にごたんGW2
世界を染めて
にごたんGW2
【グリザイユ】【最高速の】【ハッピーエンド症候群】【リフレイン】
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もしこのまま心臓が破裂してしまっても、それはそれで良いんじゃないかと思った。
だってもう、走り続けることに、疲れてしまったから。
そんな心とは裏腹に足は地面を蹴り続けて、そして、君を追い掛ける。
でも、でも。
いつまでも追い付けないのだ。
私がどんなに速く走っても、君はもっと速く走っていってしまう。
走る。
走る。
走る。
世界がただただ、速く流れていく。
「あ、隣の席? 宜しくな」
そう言って笑った君は、明るくて爽やかでカッコ良くて、一言でまとめてしまうなら少女漫画のヒーローみたいな人だった。
地味な私にも笑って声をかけてくれるところなんて、本当に少女漫画みたいで、私はヒロインみたいに、恋に落ちた。
けれど現実は少女漫画みたいになんかいくはずがなくて、いつまで経っても君は遠い人のまま、隣の席の奴でしかない。
でも私は、それで良かったのだ。
だって私はヒロインなんて柄じゃなくて、背景にもなれないような、ただの空気だったから。
隣にいられるだけで幸せ――自分でも健気だなぁと思うけれど、本当にそう考えていた。
まぁ、席替えなんかすぐにやってくるから、そんな幸せな時間も、ただただ速く流れていくだけなのだけれど。
席が離れてしまって、一学期が過ぎて、嬉しいような憂鬱なような夏休みが過ぎて、二学期が、冬休みが、三学期が、過ぎる。
私達はもうすぐ、進級する。
クラス替えがあるから、君とは離れ離れになってしまうかも知れない。
もう二度と隣の席になることはないかも知れないと思うと切なくて、四月なんか来なければ良いと思うのに、勝手に時間は過ぎていく。
春休み、憂鬱な気分でベッドに寝転ぶ私のスマホが知らせたのは、クラスの連絡網代わりになっているラインの新着メッセージだった。
通知欄から覗いたその冒頭部分にあったのは、君の名前。
飛び起きて、ライン画面を開いて、そして、スマホを取り落とした。
――こうつうじこ?
繰り返すのは浅い眠り。
繰り返すのは悪い夢。
グリザイユの世界を君が走っていく――私は君を追い掛ける。
突然鳴り響くのはクラクション――私は君に手を伸ばす。
吹き飛ばされる――止まる世界。
飛び散る赤――グリザイユに広がる赤は、世界をリアルに変えていく。
繰り返すのは浅い眠り。
繰り返すのは悪い夢。
グリザイユの世界を君が走っていく――私は君を追い掛ける。
突然鳴り響くのはクラクション――私は君に手を伸ばす。
吹き飛ばされる――止まる世界。
飛び散る赤――グリザイユに広がる赤は、世界をリアルに変えていく。
何度走っても、私は君に、追い付くことが出来ない。
何度手を伸ばしても、私は君に、届かない。
何度、何度、繰り返しても、世界が赤く染まっていく。
ハッピーエンドは、どこにもない。
繰り返す。
繰り返す。
もう、何度目か分からない。
もしこのまま心臓が破裂してしまったら、それはそれで良いんじゃないかと思った。
だってもう、走り続けても、変えられないと分かってしまったから。
だからこそ足は地面を蹴り続けて、そして、君を追い掛ける。
欲しいのは、最高速。
また隣に並べなくても良い、ただ、手が届けば。
私がどんなに速く走っても、君はもっと速く走っていってしまう。
走る。
走る。
走る。
世界がただただ、速く流れていく。
走る。
走る。
走る。
欲しいのは、
――ねぇ、君と一緒に、世界を赤く染めたいの。
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