にはいかない。
アインズがハムスターの体を撫で回してやる。それでもおとなしい様を見せつければ、皆は納得するだろう。
続いてルプスレギナがハムスターの体を舐め回……ではなく、一応撫で回す。ハムスターの毛が逆立つのがアインズには感じられた。相当に怖がっているのであろう。しっぽは治療されたが、心までは完治には至っていないのか。
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食べて治療を繰り返せば永久機関っす!と閃かれたが、そのような実験はデミウルゴスに別の者を利用させてやらせておくと言って聞かせて止めさせる。
実行に移したらハムスターが再起不能になるのは間違いないからだ。
ンフィーレアと漆黒の剣の皆は、噂に聞く森の賢者に対して驚愕し、凄いとか立派とか強大とか、とてもこのハムスターと
そしてそれを従えたアインズを賞賛している。実際には従っている相手は完全にルプスレギナである。いいもん、そのルプスレギナを従えているもん。
さんざん褒め称えられるハムスターなのではあるが、その目を見ても、(目だけに)どうひいき目に見ても英知のひとかけらも感じられないアインズ。試しにルプスレギナに聞いてみることとした。
「ルプーはどう思う?」
「美味しs……」
ルプスレギナのいつもの発言を口封じ(物理)するアインズ。質問を投げかけた方が悪い。
「雄々しい……確かにそうですね」
ペテルがルプスレギナの台詞を引き継ぐ。もちろん勝手に都合良く解釈してだ。一体この世界の翻訳システムはどうなっているのだ?アインズは見知らぬ世界の成り立ちに対して懐疑的にならざるを得なかった。そしてルプスレギナはやっぱりいつもの調子であった。
自身と人間達との認識の差に唖然とするアインズであったが、ルプスレギナ立ち位置はアインズよりであった。アインズを軽く飛び越えている気もする上、喜ばしいことかは熟考する必要があろうが、考えるのは止めておこう。
「あの……」
ここで今までと風向きの違うンフィーレアの問いが投げかけられた。この森の賢王を使役する魔獣として連れて行ってしまった場合、これ幸いとばかりにモンスターが暴れ、このカルネ村に危機が訪れるのではと。
ぶっちゃけ襲われすぎの村なので何もないと油断はとても出来ないし、今度襲われればトドメになるかもしれないとアインズは考える。さすがにそれは後味も良くなく、わざわざ助けた村で友好関係を築けた村なのにもったいない。
プレアデスの一人、ナーベラル・ガンマをカルネ村に派遣するのが良いだろう。彼女であればルプスレギナと違い真面目に仕事をするであろうし、間違っても人間となれ合うことはなかろう。
アインズはこうして人名を覚えられない者を人間の村に送り込むという、とんでもない人選ミスとなるのであるが、それはまた別の話である。
カルネ村で一泊する……これにはアインズは含まれていない。ここでわざわざ時間をつぶす必要性はないし、ナザリックに帰還しその運営がどのようになっているか、そろそろ確認しておきたいところであるからだ。
エ・ランテルでの一泊、カルネ村への道中での一泊、共にルプスレギナに絡まれていてナザリックのことは放置してしまっていた。
……まぁ、しょうがないよな。寝ぼけているルプスレギナを放ってはおけないし。
今回はルプスレギナをナザリックへと連れて行こうとも考えたアインズであったが、緊急事態等が発生し、その際に誰もいないとなると大問題である。
何かとイベント多発、それも襲撃され系てんこ盛りの物騒なこの村である。目を離した隙に滅亡していました。かなりあり得る話である。
この村を間接的ながら救った魔法のアイテム
早速ナーベラルを呼び寄せるのも手なのではあるが、何故か漆黒の剣の連中、特にルクルットとエンカウントさせると人死にが発生する予感がするので止めておこう。
となれば、やはりルプスレギナに留守番をさせるのが一番手っ取り早いであろう。
幸い……もちろんこの村にとっては不幸なのだが、先の襲撃によって大勢の村人が犠牲になり、住民を失った家屋は十分にある。漆黒の剣のチームとアインズ達のチームそれぞれに良さそうな空き家を見繕うことが出来た。
各家に分かれて夕食を取ったので、今回もアインズが飲食不可なのがバレずに済んだ。約一名がルプスレギナと一緒に食事をしたいと大騒ぎしたが、ペテルの処理は手際が良かった。アインズもこれくらいルプスレギナをうまく扱いたいものである。
食事も終わりアインズはナザリックに帰還する用意を調えた。外から探られないように家中のカーテンを引いておく。いくつかの偽装も施した。モモンが姿を消したとしてもバレないであろう。
とはいえ、ルプスレギナ一人を残すのは、なかなかにアインズの心配をかき立てさせる状況である。
好き勝手させてしまうと、ある村に見た目が人の中身オオカミが紛れ込み、夜な夜な村人が食い殺される、そんなルプスレギナの種族名を冠したゲームが始まってしまいそうである。なお、最初の犠牲者はハムスターなのは確定事項であろう。
人間に(およびハムスターに)ちょっかいをかけないことは言い聞かせておけば良いだろうが、逆に人間側がルプスレギナにちょっかいをかけた際の対処が悩ましい。
ルクルット辺りが食べ物でルプスレギナを釣ろうとするのがあり得そうだ。もちろん他の人間も油断は出来ない。
誰にもこの家に入れさせないようにすべきであろう。非常時にはルプスレギナからアインズに連絡を入れさせ、その後アインズが判断すれば問題に対処できる。
「ルプスレギナよ。私は朝方に戻ってくるが、それまでこの家には誰も入れるな。よいな」
「はいっす」
近いシチュエーションが童話にあったのを、ふと思い出すアインズ。登場人物は皆動物で、母親が街に出かけるために子供達に留守をお願いする話だ。
母親が「誰が来ても、決してドアを開けてはいけませんよ」と注意する、敵役は狼であの手この手で子供達を騙し、ドアを開けさせて襲いかかる内容であった。
……あれだ、童話の『狼と七匹の黒い仔山羊』だ。
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いや、黒ではなく白い山羊だった。実際には狼なのに、子ヤギを騙すために手を白くして母親を騙ったのだから白くなければいけない。
母親山羊役となり、目の前の狼っ子に狼に注意するかのごとく言って聞かせるアインズ。微妙におかしな話であるが細かいことは今更気にしない。
こうしてルプスレギナを残してアインズはナザリックに帰還するのであった。
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